2018年10月11日 10:12 弁護士ドットコム
弘法大師の足跡を辿るお遍路――。1200年もの歴史を持ち、現在も四国の至るところで、菅笠(すげがさ)と金剛杖(こんごうづえ)を身に着けたお遍路さんを見かけることは、そう珍しくない。ここ数年は外国人からの人気も高まり、行政やボランティア団体は、世界にお遍路文化を継承すべく精力的に活動中だ。
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だが、そんなお遍路が今、「遍路道の劣化」という問題に直面している。長年の風雨によって侵食された遍路道は、単に巡礼者にとって危険なだけでなく、お遍路自体の歴史的価値を下げる恐れがあるというのだ。実は、遍路道の保全はボランティアに頼る部分が大きく、修繕費用を確保することが難しい。
そこで、徳島県が目を付けたのは、ふるさと納税だ。クラウドファンディング型のふるさと納税によって、全国の支援者から遍路道の修繕費用を募る試みも始まった。「外国人と四国遍路の歴史」について研究を行う、徳島大学准教授・モートン常慈(ジョウジ)さんにお遍路の魅力とふるさと納税への取り組みについて話を聞いた。(ライター・岡安早和)
カナダ出身のモートンさんは、1988年に派遣ボランティアとして初来日。来日当初はお遍路についての知識はなかったが、偶然知った弘法大師の昔話がきっかけで、徐々にお遍路研究に没頭し、2001年からは、縁あって徳島文理大学で教鞭を執ることとなった。
「どうして弘法大師の存在が日本人に浸透しているのか、それがとにかく興味深かったんです。その後、大学院でお接待文化を研究して、完全にはまってしまいました」
お接待文化とは、お遍路さんを弘法大師とみなし、地元の人たちが食べ物や宿を無償で提供する、いわば思いやりの文化だ。自身も八十八箇所の巡礼(説明)を成し遂げたモートンさんは、お接待文化に象徴されるような「他者を受け入れる心」こそが、お遍路の一番の魅力だと話す。
「お遍路さんの恰好をしていれば、国籍も人種も宗教も全く関係なく、ひとりのお遍路さんとして扱ってもらえます。人間同士で助け合おう、支え合おうという精神は、お遍路さんの最も素晴らしいところではないでしょうか。
それと、『自由』であることもお遍路の魅力ですね。巡礼の期間も、動機も、ひとそれぞれです。何かを成就させたいという人も、誰かを供養したいという人もいます。お遍路には強制的な決まり事がないんです」
徳島県がふるさと納税に取り組んだ背景には、世界遺産登録へ向けた並々ならぬ想いがあるようだ。世界遺産に登録されれば、その発信力、求心力の高さから、お遍路文化継承の大きな後ろ盾となる。
四国四県は、2010年に「『四国八十八箇所霊場と遍路道』世界遺産登録推進協議会」を発足させ、トイレやWi-Fi設備の整備を進めてきた。しかし、最大の課題は、寺院や遍路道といった構成資産の保護だ。お遍路の資産は広域にわたるため、どうしても保護が難しい。
「世界遺産として登録されるためには、『普遍的な価値』の証明が不可欠です。歴史的にも、国際的にも、後世に残すべき遺産であると認められなければなりません。
今回、ふるさと納税での修繕を予定している、徳島県阿南市の大龍寺道は、里山のような日本の原風景が広がっていて、国の史跡にも指定された場所です。修繕が必要な遍路道は他にもたくさんあるんですが、世界遺産登録のためにも、まず大龍寺道のような遍路道の修繕が大切なんです」
英語のガイドブックを出版するなど、海外に向けて情報を発信するモートンさんのもとには、国籍問わず、様々なお遍路さんがやって来る。お遍路を通じて助け合いの精神に触れた彼らは、口々に「帰りたくない」と言うのだそうだ。
「外国人お遍路さんの多くの人が、『僕らに何か恩返しできることはないのですか』と言ってくれるんです。特に、誰が、どうやって遍路道を維持しているのかとても気になるみたいです。ボランティアの方々のおかげだとは思わないんですね。
今回のふるさと納税に関しては、国内のみの取り組みになりますが、今後は、外国からの支援も受けられるような仕組みを作れれば良いなと思います」
【取材協力】
モートン常慈さん。徳島大学教養教育院准教授。大学で英語を教える傍ら、「外国人と四国遍路の歴史」の研究を続け、お遍路の英語版ガイドブック制作など、海外に向けた情報発信を行なう。外国人お遍路さんの受入れ体制を整えるべく、地元住民向けの「おもてなし実践講座」も企画・開催。
【ライタープロフィール】岡安早和。大学卒業後、企業の法務部にて勤務し、転勤族の夫との結婚を機にライターに転身。2017年から香川県高松市在住。
(弁護士ドットコムニュース)