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クレイジーケンバンドの豊かで奥深い音楽世界を堪能 20年の軌跡辿ったスペシャルなライブ振り返る

2018年10月12日 14:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 クレイジーケンバンド(以下CKB)が2018年9月24日、横浜アリーナでデビュー20周年記念スペシャルライブ『CRAZY KEN BAND TOUR 2018 GOING TO A GO-GO』を開催した。約3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』の楽曲はもちろん、1998年のデビューアルバム『PUNCH!PUNCH!PUNCH!』の収録曲もたっぷり披露されたこの日の公演は、デビューからの20年の軌跡をタイムマシンのごとく行き来しながら、CKBの音楽性ーーロックンロール、ジャズ、ファンク、ソウルミュージック、ボサノヴァ、レゲエ、歌謡曲、R&B、ヒップホップをはじめとする多様な音楽が東洋一のサウンドマシーンことCRAZY KEN(横山剣)の脳内サンプラーの中でハイブリッドされたーーをショーアップされたステージングとともに体感できる、まさにスペシャルな内容となった。


(関連:『CRAZY KEN BAND TOUR 2018 GOING TO A GO-GO』ライブ写真


 VIDEOTAPEMUSICによるCKBの過去のビデオテープをつなげたオープニング映像で盛り上がった後、横山剣(Vo)をはじめとする総勢11名のメンバーがステージに登場。「大映スターパレード」で華々しくライブの幕を切って落とし、いきなり最新アルバムの楽曲「山鳩ワルツ」から「GOING TO A GO-GO」、1stアルバムの「暴動」を繋ぐ。さらに小野瀬雅生(Gt)のジミヘンばりのギターが炸裂する「けむり」も。強烈なダイナミズムを放ちまくる演奏によって、脂っこいナンバーがさらにギトギト状態に。たまらない。


 「もともとは静岡と福生で2本営業をやるためのバンドだったんですけど、21年経ってしまいました。今年でデビュー20年。バンマス(廣石恵一/Dr)が酔っぱらって“あと20年やろう”って言ってたんですけど、Buena Vista Social Clubみたいになるまで、あと40年やりますよ」という剣さんのMCの後は、アルバム『GOING TO A GO-GO』の楽曲が次々とステージに乗せられる。軽やかなAORサウンドが心地いい「ZZ」、アシッドジャズ的なグルーヴとラテンのフレーバーが混ざり合う「GARDEN」、ファンクネスを含んだトラックのなかで〈お前のママを愛妻に〉というラインが響く「883」、70年代ソウルミュージックのエッセンスと演歌的な色気が香る「パランタガヤン」。アルバムのリリースにあたって剣さんは「今回のアルバムのテーマ、ま、一言で言うなら『支離滅裂』。これっきゃないっすね。これふざけて言ってるんじゃなくて、僕が最高って思うのって大概がそういうものだし、僕が人間って面白いなあって思うのは、どんなにブレてなさそうな人でも、どっかにひとつやふたつは頓珍漢なところがあると思うし、それは凄くチャーミングなことだと思うんですよ」とコメントしていたが、古今東西の音楽が混ざり合い、“じじい”や“フィリピンパブ”などをテーマにした歌詞の世界が広がるステージは、いわば“多幸感溢れる支離滅裂”状態。マジメもトンチンカンも真剣も悪ふざけも飲み込む懐の深さ、いや、胃袋のデカさこそがCKBの魅力なのだ。


 ライブ後半からはデビュー20周年にふさわしく、人気曲、ヒット曲、記念碑的な曲が並べられた。まずは「シャリマール」「ドリームランド入口」「中古車」という“車”メドレーでライブ全体のドライブ感をアップさせる。さらにCKBにとって初めてのシングル「せぷてんばぁ」、剣さんが手がけた西原商会(業務用食品卸会社/本公演の協賛会社)のCMをつなげ、「Let’s Go CKB」のジングルを鳴らした後、名曲「タイガー&ドラゴン」を熱唱。永ちゃん(矢沢永吉)&アッコさん(和田アキ子)リスペクトが感じられるボーカルに感じ入っていると、今度は「ルパン三世のテーマ」のカバーで盛り上げる。この節操のなさも最高だ。


 ライブ中盤でもっとも印象に残ったのは、「スージー・ウォンの世界」だった。1970年代のソウルミュージック、1980年代のアシッドジャズがクロスオーバーしたサウンド、東洋的エキゾチズムを感じさせるメロディがひとつになったこの曲が書かれたのは1989年。ロンドンから香港に飛行機で移動しているときにメロディが生まれ、CKBの前身バンド・CK’Sでも演奏していた。当時の剣さんは「音楽をやめて、作曲家に専念しよう」と思っていた時期だったのだが、廣石に「ジムで汗流すのもバンドで歌うのも同じでしょ」と誘われてバンドに参加、そこから紆余曲折がありCKBにつながったのだのだという。剣さんの「この曲は今が完成形。こんなにたくさんの人に聴いてもらって、ちょっと泣きそうになりました」という言葉も心に残った。


 リズム歌謡とフレンチポップとロックンロールが一つになった初期の楽曲「葉山ツイスト」からライブは後半へ。華麗に登場した渚ようことともに昭和歌謡の粋とエレガンスを凝縮させた「かっこいいブーガルー」を披露。観客からのリクエストによる「太陽のモンテカルロ」の後、野宮真貴、m-floがステージに現れ、「Cosmic Night Run」(m-flo loves 野宮真貴&CRAZY KEN BAND)をコラボレーション。そして「GT」「木彫りの龍」という人気曲で本編は終了。剣さんはバイクでステージを走り回り、エンジンをバリバリと鳴らしながらバックヤードへと走り去った。


 アンコールも見どころテンコ盛り。総勢20名以上のストリングス&ホーンセクションともにCKB流の「マイ・ウェイ」と呼ぶべき「男の滑走路」を高らかに歌い上げる。続いて「16、7才のときからバンドやってるんだけど、頭の中にある曲にはいつもオーケストラがいつも鳴っていて。いろいろやってきたんだけど、やっと実現しました!」という剣さんの言葉とともに「横顔」を披露。バート・バカラック、バリー・ホワイトなどを想起させるゴージャスなサウンドとともに響く〈大人になって逢える時まで/わたしを探さないで〉というフレーズは、この日のライブの大きなハイライトだった。


 2度目のアンコールの1曲目はニューアルバムの収録曲「MIDNIGHT BLACK CADILLAC」。実はこの曲、1stアルバム『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』の頃から存在していて、剣さん曰く「もっとよくなるだろうと思って取っておいたんですよね。20年前に録ったドラム、ベース、ギター、歌はそのまま残して、ホーン、キーボードをトッピングして完成しました!」というロックンロールナンバー。過去と現在を結びつけるこの曲もまた、この記念すべきライブを象徴していたと思う。


 フルートのリフを軸にしたグルーヴチューン「発光!深夜族」、The Miraclesのカバーから、そのままのコード進行で「空っぽの街角」、そして「Punch!Punch!Punch!」でライブは幕を閉じた。ステージで「音楽やっててよかった!」と叫んだ剣さん。CKBの豊かで奥深い音楽世界をお腹いっぱい味わえた、大充実の3時間40分だった。(森朋之)