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世界規模で音楽起業家を支援 『Techstars Music』キーマンに聞く「いま音楽スタートアップをサポートする意義」

2018年10月13日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 株式会社レコチョクは2017年10月、世界トップレベルのアクセラレーター(起業家支援プログラム運営企業)であるTechstars,LLCが運営する「Techstars Music」の2018年度プログラムに、日本の企業としては初のメンバーとして参画することを決定、同社と契約を締結した。2019年度もメンバー契約を継続している。


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 「Techstars」は2006年設立、米国を拠点に世界規模で起業家支援プログラムを展開。スタートアップを募集~少数精鋭の企業を選抜し、3カ月間の養成プログラムを実施している。期間中、資金やオフィス・スペースを提供、メンバー企業、各分野の専門家など外部アドバイザーからビジネス構築に向けたアドバイスの機会を設け、その後、投資家や専門家を前に成果発表としてプレゼンの機会が与えられる。優秀な起業家は投資家からの資金調達を受けることができる、という一気通貫型・少数精鋭の起業家支援だ。


 そのなかでも「Techstars Music」は音楽分野でのビジネス展開に特化したプログラムで、「新たな音楽体験」「クリエーション&コラボレーション」「マーケティング&Eコマース」「コンテンツ・インフラと配信」「権利関係」「データ・機械学習、AI」「デジタルネイティブへ向けた音楽教育」「技術ベースのアーティスト発掘」「イベントとクラウドの安全性」と多岐にわたるカテゴリを展開。第一回のプログラムでは、応募したスタートアップ企業から選抜された11社に3カ月間の養成プログラムを実施し、2018年5月開催のDemo Day(成果発表)には米国内外の音楽系企業や関係者、投資会社が参加、優秀企業への投資が実施された。


 今回はTechstars Musicのマネージングディレクターであるボブ・モクジドロウスキー氏にメールインタビューを行い、世界の音楽業界におけるテクノロジー企業やスタートアップコミュニティの位置付け、Techstarsが目指すビジョン、ボブから見た日本の音楽業界について、いくつか質問をぶつけてみた。(編集部)


■「世界のあらゆる音楽市場は、テクノロジービジネス化している」
ーー近年、世界の音楽業界では、テクノロジー企業やスタートアップコミュニティからの貢献はどのように評価されているのでしょうか?


ボブ・モクジドロウスキー(以下、ボブ):世界のあらゆる音楽市場は、テクノロジービジネス化してきました。アーティストはオンラインでファンと直接対話し、ファンは音楽ストリーミングでコンテンツを消費します。さらに、音楽を消費していたファンが、自らリミックスを作りオンラインで投稿することで、アーティストになることも可能な時代です。音楽企業が変化を受け入れ、ファンが喜ぶ価値を生み出し続ければ、こうしたオンライン体験の規模はかつてないビジネスチャンスとなります。そして、音楽関連のコンテンツはエンゲージメントが高いため、スタートアップやネット企業は音楽業界と協力関係を構築し、Win-Winになるビジネスモデルを作りたいと考えています。アメリカやヨーロッパでは4年連続で音楽収益がプラス成長しました。この状況は世界中の人々にとってエキサイティングなニュースですよ。


ーーTechStars Musicは、2017年に日本からレコチョクをパートナー企業としてメンバーに迎えましたね。


ボブ:レコチョクはTechstarsにとって非常に大切なパートナーです。なぜなら、レコチョクは日本の音楽業界をつなげる結合組織のような企業で、レコチョクの経営陣は、日本の音楽エコシステムの進化を加速させる必要不可欠な存在です。そして、私たちTechstarsが日本の音楽市場を知るための信頼できる情報源です。また、レコチョクは日本の音楽ファンを理解するために必要な膨大なビッグデータを持っています。これは、Techstarsが支援するスタートアップやメンバー企業にとって、非常に価値ある資産となっていくでしょう。特に、これから日本の音楽ストリーミング市場が成長し価値を生み出していく上でより貴重になっていきます。


ーーTechStars Musicに参加するスタートアップが解決しようとしている音楽業界の課題で、具体例をいくつか教えてください。


ボブ:私たちが支援するスタートアップたちは、音楽の作り方と聴かれ方の新しい方法や、これまでに存在しないライブイベント体験、企業や権利関係者が多種多様なファン体験からマネタイズするための新しい形を開発しています。今、エンターテイメントの世界で最も力を持っているのは消費者です。マーケッターやディストリビューターではありません。この現状は、既存の企業にとって大きなチャレンジとなりますが、同時にビジネスチャンスにもなるでしょう。


ーーTechStars Musicは音楽業界にどのような変革をもたらしたいと考えていますか?


ボブ:私たちは、グローバル規模の巨大な課題に対して革新的なソリューションを開発する企業に投資をするのです。これまで投資した一部の例では、AIと連携した音楽制作ツールや、オフラインでストリーミング再生を楽しむ技術、OSレベルのデジタル・シグナル処理技術、コンサートチケットを販売し追跡できる新しい技術、アーティストやインフルエンサーとファンがつながるコミュニケーションツール、スポンサー契約や消費者データを管理するB2B企業があります。


■「スタートアップにとって意思決定のスピードは必要不可欠」
ーー日本では、音楽業界とテクノロジー業界間での連携や新規ビジネス開発、投資がなかなか定着してきませんでした。一方でレコチョクや2018年にエイベックスがTechStars Musicに参加するなど、流れは変わっています。なぜ、このタイミングで、音楽スタートアップを支援するべきだと考えたのですか?


ボブ:グローバル規模で、音楽ストリーミングサービスへ向けた業界シフトは避けて通ることはできません。その中で、日本の音楽市場は非常に大きな可能性を秘めています。レコチョクやソニーミュージック、ワーナーミュージック、エイベックスなど私たちのパートナー企業は、この2年間で音楽ストリーミングがもたらすビジネスチャンスの規模と、変化の必然性を理解してきた企業です。業界とのコラボレーションが利益を生み出す。それはTechstarsでの哲学でもあります。


ーー今後の成長に期待している音楽業界向けのテクノロジーがあれば教えてください。


ボブ:人工知能(AI)は、業界や経営者が考えている以上に変革を起こす可能性があると私は考えます。そしてAIが生み出すビジネスチャンスを掴むのは、A&Rやオーディエンス開発、マーケティングに長けた音楽企業だと思います。


ーーTechStars Musicやアクセラレーター・プログラムに対する海外のレコード会社や音楽業界の方のかかわり方を教えてください。


ボブ:私たちのプログラムでは、300人以上のメンターたちがスタートアップ支援のために、時間を惜しみなく提供してくれています。メンターには、現役アーティストや企業のCEOなどもいますし、多くは副社長やシニアレベルの役職にいる人たちですよ。メンターたちは、支援するスタートアップが概念実証や試験的ビジネスを行いたい際に、上司の許可を取ることなくゴーサインを出して欲しいというルールがあります。スタートアップにとって、意思決定のスピードは必要不可欠だからです。また、その場で支援した企業や経営者が、スタートアップと最も友好的な関係を構築することもあるのです。


(ジェイ・コウガミ)