2018年、ホンダF1はトロロッソと組んで新しいスタートを切った。新プロジェクトの成功のカギを握る期待の新人ピエール・ガスリーのグランプリウイークエンドに密着し、ガスリーとトロロッソ・ホンダの戦いの舞台裏を伝える。
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日本GP予選、ピエール・ガスリーは7番グリッドを獲得した。今のトロロッソ・ホンダの実力からすれば、手放しで喜んでいい成績である。しかし予選後の囲み取材に姿を見せたガスリーは、むしろ硬い表情だった。
予選直前の3回目フリー走行までホンダの最新スペック3のパフォーマンスに今ひとつ満足できず、さらに赤旗中断の追い打ちもあって、十分に性能確認できないまま予選に臨まざるをえなかった。
「(Q3の)最後のアタックで、コンマ2~3秒失っていた。先週のロシアからの振動問題が完全に解決できず、アグレッシブなエンジンの使い方ができなかった。普通に走っていたら、予選5番手は十分可能だったよ」
期待したグリッドに届かなかったこと以上に、ガスリーはブレンドン・ハートレーに負けたことが我慢ならなかったようだ。
2018年シーズン中盤以降は予選でチームメイトに負けたことはなかっただけに、わずか1000分の75秒差でも後塵を拝したことは、「かなりショックだったみたいで、正直予選直後はけっこう荒れてたわね」と、お母さんのパスカルさんが苦笑していた。
しかしそれ以上にパスカルさんが驚いたのは、「マッティオが悔し泣きしていたこと」だったと言う。マッティオとはガスリーの担当エンジニア、マッティオ・スピーニである。カルロス・サインツの担当エンジニアを経て、今年から組んだガスリーとはまさに一心同体の関係で、ともに喜び、苦しんできた。
スピーニには今回直接の話を聴けなかったが、ふたりにとって最高グリッドであるバーレーンでの6番手をしのぐことは十分に可能だと手応えを感じていたに違いない。レースエンジニアはどんなときも冷静なもので、むしろドライバーを叱咤激励する役割を担うのが普通だが、今回のスピーニはついラテンの血が騒いでしまったようだ。
■上機嫌だったチーム代表もレースでは一転
ということでガスリー陣営には不本意な予選だったが、ホンダの地元グランプリで予選6、7番手獲得というのは、トロロッソ・ホンダとしては決して悪くない。当然ながらフランツ・トスト代表は、上機嫌だった。
実は前日金曜日の夜、鈴鹿サーキットをジョギングしていると途中でトスト代表とばったり遭遇した。今ひとつ本調子でないのか身体が重そうで、それもあってか話しかけてもろくに返事も返してくれなかった。ところが翌日の予選後、パドックを歩いているとトスト代表がぽんと肩をたたいて、「昨日は楽しかったなあ」と笑顔で話しかけてきたのである。
いや~現金な性格だなとこちらは苦笑せざるをえなかったが、決勝日のトロロッソ・ホンダは予選の速さを活かすことができず、ガスリー11位、ハートレー13位に終わる。
最適なエンジンマッピングへの変更を予選後にFIAに申請し、いったんは承認された。ところがレコノサンス走行を終えてグリッドに着いてから、FIAは使用禁止を通告。それもあってガスリーは期待した速さを発揮できず、予選の勢いをレースに繋げることはできなかった。
そしてトスト代表はといえば、ガスリーがQ3進出しながらもレースではアロンソに幅寄せされ、ノーポイントに終わったイタリアGPに続いて、さっさとサーキットから帰ってしまった。こうして今回も、トロロッソ・ホンダのチームリリースにはトスト代表のコメントは載らなかったのである。