F1第17戦日本GP決勝レース直前、最初に異変に気付いたのは、13時45分。フォーメーションラップのスタートまで、あと25分という段階だ。トロロッソ・ホンダのグリッドの周辺にはホンダの八郷隆弘社長をはじめ、石井啓一国土交通大臣、鈴木英敬三重県知事、末松則子鈴鹿市市長などが激励に訪れ、華やかな雰囲気が漂っていた。
しかし、その一方でトロロッソのチーフレースエンジニアのジョナサン・エドルズら数人のスタッフがピエール・ガスリーのマシンが停まっていた7番グリッドの後方で、神妙な面持ちで話し合いを行っていた。
その4分後に、FIAのスタッフ2人が、ガスリーのマシン後方にいたトロロッソのエンジニアの元を訪れる。その話し合いを行っている誰にも笑顔がなく、ただならぬ事態が起きていることは容易に想像できた。
じつはこのとき、FIAのスタッフは、予選後にチームがFIAに申請して変更を許可されていたパワーユニット(PU/エンジン)に関する、あるモードを「使用しないように」と言ってきたのである。
トロロッソのエンジニアの抗議は認められず、その1分後にエドルズはホンダの田辺豊治F1テクニカルディレクターを呼び出し、状況を説明する。その後、FIAのスタッフも、田辺TDにあらためて理由を説明する。
フォーメーションラップのスタートまで、あと20分。これ以上の話し合いは、得策ではないと判断した田辺TDは、FIAからの指示どおりのパワーユニットの設定を戻す決断を下し、そのことを副テクニカルディレクターの本橋正充に伝える。
その後、ホンダのエンジニアがガスリーに状況を説明し、レースでのパワーユニットの使い方に関する注意を行う。レース直前になっての二転三転に、ガスリーはやや神経質になったまま、フォーメーションラップのスタートを待っていた。そして、フォーメーションラップがスタート。エンジニアからパワーユニットの設定変更が認められなかったことについて伝えられると、ガスリー「バカげたことだ」と怒りをあらわにして、スターティンググリッドに着いた。
そして、レースはスタート。金曜日から抱えていたシフトアップ時のオシレーション(共振)を抱えたまま走行しながらも、ガスリーはなんとか終盤までポイント圏内を走行。しかし、レース終盤はブリスターに悩まされ、カルロス・サインツJr.(ルノー)にオーバーテイクを許し、ポイントを逃したのである。