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「ジャイアンから脱しなければいけなかった」声優・木村昴の転機となった作品とは?

2018年10月08日 19:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「ジャイアンから脱しなければいけなかった」声優・木村昴の転機となった作品とは?
“声優・木村昴”の軌跡をたどるインタビュー。前編では、『ドラえもん』の2代目ジャイアン役に決まり中学生で声優デビューを果たしたときの思い出や心情を語ってもらったが、後編はその後から現在の印象深い出来事を聞いた。

木村が“転機”と感じたある作品や、一番手を張る人気プロジェクト『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』、そしてその歌唱力を活かした最新映画『スモールフット』への思いをぜひ確かめてもらいたい。

■ジャイアンから脱しなければいけなかった
――ジャイアン役でデビューし、いろんな役を演じてきた木村さんですが、転機になった作品はありますか?

木村
2005年にジャイアン役になって、ずっとジャイアンの一役だけを務めていたんですけど、2011年にはじめてジャイアン以外をアニメで演じたのが『輪るピングドラム』の高倉冠葉なんです。それは大きな転機になりましたね。

――なぜこのタイミングでジャイアン以外の役を?

木村
当時は児童劇団に所属していたんですけど、年齢的に所属するべきでない年齢になっていて、辞めなきゃなと思っていたタイミングでオーディションのお知らせをいただいたんですよ。


――そこでやってみようと。

木村
はい。でも、それまでずっとジャイアンだったので、口もノドも体もジャイアンになっちゃってたんですよね。
いざオーディションに行って、幾原邦彦監督が見ているところで受けることになったんですよ。で、ひと通り終わって、監督たちがいる調整室に行って「ありがとうございました」って挨拶をしたら、幾原監督から「ちょっと話がある」と。

――個別に呼び出されたわけですね。

木村
で、言われたのが「君は面白いね、君ほどヘタクソな人に僕はあったことがない」とハッキリ言われたんですよね。「エーーーー?」ですよ、こっちからしたら(笑)。ストレートだなあって落ち込みました。
ただ、続けて「でもね、めちゃくちゃ良い声してる」って言ってくれたんですよ。その前の言葉に落ち込みすぎて、全然入ってこなかったんですけど(笑)。

――思いっきり言われましたからね。直後に褒められたところで何が何だか。

木村
逆にディスられたのかなって思いましたからね(笑)。
でも、そのあとで「君、日本でいちばん有名なお兄ちゃんやってるんだよね? このキャラクターもお兄ちゃんなんだよ。お兄ちゃんできる?」と幾原監督に聞かれて。「お兄ちゃんできます!」って答えたら「よし、合格!」と。

――えっ!

木村
「(他のキャラクターの)オーディションもやり直す!」って言って、イチからになったんですよ。
幾原監督だからこそできたことだと思いますけど、すごいっすよね!? ハリウッドかよ!って思いました(笑)。
で、僕はそこから収録がはじまるまでの3~4カ月間、毎週スタジオに通って練習していました。台本ができているぶん全部もらって、同じセリフを何度も何度も。


――反復練習ですね。

木村
何をしゃべっても全部ジャイアンになっちゃうので、この作品に関してはジャイアンから脱することを頑張らないといけなかったんです。
「脱することだけを考えるんだ」って言って、ひたすら練習練習。収録がはじまってからも、居残り練習をしていました。
そうして『輪るピングドラム』全24話終わって、ようやくジャイアン以外の役を演じられるようになったという、大きな転機になりましたね。

■いつかデカいステージに立ってみたい

――木村さんといえば、歌唱力の高さから“歌”にまつわるコンテンツに関わることが多いイメージです。直近では『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』と映画『スモールフット』がありますが、まずはヒプノシスマイクから話を聞かせてください。注目を集めてから、取り巻く環境は変わってきましたか?

木村
そりゃあもう! ありがたい! おかげさまで! おかげさまでねぇ、ヒマなしですね。嬉しい限りです。今一番何がほしいって言われると「休日」って言います(笑)。


――(笑)。ヒップホップをこよなく愛する木村さんの念願が叶った形です。

木村
間違いないです。企画を聞かせていただいてみなさんと準備を進めているときは、すぐにヒップホップカルチャー、ラップミュージックを受け入れてもらえると思ってなかったので、「地道にやっていきましょう」「10年くらいしてようやく受け入れってもらって、武道館とかいけたらいいですね」って話していたので、まさかこんなに早く受け入れてもらえるとはと驚きを隠せないです。

この前2ndライブ(ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 2nd LIVE@シナガワ《韻踏闘技大會》)を品川ステラボールでやらせてもらったんですけど、2千のキャパシティに対して応募が4万あったらしいんですよ。

――すごい! 武道館の4倍ですね。

木村
ほんとですよ! 僕らもスタッフさんも「こんなに(応募)くるの?」って驚きました。
「チケット取れなかったみなさん、安心してください大丈夫です。3rdライブもありますから!」ってドーン!と発表されても、次の会場(ZeppDiverCity)もキャパ変わらないんすよ! 「狭いよ!」とのお声をいただいてしまいました(苦笑)。
大きい会場を今からとるのは、会場不足の関係もあってなかなかできないのでもどかしいですね。

――じゃあ、近々は難しいけど大きい会場でもできたらと。

木村
そうっすね! 僕が思うラップミュージックのライブの良さって、Zeppくらいの大きさが一番ですし、大きければ良いわけでもない気がするんですけど、デカいステージには立ってみたいです。
デカい会場でライブしたラッパーなんて、ケツメイシやKREVAさんとかメジャーな方くらいじゃないですか? いつか、僕も同じ場所にも立ってみたいです。


――ちなみに、2ndライブの振り返りも伺っていいですか?

木村
めちゃくちゃ楽しかったんですけど、不思議な感じでしたね。
完全に僕のエゴなんでしょうけど、“ラップが大好きな僕”が出てきて声優であることを忘れる瞬間が結構あったんですよ。そのたび「違う違う違う!」と思うんですけど、難しいんですよね……! 
ほかの方はスッとキャラクターになれるんですけど、僕の場合「ラップができる!」っていうワクワク感が勝っちゃうんです。

今回のライブはディビジョン対抗のバトルだったんですけど、僕らは負けてしまったんですよ。敗因はこれだなとちょっと思います。
なので、次回に向けての課題ですね! 山田二郎、山田三郎、木村昴にならないように、次は常に山田一郎としてできるように。

――バトルで負けたこと、かなりショックだったとか。

木村
めちゃくちゃ悔しかったです。数日経って、お客さんからの声が届くんですけど……それが未だに響いていますね。次は負けたくないです。

■楽しんでもらえるパフォーマンスを一生続けたい

――そして『スモールフット』では、吹き替えと歌を担当されています。今回の歌で特別意識した部分はありますか?

木村
主人公である“ミーゴらしさ”ですね。今回歌った曲はストーリーに沿って流れるので、ある種ミュージカルなんですよ。ライブじゃない。なので、メロディを借りて喋っているようなイメージで歌いました。
事前に準備していったのは“ちゃんと歌う”感じだったんですけど、そこは結構ガッツリ変わって、「こうすればもっとミーゴらしくなる」とディレクションしてくださる先生にアドバイスをもらいながら、またハッピーな一日がはじまることをミーゴが喜んでいるように歌いました。


――夢だったミュージカルに近いことができたんですね(前編参照)。

木村
そうですね! だからこういうミュージカルのようなアニメーション作品も大好きなんですよ。何が良いとか説明できないくらい昔から好きだし、観ているとシビれるし涙が出ちゃうんですよね。本当にわけも分からずブワッと。『スモールフット』もそれぐらい素敵なものが詰まっています。
あと、スートンキーパーっていうキャラクターを本国ではラッパーのCommonが担当していて、歌もラップなんですよ。それをCommonが演じているんです。向こうではレジェンダリーラッパーのCommonがですよ!? そんな役を、日本では立木文彦さんが演じていて……。

――立木さんのラップが聴けるんですね。

木村
そうです! しかも、日本版のラップはSOUL'd OUTのDiggy-MO'さんが書いてるんですよ……ヤバっすよ。すごくないっすか!? 立木さんはどうなるんだろうって。しかも5~6分ある長いシーンで、セリフを織り交ぜながらなので。
まだ完成版を観ていない(インタビュー時)ので、めちゃくちゃ楽しみです。超聴きたい!

――ちなみに、ミーゴにはどんな印象を持ちましたか?

ミーゴ 『スモールフット』より
木村
素敵ですよね! 僕らが忘れかけている部分を、ちゃんと持っているような気がします。
人間、大人になると表面的になって人を見かけで判断しがちじゃないですか。コンビニで外国人の店員さんにやたら横柄に接する大人とかまさにそうですよ。僕はハーフなので、そういう場面を見ると思うところがあるんですよね。
でもミーゴは、見た目も文化も全く違う人間とも分け隔てなく接しようとするんですよ。そこに、この作品の大切なメッセージがあると思います。


――いろんな話を聞けました。ありがとうございます。では最後に、今後の展望を聞かせてください。『ヒプノシスマイク』もあり、ある程度夢を叶えてしまった感もあるように見えるのですが……。

木村
変わらず、息長く、声優をやっていけたらというのは変わりませんが、今後トライしていきたいこととして仕事で海外に行ってみたいですね。それこそ、吹き替えられる側になりたいです!
超ビッグドリームすぎて気持ち悪いかもしれないですけど(笑)。

――英語もドイツ語も話せる木村さんなら、できることですもんね!

木村
体ひとつあって言葉さえ話せれば、どこでも行けると思うんですよ声優って。
アメリカでアニメーションの声を僕が英語でやって、それが日本に渡って「吹き替え:関智一」みたいな!(笑)。生意気ですけど、夢だからいいんです大きくて。しゃべるのはタダだし!
そうして、大層かもしれないですけど、海外と日本のアニメーションや声優カルチャーの架け橋になるのも面白いかなと思います。

――素晴らしい夢です。

木村
あとはせっかく声優にしていただけたので、声優が誰もやったことないことを一番にやってみたいですね。
例えば、「~とデートなうに使っていいよ」って声優さんで最初にやったの山寺宏一さんなんですよね! ああいうの、すごいなって思うんですよ。
だから僕もTik Tokやってみたりしているんですけど(笑)。そういう新しいことを模索していきたいですね。
いずれにしても、みなさんに「明日も頑張ろう」って思ってもらえるよう楽しんでもらえるパフォーマンスを一生していきたいです。

『スモールフット』
10月12日(金) 新宿ピカデリー他 ロードショー!
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.