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織田裕二、“男性主役ドラマ”の礎を築いた過去を語る「絶対に勝たなきゃいけないと思った」

2018年10月08日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 織田裕二が10年ぶりにフジテレビの月9ドラマで主演を務める『SUITS/スーツ』が、10月8日よりスタートする。本作は、2011年6月に全米で放送開始され、初回視聴者数460万人超を記録したドラマ『SUITS/スーツ』のシーズン1を原作とした弁護士ドラマ。織田は、原作でガブリエル・マクトが演じたハーヴィー・スペクターをモデルとした、“敏腕ながら傲慢なエリート弁護士”の甲斐正午という役どころを演じる。これまでの自身の月9を中心としたドラマ出演への歩みと、本作に懸ける思いを聞いた。


【写真】『SUITS/スーツ』第1話の織田裕二


■「“家族”というキーワード」


ーー原作のアメリカ版『SUITS/スーツ』はどんな印象でしたか?


織田裕二(以下、織田):まずシーズン6まで観させていただきました。正直言うと、最初はあまりハマらなかったんです。でも、5話ぐらいまで観て、初めて共感して主人公が素敵に見えた。それまで、ハーヴィーはニヤけた人だなと思ってあまり好きじゃなかったんです。その共感した回というのは、ハーヴィーの運転手が事故を起こしてしまって、ハーヴィーが彼の弁護を無償でするという話でした。演出も、最後の何秒間だけスローがかって印象的で。とにかくその回がすごくツボで、そこで一気にスイッチが入りました。


ーーストーリーについてはいかがですか?


織田:シーズン2では、“家族”というキーワードがあって、「あ、これは家族のあり方を弁護士事務所に置き換えたんだ」と思ったんです。それで改めてシーズン1から見直した時に、ハーヴィーはワイルドでセクシーな面もあるのですが、意外と新人のマイク・ロス(日本版の鈴木大貴/大輔)に対して、要点ではちゃんとハーヴィー流で仕事を教えてるんですよね。マイクは記憶能力においては誰も敵わない逸材ですが、フリーターだから、ビジネスシーンにおける基本的なマナーを何も知らない。ボタンダウンでゆるゆるでネクタイして、(『踊る大捜査線』の)青島みたいな格好してたら、うちの弁護士として合わないよねと。うちは大手ファームで、しかも企業の大金が動く世界だから、そんな格好だとまずクライアントに相手にしてもらえない。ハーヴィーがマイクを連れてクライアントに会いに行っても、ハーヴィーと握手した後にマイクを一瞥して無視して行っちゃうシーンもありました。だからこそ、ナメられないようスーツを手に入れるとか。説教くさくなく、さりげなくハーヴィーの教えが入っていると思います。


ーーバディであるマイク、そして大貴が成長していく物語でもあると。


織田:彼が成長する一方で、そのあとは逆に僕が彼の能力に助けられたりとか。2人の中の秘密で、他のファームの仲間も知らないのですが、マイクには弁護士資格がないんです。資格があるからって優秀なわけではないけど、法律の世界では資格がないこと自体がダメなんですよ。そのドキドキがありますね。正午と大貴は、最初は互いに自分の利益のために相入れたコンビなんですけど、その2人が徐々に認め合っていく。僕の中で、このドラマは弁護士ものではないんですよね。弁護士という職業ではあるけど、あくまでファームの中の話で、人間関係が面白い。『踊る大捜査線』もそうでしたけど、こんな事件が起きました、犯人は誰々で、という部分に重きを置いてるわけじゃなく、そこから発せられるメッセージが大切だったりする。


■「当時は『男性主役はダメと言われて終わっちゃうのかな』と思っていた」


ーー甲斐正午は、勝つためなら何でもやるという傲慢な人物ですが、演じてみていかがですか?


織田:やっぱり傲慢に映りますかね(苦笑)。僕、原作のハーヴィーを見てて傲慢だと思ったことが一度もないんですよ。むしろ僕が弁護士を頼むなら、こういう人にお願いしたいと思うぐらい。原作には、ハーヴィーがマスタングを借りて出て行くシーンがあって、マイクがちょっとでも遅刻したらもう置いていっちゃう。これもひとつの教えですよね。時間に遅れるなんてもってのほかだよという。言わんとしてることは実はベーシックで、新人に対して「時間に遅れたら行っちゃうよ」ということが、かっこよく撮られている。むしろ、ハーヴィーは優しいと思いますよ。実は面倒見がいいというか。僕らが芝居の世界に入ってもそうでした。先輩役者の方たちとお芝居させてもらう中で、教えてくれた人なんてほとんどいませんよ。芝居は正解がないものだから。一度だけ、山崎努さんが教えてくれましたが、役者を30年やっていて、それ以外に教えてもらった経験はないと思います。山崎さんも一言だけぽろっと「私はこう思った。こういう考え方もあるかな」っておっしゃってくれました。その時はもう撮影が終わっていたので、直せなくて「しまった、そのやり方のほうがよかった」と後から悔しい思いをしましたね。


ーー先日『東京ラブストーリー』が再放送されていましたが、織田さんにとって、やはり月9には特別な思いがありますか?


織田:僕が初めてやった月9が『東京ラブストーリー』だったんです。当時、僕は連ドラをほとんどやったことがありませんでした。当時は、若い男が主役のドラマがなく、もっとキラキラした作風で、女性が主役でした。もちろん例外もありますが、男が主役のドラマなんて「は?」って言われる時代で。「ドラマを観てるのはF1層の女の子なんだから、女の子が主役で当然でしょ」と言われちゃう。「いやいや『探偵物語』(松田優作主演)は男性主役でしたよね」って僕が言うと、「視聴率取れなかったから」って一言言われて。「でも記憶には残ってるじゃないですか、いいドラマじゃないですか」って一生懸命言っても響かなかったんですよね。でも、僕がそう言ったことが、誰かの心に引っかかってたんでしょう。「男性主役の話をやりませんか?」と言ってくれる人が違う局にいて、そこに飛び込んだのですが、結果的にあまり上手くいかなかった。当時は「男性主役はやっぱりダメだと言われて終わっちゃうのかな」と思っていました。僕は「どうしてラブストーリーなんですか?」っていつも言ってたんです。「ドラマは女の子が観てるというけど、男だって観たいんですよ」と。女の子も仕事をはじめて、社会の向きも男女対等に変わっていっている。「仕事をしてる女の子は『私たちだってあんなに恋愛ばかりじゃないよ』と思ってるんじゃないですか? 仕事を一生懸命やろうとしてる女の子もいるんじゃないですか?」と。そんなことを言ってたら、もう1回フジテレビさんで、月9ではないけど『振り返れば奴がいる』という医者のドラマに呼ばれました。僕も、これを外したら男主役はなくなってしまうのではないかと危機感を背負ってて。絶対勝とうと思いました。


ーー織田さんが男性主役のドラマを切り開いたと。


織田:いや、自分がやったわけではないですよ。ただ、それしかなかったんです。やらないとまた、「男主役のドラマはなし、ほれ見ろ言わんこっちゃない」と言われるのは嫌だったから。これは絶対に勝たなきゃいけないと思って挑みました。


■「中島くんは僕なんかよりよっぽどスマートで賢い」


ーー今回、中島裕翔さんとのバディものとしても見どころもあると思いますが、織田さんから何かアドバイスをしたりは?


織田:お節介しちゃう時もありますよね。もったいないって思うから。もう帰ってこないですからね、25歳は。当然僕も同じ年齢を経験しているから、彼の気持ちも手に取るようにわかるんです。だけど、中島くんは僕なんかよりよっぽどスマートで賢い。彼の役だから、彼が思ったように作ればいいと思います。だけど、逆に僕に遠慮されるのも嫌だから、「本当はそう思ってるのになぜ言わなかったの?」とか、「台本が引っかかってるんだったら、監督に相談すればいいじゃん」という話はしたこともありますね。


ーー30年以上キャリアのある織田さんは、下の世代にどんな印象を抱いていますか?


織田:この間、たまたま母校で撮影があった時に、学長先生や理事長先生ともお話をしたんですけど、「学校から不良がいなくなった」と寂しそうに言ってるんですよ。僕らがいた頃は、軍隊みたいな学校だったので、ものすごく厳しかったんですけど。「どうしてですか? 影でこそこそやってるんじゃないですか?」と僕が言ったら、「それっぽいのを捕まえて言っても、不満がない」と言うんですよ。最近の生徒は、両親にも生徒にもよくしてくれている。だから、ある意味では恵まれてるのかもしれないけど、時に怒りやなにくそと思う力は原動力になるじゃないですか。だからこそ、僕たちが現状を変えようと突き動かされる。今はその反骨心みたいなものが、もしかしたら減ってきているのかなと思います。


(大和田茉椰)