台風25号が予報よりも早く北上し晴れ渡った鈴鹿の日曜日。金曜、土曜と天候が優れないにもかかわらず今年のF1日本GPは前年度の入場者数を上回り、晴れた日曜日も朝から多くのF1ファンが、鈴鹿に足を運んだ。
佐藤琢磨の朝イチの仕事は、レジェンドF1のデモンストレーションランだった。インディカーのレーシングスーツではあるものの、ヘルメットにはHONDAのロゴが入り、マクラーレン・ホンダMP4/6のコクピットに収まると、まるで27~28年前の景色が蘇ったようだった。
琢磨も少年時代に憧れていたマクラーレン・ホンダに乗るとあって、まさにドリーム・カムズ・トゥルー。夢心地のデモンストレーションだったと言う。
「もう最高! その一言に尽きますね。マクラーレン・ホンダMP4/6という、V12最後のエンジンで、しばらく鈴鹿のコースレコードを持っていたマシン。それで満員のファンの前で走れるわけでしょう? こんな光栄なことはないです」
「しかも、一緒に走るのは、中嶋悟さんとか、鈴木亜久里さん、ミカ・ハッキネンに、ジャン・アレジ……。クルマもフェラーリに、ベネトンに、ロータス。夢の中でドライブしているようでした。トークショーでお約束したように、ちゃんとセナ足をやって見ましたよ、どうでした?(笑)」
憧れのF1マシンで思い出の地、鈴鹿サーキットをドライブできるなんて、さぞかしうれしかったことだろう。それは琢磨の顔を一見しただけでわかった。
F1のデモンストレーションが終わった後は、トークショーの出演が続いた。
世界三大レースのウイナー、というテーマで出演したステージでは、インディ500チャンピオンの琢磨、F1モナコGPウイナーのハッキネン、そしてル・マン24時間のウイナー、中嶋一貴と共に登壇した。
特に琢磨はハッキネンとイギリスF3チャンピオンという共通項もあり、また琢磨のジュニアフォーミュラのチームがハッキネンと同じだったりと、昔話に華も咲く。しかし年代が違えども、お互いへのリスペクトは欠かさなかった。ハッキネンも琢磨の残して来た足跡を讃えていた。
F1の決勝レースでは実況席に座り、場内のレース解説を担当。琢磨はわかりやすいドライバー目線でレースを解説した。
「今日のレースはルイス・ハミルトンの横綱相撲でしたね。金曜のプラクティスからずっと速かったし、唯一予選のQ2でリズムを乱していましたけど、それ以外は誰も近づけなかったですね」
「ベッテルは窮地になるとリズムを乱してしまいますね。レースのスタート直後は鬼神の追い上げだったのに、もったいなかった。トロロッソは苦戦しましたね。予選は若いドライバーたちが頑張っていただけに残念でした」とレースを振り返る。
デモラン、トークショー、サイン会とイベントに引っ張りダコだった琢磨だが、日曜日の最後はレースを簡単に振り返るトークで締めくくった後に、キッズたちとのサイン会で終わった。
「来年もインディ頑張ってください!」と応援する子供達に笑顔で応える琢磨。そんな微笑ましい光景。そんなファンのサポートが30回の日本GP開催を支えて来たのだろう。
祝日となる月曜日の体育の日は、グランドスタンドで最後のトークショー。子供連れのファンが多く詰め掛けた。
「月曜日まで、こんなに多くのファンが残って来てくれるなんて、うれしいですね。どのF1ドライバーも鈴鹿のファンは最高だって言っていますけど、本当そう思います。僕は日本でレースする機会がないので、正直F1ドライバーたちが羨ましいけれど、毎年鈴鹿に来るとインディおめでとうございます!とか、一年間おつかれさまでした!と言ってもらえるのがうれしいです」
金曜日からの三日間。充実した時間を過ごした琢磨。また来年の日本GPにもアメリカから朗報を持って帰って来てくれることを期待しよう。