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ゲーム配信の雄=Twitchは、なぜ日本市場を重要視するのか? 同社SVPマイケル・アラゴン氏に聞く

2018年10月12日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 いまや人々を魅了するエンタメの一つになった「ゲーム配信」。そのトップランナーといえば、ゲーム専門の動画配信プラットフォームとして成長を続けてきた『Twitch』だ。2017年には日本オフィスも立ち上がり、日夜、多くのストリーマーたちが生配信を行なっている。ゲームをスポーツのように楽しむ「eスポーツ」というムーブメントになくてはならない存在であり、クリエイター/ストリーマーが収益化するための仕組みづくりにも注力している同社だが、日本市場をどう捉え、今後どのような展開を考えているのか。東京ゲームショウ2018の出展に合わせて来日した、Twitch社シニア・ヴァイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏と、コンテンツ部門のデベロップメント・ゼネラルマネージャーのケンドラ・ジョンソン氏に話を聞いた。


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日本の視聴者数は世界トップ3に入る
ーー2017年に日本オフィスができて以降、Twitchはどのように成長しているでしょうか。


マイケル・アラゴン(以下、マイケル):2つの指標から、Twitchは日本市場で急速に成長していると言えます。第一に、視聴者数/視聴時間。視聴者数では世界のトップ3に入り、1日の平均視聴時間はおよそ100分と、こちらも非常に長くなっています。二つ目として、配信者が収益を得られるアフィリエイトプログラムの参加者が、昨年の200人から2000人まで増加。また、収益化に向けて様々なサポートを行うパートナープログラムの参加者も80%増加しています。


 そして現在は、ゲーム配信だけでなく、ゲーマーが好きな他のコンテンツにも力を入れていこうと考えているところです。いわゆるIRL (In Real Life)ーー日本語で言うと「雑談」や「日常」という意味になるかもしれませんが、楽器演奏や町歩き、料理動画なども含めて、よりクリエイターが魅力を発揮し、視聴者が楽しめるコンテンツを拡充していくことができればと。


ケンドラ・ジョンソン(以下、ケンドラ):例えば、今夏の「EVO」(毎年ラスベガスで行われる、世界最大級の格闘ゲーム大会)で、プロゲーマーの梅原大吾さんが現地の映像を届ける配信を行い、大きな盛り上がりを見せました。このように、実際にゲームをプレイしているコンテンツだけでなく、その周りにある楽しいことも提供できるようにしていきたいと考えています。


ーー大会も含めたゲーム配信による、Twitchのeスポーツシーンへの貢献は非常に大きいと思います。日本のeスポーツへの取り組みについては、どう捉えていますか?


ケンドラ:PCゲーム中心の海外と比較して家庭用ゲーム機のプレイヤーが非常に多く、また格闘ゲームに関心が集まるのも日本の特徴です。まずは日本の格闘ゲーマーがより海外で発信できるように支援を行い、また海外のノウハウも生かしつつ、各団体と協力してゲーム大会も開くなど、日本のeスポーツシーンを盛り上げられればと考えています。


世界は日本発のコンテンツに注目している?
ーークリエイターによる配信も含め、日本発のコンテンツには、海外に発信する上でどうしても言語の壁が出てくると思います。


ケンドラ:そうですね。現状では、日本語の配信をミラー配信やクロスストリーミングで世界に発信できるようにしており、日本語が堪能な海外の視聴者が有志で翻訳&配信していることもあります。人気クリエイターになれば、通訳をつけての放送もありますが、よりコストをかけず、手軽に海外への発信ができるようなシステムを作らなければと考えているところです。


ーー梅原さんをはじめ、日本の格闘ゲーマーにはタレント性の高い人も多いと思います。そうした人たちの配信は、海外でも需要があるでしょうか?


マイケル:格闘ゲームというジャンルについては、海外では日本ほどの人気はありませんが、「日本のゲーマーが素晴らしい」という認識は広くあります。実際、海外から日本の配信を観ているユーザーも多いですし、「ゲーム関連のコンテンツを観るなら、日本は欠かせない」というのは当然です。Twitchでは『鉄拳7』の大会も開催していますが、日本のコンテンツをさらに、世界にアピールしていきたいと考えています。


ーー現在、日本オフィスではどんなことに注力していますか?


ケンドラ:Twitchは「クリエイターズファースト」を理念としており、まずはパートナーの配信と収益化を支援することに力を入れています。日本のストリーマーを海外に連れていって配信できるような体制も整えているところで、海外でもファンを獲得できるようにしていきたいですね。また、9月からは日本のゲームメーカーさんに、もっとTwitchを使っていただけるように働きかけるチームも立ち上がりました。


マイケル:「クリエイターキャンプ」として毎月、配信の基本から、視聴者、収入源の増やし方まで解説していますので、こちらも活用していただきたいと考えています。


ユーザーファーストが何よりの強み
ーー視聴者がストリーマーを直接支援するものとして、「ビッツ(投げ銭)」の仕組みもあります。チップなどの文化がない日本に馴染むかどうか、というところですが、現状ではどうでしょうか?


マイケル:確かに日本では馴染みのない文化だと思うのですが、利用者は着実に増えています。モバイルゲームで課金することも当たり前になってきましたし、チップというより、楽しみの一つになっているような感覚ですね。ビッツを提供するとクリエイターから直接リアクションをもらえることもありますし、今後は画面上に派手なエフェクトがかかるなど、よりクリエイターの支援が楽しくなる演出を考えていきたいです。クリエイターにとって重要な収入源の一つになっており、よりビッツを獲得するためのノウハウも、クリエイターキャンプで展開しているところです。


ーーさて、動画配信プラットフォームとして、競合他社との優位性についてはいかがでしょうか。


マイケル:TwitchはAmazonと同様、他社との競争というより、カスタマーを第一に考えます。Twitchの場合、カスタマーはクリエイターですから、そこで「クリエイターファースト」になるわけです。パートナー、クリエイターがより多くの収入を得て、Twitchで生活ができるように、ということを追求しており、そのために広告、サブスクライブ、ビッツなど、収益化の手段を様々に用意している。この点は、他社に負けない強みだと考えています。また、このような取り組みから現在、Twitchには多くの人気クリエイター、ゲーム配信者が集まり、コンテンツが充実していますので、それが視聴者の方々に選んでいただけるアドバンテージになっている。アーカイブよりライブのシェア、インタラクティブという部分に注力しているのも差別化できる部分ですね。


ーー5G回線含め、通信環境が拡充していく中で、今後はどんなサービスを開発していきますか?


マイケル:やはりクリエイターの希望次第ですね。よりスムーズに配信したいのか、美しい映像で届けたいのか。いまもクリエイターの声を聞き、エンジニアが常に新しい仕組みを開発していますので、技術の進化で可能になるか精査しながら、あくまでクリエイターが求めるものを取り入れていきたいと思います。また、例えば5Gが導入されれば、ゲーム業界は大きく変わるでしょう。日本はゲームを作り、届ける立場の国ですから、「日本がどう変わるか」ということをしっかりウォッチし、そのノウハウを海外に展開していくことになるでしょう。その意味でも、日本市場は非常に重要だと捉えています。


(橋川良寛)