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阪本奨悟が届けたファンに対する真摯な思い ワンマンツアー追加公演を振り返る

2018年10月12日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 シンガーソングライターの阪本奨悟が9月29日、東京・ラフォーレミュージアム原宿にて『阪本奨悟 ワンマンツアー2018 SPROUT~綿毛の宴~』の追加公演を行った。


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 本ツアーは、7月にリリースされたのメジャーデビューアルバム『FLUFFY HOPE』を提げ、8月4日の大阪・ABCホールを皮切りに東名阪で行われたもの。ファイナルとなったこの日はチケットも完売。台風24号の影響による悪天候にも関わらず、会場には女性を中心にたくさんのファンで溢れかえっていた。なお、音楽チャンネル『MUSIC ON! TV(エムオン!)』TVによる生中継も行われるとあって、普段のライブとは別の緊張感と高揚感が、会場内に漂っていた印象だ。


 定刻が過ぎ場内が暗転すると、エド・シーランの「Castle On The Hill」が大音量で鳴り響く。サポートメンバーの赤堀眞之(Ba)、遠藤タカヒロ(Gt)、宗本康兵(Key)、アキラ(Dr)がステージに上がり、ステージ後方のスクリーンにオープニングムービーが流れ出す。続いて阪本が現れ、フロアに向かって満面の笑みを携えながら手を振ると、大きな歓声が上がった。


 まずは同アルバムのリード曲である「夏のビーナス」から。「ファイナル、楽しんでいきましょうか!」と叫び、抱えたアコギをかき鳴らしながら伸びやかなボーカルを披露する阪本。まっすぐ前を見据え、言葉の一つひとつを確かめるように歌うその姿に胸が熱くなる。そして、それに応えるように、サビではオーディエンスのウェーブが巻き起こった。


 「もっともっと、盛り上がっていこうぜ!」と呼びかけ、間髪入れずに「しょっぱい涙」。サポートメンバーによる太い16ビートのグルーヴが、音源とはまた一味違う躍動感を生み出している。アルバム『FLUFFY HOPE』のタイトルにちなんで、「1曲1曲を大切に、僕の歌を、メッセージを、綿毛を届けるつもりです」と笑顔を見せ、「次の曲で、皆さんが帰る頃には晴れていることを祈って……」と言いながら、インディーズ時代のミニアルバム『Fly』から「I Never Worry ~虹の向こうへ~」を披露。清々しいピアノをフィーチャーした、切なくも爽やかなメロディが会場いっぱいに広がった。


 続いてジョン・メイヤーを彷彿とさせるような、アコギのスリリングなリフに導かれた「オセロ」。抜けるようなファルセットボイスが官能的だ。続く「カラカラな心」は、握りしめた拳を前に突き出したり、胸を手で叩いたりしながら体全身で表現するように歌い上げた。その、緊張感溢れるパフォーマンスに、会場からは大きな拍手が鳴り響く。


 「こんなきれいな景色だと思っていなかったです。3分の1くらいしかお客さん、いないんじゃないかなと思ってました」などと自虐ネタで笑わせ、「ところで皆さんは、恋をしていますか?」と問いかける。手を上げる人が数人……という状況に、「そうですか。次の曲はラブソングなので、ここにいるほとんどの人には届かないかもしれないですけど」とさらに冗談を重ねると、会場は大きな笑い声で包まれた。14歳で俳優デビューし、その後シンガーソングライターに転身。下積みを重ねてきただけあって、観客の心をしっかりと掴んでいる。


 そして歌われた「下手くそなLOVE SONG」は、作詞がTEE、作曲が杉森夕栞という他作家からの提供曲。阪本の作る、ちょっと頼りない“むっつり系”男子とはまた違う、“壁ドン系”男子が主人公の歌詞で、アコギを持たずにハンドマイクでパワフルに歌う姿が印象に残った。


 ここからは、阪本の弾き語り。ルーパーを使って自分の声をリアルタイムで次々と重ねたり(阪本曰く“分身の術”)、ギターのボディをパーカッションのように叩いたり、ギターのリフやコードを重ねたりしていく姿は、まさにオープニングで流していたエド・シーランのようだ。手始めに、オーディエンスの中から2人選んで名前を聞き、それを歌詞に組み入れた小曲を披露して会場を暖めた後、下積み時代に歌っていたという「Treasure」を演奏。後半はまるでゴスペルのように、分厚いコーラスをループさせながら熱唱した。


 しっとりとしたエレピの音色がフィーチャーされた失恋ソング「会いたくて」、柔らかなグルーヴが心地よい「スクランブルドリーミング」を経て、いよいよライブは後半戦。メンバー紹介を経ての「Please me!!」は、疾走感溢れるアレンジがThe Whoを彷彿とさせるライブの定番曲で、フロアからは自然にシンガロングが巻き起こった。さらに「人生のピーク」では、オーディエンスが一斉にタオルを振り回すなど一体感を増していく。そんな光景に思わず阪本も「最高!」と叫んだ。


 本編ラストは、女性への応援歌とも言える「bloom ~心の花~」。鳴り止まぬアンコールに応えて再びステージに現れた阪本は、弾き語りで「アスファルトに咲く花」を披露。バンドを呼び込み、「とっても大事な曲をお届けします」と紹介してデビュー曲「鼻声」を歌い、すべての公演を終えた。


 終演後、会場出口で観客ひとり一人を見送った阪本。ファンに対する真摯な思いが、最初から最後まで詰まったライブだった。(取材・文=黒田隆憲)