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カスタムキャストやVカツなどのアバター作成サービスに見る「流行」の存在と課題

2018年10月14日 11:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 先日、dowangoとS-courtから共同でスマホアプリ「カスタムキャスト」がリリースされた。こちらのアプリはモバイル端末上で直感的に美少女のアバターを作成することができ、またニコキャス・ミラティブなどのアプリを経由することで簡単にバーチャルYouTuberとして配信を行うことができる(彼らはをYouTuberと呼んでいいのかは定かではないが)。


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 細かい使い方やレビューなどはすでに多くの記事が投稿されているので省くとして、ここではカスタムキャストを始めとする「アバター作成アプリ」とバーチャルYouTuberの関係について考察を述べていきたい。


 アバター作成サービスと言われれば、筆者がまず思い浮かべるのは「モバゲー」や「グリー」などで使われてきたものだ。デフォルメのキャラクターをパーツごとにカスタマイズし、それらをプロフィールアイコンとして使用するものである。また同時にモバゲーやグリー内のゲームであった「萌えCanちぇんじ!」を思い出す人も多いのではないだろうか。


 こういったオリジナルキャラを作って遊ぶゲームは現在でも根強い人気があり、「ミラクルニキ」などはそのわかりやすい例である。また少し趣向は違うが、「エルダースクロール」シリーズや「モンスターハンター」シリーズなどもキャラメイクが売りのゲームだ。


 「萌えCanちぇんじ!」や「ミラクルニキ」は自分が苦労して手に入れたパーツを組み合わせてキャラクター作り上げ、それらを自慢する、もしくは見て満足するというのが一般的な楽しみ方だが、対して「エルダースクロール」シリーズなどのアクションゲームでは最初から装備以外のメイキングを行うことができ、かつそれらをプレイヤーとして自分で動かすところに楽しさがある。これらに対し、「Vカツ」や「カスタムキャスト」はその”複合”であると言える。つまり「最初からある程度の自由さでキャラメイキングができて、かつそれらを動かすことができる」ということだ。また何よりVRM出力の対応は大きな特徴だろう。


 前述したゲームなどではキャラメイキングに一切互換性がない。そのゲーム内で作成したキャラクターは、そのゲーム内でしか使えない。しかし「Vカツ」や「カスタムキャスト」は作成したキャラクターをVRM出力することにより、VRMに対応したアプリケーションで利用することができる(カスタムキャストに関しては今後実装予定)。また「動画サイトで配信するための機能」が最初から組み込まれているのも特徴である。


 例えばPCソフトであるVカツはトラッキング機器を認識させればソフト上でモデルを動かすことができるし、モバイルアプリであるカスタムキャストはカメラを利用してモデルを動かすことができる。まさに「バーチャルYouTuberになるためのソフト」と言ってもいいだろうし、まさしくそういう作られ方をしている。


 「Vカツ」「カスタムキャスト」の他にも、「VRoid」や「REALITY」、Gugenkaが現在開発中の「Make Avavter」など、アバターを制作できるソフトウェアがここ数ヶ月の間で多数登場及び発表されている。これらは前述した通り「バーチャルYouTuberになるためのソフト」と言っても過言では無い。つまり従来のように「眺めて楽しむ」だけではなく「自ら動かして楽しむ」という目的こそが”流行”になっているわけだ。そしてこの流行にこれらのソフトウェアがマッチする最大の理由は圧倒的なコストの安さにある。


 ここまで紹介したアバター作成ソフトの恐ろしきは全て「基本無料」で利用できる点だ。例えば完全オリジナルの3Dモデルを作るとなった時、それをプロのモデラーに発注するなら一体につき安くて50万~100万前後の予算が必要となる。また悲しいことに、「モデルの流用」によってトラブルが発生するリスクもある。最近では「coconala」という仕事仲介サービスを経由して発注したモデルが、実は別のモデルのパーツを流用して作られていた(著作権を侵害していた)、というケースも実際に起こっている。


 しかし自分で作るとなれば、3Dモデリングに始まり、テクスチャを描くための「絵」の技術や、完成したものを動かすための知識、機材が必要となってくる。なんにせよ、これまでバーチャルYouTuberとしての活動を始めるハードルは非常に高いものとされていた。これを解決しようとしているのが「Vカツ」や「カスタムキャスト」である。


 特につい先日リリースされた「カスタムキャスト」は、ある程度端末のスペックが良くないと利用できないという不便さはあるものの、「手軽さ」と「拡張性」がモバイル端末の中にできるかぎり収まっている。これが実現できたのも、カスタムキャストの”元”である「カスタムメイド3D2」というアダルトゲームがあってのことだろう。カスタムメイド3D2は、アダルトゲームであるからこそ「理想の美少女を作る」という点に凄まじいこだわりがあった。そこからアダルト要素を差し引いてモバイル端末に落とし込むことにより、「とにかく簡単にものすごく可愛い美少女を作る」というニーズに応えてみせている。


 しかし、このシステムにはまだ「齟齬」があると言わざるを得ない。バーチャルYouTuberの流行、という流れからこれらのサービスは誕生し、そしてこれら目をつけた人々の大半は「もう一人の自分」を作り出すことにこそ目的があるはずだ。だが、「Vカツ」も「カスタムキャスト」も、それぞれで「色」が出てしまっている。見る人が見ればどのソフトで作られたのかわかってしまうのが現状だ。


 もちろん開発者側から見ればそこはアイデンティティとして保つべきところなのかもしれないし、最初から明確なのであれば盗作を疑う余地は無い。だが、ユーザーは「アイデンティティを作ろう」としているのである。手軽であれば手軽であるほど、アイデンティティは薄くなってしまう。結局はこれらのソフトに頼らず、完全オリジナルのモデルが欲しくなってくるのは自明だろう。これらと同様のソフトが星の数ほど登場すればある程度アイデンティティは担保されるかもしれないが、まだまだ先の話になりそうだ。


 もちろん、「もう一人の自分を作る」ということ以外にもこれらのソフトは応用が効く。例えばオリジナルのモデルを作るにあたり、その前身や資料を作るにあたって大きな力を発揮するだろう。「Vカツ」などは「kawaiiコンテスト」を開催するなど、独自の盛り上げ方を見せている。しかし、やはり前述した「手軽さ」と「アイデンティティ」の間に発生するジレンマをすっきりと解決する何かがあれば、時代は人類一人一人がアバターを持つ方向へと加速するだろう。


(じーえふ)