トップへ

Appleがオリジナル動画の無料配信を計画中? “動画のSpotify”の誕生か

2018年10月13日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 「若者のテレビ離れ」が叫ばれて久しい今日、Netflixのような有料動画配信サービスの台頭に見られるように、動画市場の変化が著しい。こうした動画市場に、ついにあの時価総額1兆ドルを超える企業が参戦する、という知らせが届いた。


(関連:Google「Pixel 3/3 XL」を発表 先進的カメラ機能で“iPhoneキラー”となるか?) 


■Appleが動画配信市場に参戦?
 アメリカ大手総合メディアCNBCは、11日、Appleが自社制作の動画コンテンツを同社製品の所有者に無料で配信することを計画中、と報じた。この報道の情報源は「この問題に精通した関係者」とされているが、無料動画コンテンツを視聴するには同社純正のTVアプリを使うことになる、とも伝えている。


 さらに(テレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』を配信している)HBOのような有料テレビチャンネルの動画も、TVアプリから視聴できるようになるようだ。つまり、このTVアプリさえあれば、多数ある有料動画サービスアプリをインストールすることなく、各メディア会社が提供する動画を視聴できるようになる。


 以上のような構想にもとづいて、同社は件のTVアプリに動画を提供する各メディア会社と交渉をすすめている、とのこと。この交渉を担当しているのが、2016年に同社に入社したピーター・スターン氏だという。同氏はかつてアメリカ有料チャンネル市場で2位のシェアを占めていたタイム・ワーナー・ケーブルで最高執行責任者を務め、2015年における同社の売却を取りしきった敏腕として知られている。


■目指すは「動画のSpotify」か?
 US版TechCrunchは、Appleが動画配信サービスに参入するという報道に関する考察記事を公開した。Appleの狙いは、まずは自社製品にプリインストールされたTVアプリに(性的表現や暴力表現を抑制した)万人が視聴可能な無料動画コンテンツを配信して、ユーザにTVアプリで動画を視聴する習慣を身につけてもらうことにある。ついで、有料動画コンテンツも配信して収益を上げる。有料といっても、現在Netflixが設定している金額よりずっと安い価格となると推測される。


 以上のようなビジネスモデルは、無料プランと有料プランを用意して音楽ストリーミングサービスに先鞭をつけたSpotifyに通ずるものがある。それゆえ、考察記事が正しいとすると、同社は「動画のSpotify」を目指している、と言うことができる。


 考察記事では、こうした動画配信サービスはSiriと親和性が高いことも指摘している。「Siri、○○の最新話を見せて」と話しかければ、ユーザが望んだ動画が見れる、というわけである。


 Apple専門ニュースメディア『MacRumors』は、同社がオリジナル動画の制作費として10億ドル(約1,100億円)をすでに費やしている噂があることを報じている。さらに、Apple TVに関するまとめ記事において、制作中とされているオリジナル動画をリストアップしている。そうした動画には、1980年代にアメリカで放送され、スピルバーグ監督が制作に参加したことでも知られているテレビドラマ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』の新エピソードが含まれている。


■成長する有料動画配信サービス市場
 近年台頭してきた有料動画サービス市場は、今後も成長することが予想されている。アメリカの調査会社Transparency Market Researchが発表したレポートによると、2017年における世界の有料動画サービス市場の規模は約400億ドル(約4兆5,000億円)なのだが、年平均成長率が9.3%で成長を続けると予想されており、2024年には約740億ドル(約8兆3,000億円)となる。地域別の市場規模は北米がもっとも大きく、ヨーロッパ、アジア、南米、中東およびアフリカと続く。今後大きな成長が見込まれる地域は、人口の多い中国とインドを含むアジアとされている。


 同市場の日本の動向に関しては、2017年12月、調査会社ICT総研がレポートを発表している。2017年末における有料動画配信サービスの利用者数は1,440万人であり、2020年末には2,010万人に増加すると予想されている(下の画像参照)。また、PCユーザの67%が無料あるいは有料の動画サービスを利用しているが、2016年の74%から低下している。対して、スマホユーザの61%が何らかの動画サービスを利用しており、2016年の54%から上昇している。この調査結果から、動画サービスの利用デバイスはPCからスマホに移行しつつある、と言える。


 以上のように成長が見込まれている有料動画配信サービス市場に、Appleが自社制作の無料動画コンテンツを伴って参入した場合、市場の大改編が起こるかも知れない。


(吉本幸記)