2018年10月09日 09:52 弁護士ドットコム
「業務外の仕事を命じられるのが苦痛です」。関東近郊に住むミサコさん(40代、仮名)がそんな話を弁護士ドットコムニュース編集部に寄せた。ミサコさんは現在、家族経営の小規模な会社で、正社員として働いている。
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「たびたび業務以外の仕事をさせられ、納得がいきません。社長は女性で、エステの予約や、友人のパーティーに花を手配するなどの私用で、私を使います。『秘書業務の一環だ』というのが社長の言い分ですが、私は秘書として採用されたわけではありません」と話す。
ミサコさん以外は全員、社長の親戚で、社長の私用を命じられるのはミサコさんだけ。夏には、ある従業員が「子どもが夏休みの宿題で困っているから、手伝って欲しい」とミサコさんに伝えてきた。
「社長もそれに同意し、私が作文などを指導するように行ってきたんです。1度だけとの話だったのに、それ以来も度々、子どもを連れてくるようになり、その子がくると私がいつも勉強や遊びにお世話をすることになってしまいました」
負担感を覚え、社長に伝えると「ちゃんと面倒をみてやって欲しい」として、親族がくる度にお世話係を命じられたそうです。社長の要求は法的に正当なものなのでしょうか。また、これはパワハラには該当しないのでしょうか。労働問題に詳しい戸田哲弁護士に聞きました。
戸田弁護士は「家族経営の会社でたまに聞く話ですが、問題はあります」と指摘します。
「アットホームな家族経営もいいですが、組織としての公私の線引きは大前提です。従業員には、会社の命令に従って仕事する義務、いわゆる『労働義務』があるわけですが、これは労働契約で決められた範囲に限られます。
通常は雇用契約書や労働条件通知書で『業務の内容』の記載がされますので、ここは要チェックです。求人の広告も参考になります」
ミサコさんは「秘書」ではなく、従業員として雇用されました。この場合、社長のプライベートのお手伝いをしなければならないという「労働義務」はあるのでしょうか。
「ありません。仮にミサコさんが『秘書』として採用されているのであれば、社長のエステ予約等も業務の範囲に入ります。ですが、今回のような家族経営の小規模会社で、本当に秘書業務を採用するのかは疑問です。あくまで推測ですが、社長が都合よく後付けで『秘書だ』と言っているだけのような気がしてなりません。
また、社長の子どもの宿題を手伝うなんてことは、仮に秘書であっても労働契約の範囲を超えます。これは保育士やベビーシッターの仕事ですからね」
社長には何度も「やりたくない」と伝えているそうです。それでも雑用を命じられている状況は、パワハラに該当しないでしょうか。
「ミサコさんを狙い撃ちで、本来の仕事をやらせずに、ずっとこうした『お手伝い』ばかりをさせている場合はパワハラになる可能性があります。
能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を与えること等の『過小な要求』というパワハラの類型に該当しかねませんので」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
戸田 哲(とだ・さとし)弁護士
千葉県弁護士会労働問題対策委員会副委員長。労働者側・使用者側の双方の事件を数多く取り扱い、「労働」分野の総合対応を強みとする。労働事件専門講師経験も多数(弁護士会主催研修、社会保険労務士会主催研修、裁判所労働集中部主催労働審判員対象研修等)。Ⓡ労務調査士
事務所名:西船橋法律事務所
事務所URL:http://nishifuna-law.com