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女性警視、セクハラで「公務災害」 労災認定には高いハードル

2018年10月10日 14:42  弁護士ドットコム

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警察庁の40代女性警視が、男性警視からセクハラを受けて抑うつ状態になったとして、同庁が「公務災害」と認定した。


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産経ニュース(9月24日)の報道によると、女性警視は男性警視に「ちゃん」付けで呼ばれたり、酒席などで卑わいな言動を繰り返されたりした。女性は損害賠償を求めて東京地裁に提訴しているという。



この事例は公務員だが、弁護士ドットコムには、会社でセクハラを受け「精神衰弱状態と診断書が出て休職している」「心療内科に通院している」といった声も多数寄せられている。



セクハラの被害にあった場合、加害者や会社に対して民事訴訟を提起するケースもあるが、どのような場合であればセクハラが「労災」と認定されるのだろうか。板倉由実弁護士に聞いた。



●客観的な評価基準がなくハードルが高い

ーーセクハラが原因で精神疾患にかかり、公務災害や労災として認められるのには、どのようなハードルがありますか



「パワハラやセクハラなど対人関係を原因とする精神疾患は、一般的に労災の認定が容易ではないと言えます。原因の一つは、客観的、数量的な評価基準がなく、主観的な価値判断が入ることです。



例えば、長時間労働による精神疾患については、『発病直前の1カ月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合』または発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合』は心理的負荷が『強』と評価され、業務起因性が認定されるという客観的な判断基準があります。



しかし、セクハラやパワハラなど対人関係を原因とする精神疾患は、いずれも客観的な評価基準がありません。労災の場合、セクハラの事実の有無のみならず、認定されたセクハラの事実が精神疾患の発症の原因となるほど『強度』の心理的負荷となったかということが認められなくてはならないのです」



●判断が難しくなるという傾向

「心理的負荷の強度は、セクハラの内容、程度などさまざまな判断要素によって、強・中・弱と認定されます。しかし、『弱』や『中』の場合は、セクハラの事実があったとしても、業務起因性が認められるほどの『強度』の心理的負荷がない、とされています。



しかし一般的な感覚からすれば、優位な立場にいる上司から胸や腰等への身体接触があれば、仮に1度きりであったとしても、被害者にとっては大きなストレスになります。体調を崩して次の日から会社に出社できなくなったという相談も少なくありません。判断基準があまりに厳しく、また『この程度のことは我慢しろ』というジェンダーバイアスが含まれていると言えるかもしれません。



事案の捉え方や感じ方も個人によって異なるため、判断が難しくなるという傾向はあると言えるでしょう」



●手間がかかる労災補償給付手続

ーー「平成29年度過労死等の労災補償状況」の支給決定件数を見ると、セクハラの件数はパワハラの件数の半分以下となっています。なぜだと考えられますか



「労災の請求はあくまでも、業務上の疾病やけがに対して、休業補償(給与補償)や療養補償(治療費)を給付することが中心です。会社や加害者への慰謝料等の責任追及を求めることを目的としていないことも申請件数が少ない原因の一つと考えられます。



さらに、精神疾患を抱えた被害者が、一人でセクハラの事実や疾病との業務起因性を立証する証拠や陳述書などを作らなければなりません。申請作業の負担も申請を躊躇する原因の一つではないかと思います。



認定基準が厳しく、時間もかかるので、多くの人は、迅速に給付される『私傷病』による傷病手当を受給してしまいます。傷病手当が受給できれば、わざわざ手間の掛かる労災補償給付手続を申請しようと思わないのではないでしょうか」(私傷病とは労働者の病気やケガのうち、業務に起因しないもの)



●労災請求をするべきケースは?

ーーどんな被害であれば、労災請求をした方がいいのでしょうか



「労災請求は、業務上の疾病・けがによって休業や治療が必要な場合に、休業補償や療養補償を給付するというものです。



一方、業務上疾病ではなく、私傷病の場合でも健康保険から傷病手当を受給することができます。セクハラの労災については、認定事例や心理的負荷が『強』とされる事例が公表されています。会社がすでに労災として認めており、協力が得られる場合や、厚生労働省の認定基準に該当する事例であれば、請求をするのがよいと思います」



(弁護士ドットコムニュース)




【取材協力弁護士】
板倉 由実(いたくら・ゆみ)弁護士
東京パブリック法律事務所外国人・国際部門所属。津田塾大学卒業後、民間企業勤務を経て、2005年弁護士登録。UCバークレーロースクール客員研究員(労働法・ジェンダー法。2014-2015年)。専門は労働法と家族法(離婚・相続)。
事務所名:弁護士法人東京パブリック法律事務所
事務所URL:http://www.t-pblo.jp/