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原作者&監督が語る「ガイコツ書店員 本田さん」誕生秘話とアニメ版の見どころ【インタビュー】

2018年10月07日 12:53  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

原作者&監督が語る「ガイコツ書店員 本田さん」誕生秘話とアニメ版の見どころ【インタビュー】
「ヒマそう、楽そう、刺激とかなさそう」といった書店員のイメージを根底から覆したコミックエッセイ『ガイコツ書店員 本田さん』。本田先生の約10年に渡る書店勤務に基づいた書店員たちの“大変な内情”を、作者の分身である主人公・ガイコツ書店員本田とその同僚たちを通じてコメディタッチに描く人気作だ。

監督は、人気Flashギャグアニメ『秘密結社 鷹の爪』を制作するDLE所属クリエイターの轟おうる氏が担当。まさに“最適解”と思えるタッグに期待感が高まる9月某日、DLEにて本田先生と轟おうる監督にアニメならではの見どころを訊いた。


――本田先生はもともと書店員としてお仕事をされていたわけですが、もともとマンガは描かれていたんですか?

本田先生。劇中と同じようにガイコツのお面を付けてくれた
本田
描いていましたね。二次創作で同人誌即売会に参加したこともあります。ただ、プロを目指そうといった目的はありませんでした。

――書店で働きたいと思ったのはマンガが好きだったからですか?

本田
マンガが好きでしたけど、マンガ売り場を担当したかったわけではないんです。
最初の面接でもマンガ売り場を担当させるつもりの質問はなく、「小説読みます?」と聞かれたくらいです。

本当はあまり読まないのに「読みます」と答えて、「これは小説売り場かな?」と思っていたら採用の連絡があり「マンガ売り場の担当をお願いします」と言われ、「ええ!?そんな気配なかったじゃん」と驚きました。
結果的にバイト時代から約10年間マンガ売り場を担当しました。ちなみに後から理由を聞いたら、単純にマンガ売り場担当者が急に辞めたからだそうです。

――『ガイコツ書店員 本田さん』をマンガとして描かれたきっかけは?

本田
バイト中にやたら変わったお客さんが来るので、ネタにして描いたら面白そうだと思ったからです。バイトを初めて2,3年ぐらい経った頃、ネームみたいなクオリティでバイト仲間や友人だけに見せたら「面白いじゃん!」と言ってくれて。
その後も変わったお客さんがドンドン来るものだから、せっかくだしpixivに載せてもっと多くの人に読んでもらうと思って、そこから本格的に描くようになりました。

――劇中でよく描かれるように、書店員の大変さを伝えることが目的でしたか?

本田
書店員としてくくってしまうとスケールが大きくなり過ぎちゃいますね。あくまでも私が働いていた書店がそういう状況だったという話です。
自分が経験したことを描くにあたって、「他の本屋さんの状況は知らない」というのをほぼ毎話、注意書きのように差し込んでいます。

私がいた本屋がたまたま変なお客さんがいっぱい来たり、大型の本屋さんだったのでフェアを組む時などに注文する本の量に圧倒されたりしていたので、そういった所からネタにしていきました。

――監督は原作を読んで、書店員に対するイメージが変わりましたか?

轟おうる
実は私も書店で働いていた時期があるんです。売り場は担当していませんでしたが、間近で現場を見ていたので、「いつも大変そうにしているな」「本が重そうだな」といった印象がありました。
それでも作品を読んでいると、「思ってた以上に重労働なんだな」と新発見がたくさんあって面白かったです。

真剣な顔で原作を読み返す轟おうる監督

――主人公や同僚の書店員たちをガイコツや動物などデフォルメしたのはなぜですか?

本田
職場に面白い人が多いのですが、似せて描いちゃうとマズイなと思って「じゃあいっそのこと顔を隠しちゃえ!」と。
描き始めた当初は主人公が紙袋被っていたり、ニワトリ頭だったりと規則性はなかったんですけど、徐々に統一していき最終的には、主人公はガイコツ、同僚はかぶり物、出版社関係の人は紙袋系、編集部の人は首から上が動物となりました。

私の分身である主人公をガイコツにしたことに対して、「死後の世界に興味あるの?」と良く言われるんですが、そこまで深く考えていなくて、単純に子どもの頃からモチーフとして好きだっただけです(笑)。

――デフォルメされたキャラクターを見て、モデルになった同僚は驚かれませんでした?

本田
そこは最初にモデル化していいかお願いするときに「狐にします」とか「紙袋被せます」と伝えていました。
ただし、ジーンpixivで公開されたマンガを見て、「狐ってこういうことかよ!?」と驚かれました。「人間の顔に頭から耳が生えているんじゃないの?」と言われて、「あ!そだよね!」と思ったんですけど……受け入れてもらえて良かったです(笑)。

デフォルメを振り返っても、「頭に耳を生やす発想はなかった!」と驚きを隠せない本田先生

――監督は被り物のキャラクターを動かす時に、表情の問題などで難しい点はあったのでしょうか?


DLEに入社して以来『秘密結社 鷹の爪』のようなコメディアニメばかり作ってきたので、普通の人間じゃないキャラクターを扱うことに抵抗や苦労はありませんでした。
確かに表情を出しにくいキャラクターデザインではあるんですけど、原作でもショックを受けた場面では顔に影を強く入れるなど分かりやすい描写がふんだんにあったので、アニメーション化した際のイメージはしやすかったです。

あと、私がアニメで足した要素としては、主人公の本田の描写ですね。先生は、ガイコツの主人公であっても、人間として扱っているのが読んでいて分かりますが、やっぱりガイコツなのでアゴを外すとかしたくなっちゃうんです(笑)。

原作では血を吹き出すような描写はあっても、骨が外れる描写はなかったので、せっかく骨なのに勿体ないと思って、アニメではアゴを外したり頭を360度回したり、目から物が入って口から出たりさせています。


本田
そのあたりはアニメならではの面白さですよね。顎関節がマンガの中でボロっと落ちても分かりにくいと思うんですけど、アニメだと落ちたらすぐに分かるので、そこは遊んで頂けて良かったなと思いました。

轟おうる
よかったです! 奇しくも今年の3月に映画『リメンバー・ミー』が日本公開されたのを見て、「よし、これは(頭を)回すしかねぇ!」と思って過剰に回してしまいました。

■「反撃できなかったからパンチを食らい続けるしかなかった」書店員時代

――劇中では「砂漠みたいな心で接客をしている」という発言もありましたが、実際にそこまで疲弊していたのですか?

本田
原作に登場したようなパンチが効きすぎているお客さんが来ると、対応に疲れ果ててしまうこともありました。私の場合はそういったことを積み重ねていたので、「たとえパンチを食らっても、こちらの心が砂漠であれば、向こうが拳を埋めただけに過ぎないので、何も感じなくて済む」と思って働いていたのは確かです。

――そこまでパンチのあるお客さんが来るものなんですか?

本田
もちろん、お客さんの8割は目的の本を買ってサーッと帰って行くような穏やかな方だと思うんです。
ただ、ごく稀に“スーパー無頼者”みたいなお客さんが来ることがあるんです。私の中では「来ちゃったら仕方がない」天災のようなものでした。

本当は「書店員だからと言って、そんな扱いをされるのは嫌だ!」と表明できたら良かったんですけど、私は反撃できなかったのでパンチを食らい続けるしかなかった。
そういうお客さんは、さっきまで普通に喋っていたのに、突然豹変するので接客は最後まで気を抜けないんです。
全てのお客さんを疑っていたわけではなく、いつ豹変されても傷跡が最小限ですむようにカラカラの心でいようと。

こういうの本当にあったんだよ~と“あるある語り”をする本田先生

――監督はそういったパンチ力のあるお客さんをアニメではどう描こうと?


シナリオの打ち合わせ段階から先生にはご参加頂いていたんですけど、ネガティブなエピソードに対してすごく気を使っていらっしゃるなと感じました。なので、アニメを観た方が「こんなお客さん来たら嫌だなぁ…」と生々しく感じすぎてしまわないように、コミカルな演出を意識しました。

――そのほか演出面で工夫されたことは?


ギャグ要素に主軸が置かれている作品なので、まずは原作のテンションやテンポ感を損ねないように意識しました。
それと、マンガ独自の表現手法をアニメ向けに変換する必要がありました。本屋さんのお仕事事情解説も面白さの一つでしたから情報量が多いんです。キャラクターのセリフとモノローグ、テロップなどが同時に一つのコマにあるとか。

そのまま忠実に映像化しても、ギャグアニメとしてはテンポが悪くなったり、情報を詰め込むことですごく駆け足になったりすることが危惧されたので、ギャグアニメとして収まりが良くなるように言葉選びや表現を変えました。「すみません、ここは間引いて時系列を整理します!」といった再構成もしています。

本田先生「自分はアニメ制作の素人なので、監督を信頼していた」


私は先生の味のある言葉選びが好きですが、耳で聞くとわかりづらい単語がけっこう出てくるんですよ。その辺りはシナリオ会議の段階で、脚本の岡嶋心さんやプロデューサーから意見をもらった上で、私が実際に絵コンテを切ってみて、「やっぱりここ分かりにくいな」という箇所があったら、同じ意味で分かりやすい言葉に置き換えたりしていました。

■即興でミュージカルが始まるような楽しい職場だった。それが作品を描く原動力になっている

――ここまで書店員時代の大変なエピソードを聞いて来ましたが、楽しかったエピソードはありますか?

本田
楽しかったエピソード?う~ん……(深く考え込む)。基本的に愉快な同僚たちに囲まれていたので、日常は楽しかったです。
あんまりマンガで描けていないんですけど、朝出勤すると、出版社に頼んだ本や新刊が日によってはバックヤードを埋め尽くしていることがあるんです。
レジに立つ人以外は上司・部下関係なく総出で、届いた本を各出版棚担当のスチール棚に振り分けていく作業があるんです。

そこで、あまりに量が多い時には即興ミュージカルが始まります。
「終わらない、ドコまでやっても~♪」というのが聞こえてきて、「いや!手を動かせば大丈夫!」と見えない所から掛け合いが起こる。忙しさが振り切ると、皆の笑いの感度がどんどん上がっていくみたいな現象がありました。

とにかく面白い同僚がいたことが、大いに心を助けられた部分ですね。
マンガを読んだ方に「そんなに笑いながら仕事していたの?」とよく言われますけど、「楽しくやらないとこの地獄は乗り切れなくない?」といったノリだったんです。「行くぞー!」みたいな無茶苦茶なテンションはありました。

制作現場を案内してくれた轟先生。ここで動画コンテ用の音を入れるらしく、映像は見ないでシナリオに忠実に仮で入れるとのこと

声優さんが演じる前に、監督が仮声を吹き込んだ動画資料を渡すらしく、声優陣はその演技力に「面白い!プロとして越えて行かないと!」と燃えたらしい

■アニメオリジナルエピソードもあり!本田先生がほぼ皆勤賞で脚本会議やアフレコ現場に参加

――アニメ化が決まってから先生はどれぐらいの頻度で制作に関わったんですか?

本田
脚本会議とアフレコ収録はほぼ皆勤賞です。

轟おうる
年明けくらいから脚本会議が毎週あったんですけど、ほぼ全部参加していましたよね。

本田
後から原作者は毎回出なくてもいいものだと知ったんですけど、最初は毎回出なきゃいけないものだと思っていまして……。

轟おうる
本田先生には主に専門用語の扱い方などを監修してもらいました。
原作で一瞬しか出番がないキャラクターを制作の都合で差し替える時は、「誰に置き換えたら自然ですか?」など相談させてもらいました。

あと、最後の方の話数でアニメオリジナルエピソードがあるんですけど、それに関しても原案を頂きました。本当にすごくご協力を頂いています。

轟監督の作業机。すぐ隣は作画監督

本田
あとマンガではガイコツですけど女性の私がモデルなのに対し、アニメでは男性の声優さん(斉藤壮馬さん)が起用されることが決まっていたので、「女の子に対して可愛いって言いすぎないほうがいいんじゃないか?」とか。


ありましたね。女性が同性を見て「美人だな」と思うのと男性が思うのとではやっぱり意味合いが違うじゃないですか(笑)。そこは言い回しを変えたり削ったりしました。
最終的に斉藤壮馬さんの声質とお芝居もあって、中性的な立ち位置に落ち着いてだいぶ自然になったんですけど、ジェンダー問題ではだいぶ気を使いました。

本田
怒られたくない一心でしたね(笑)。


――アフレコ現場はどんな雰囲気でしたか?


アフレコにも本田先生はほとんど参加されていたので、イントネーションが分からない所は都度確認してもらいました。

あと、音響監督と声優さんとで柔軟にいろんなアイデアを取り入れる現場でしたね。例えば、マッチョのBL本に声を付けるべきか否か、映像を止めて悩んでいたら、それを見たフルフェイス役の安元洋貴さんが「俺の出番だ!」みたいにガラス越しにアピールしてくれて、実際にお願いしたり。そんなふうに皆さんノリノリでとても雰囲気が良い現場でした。

今回は兼ね役が多いのも見どころだと思っていまして、「スタッフロールでこの声優さんはこの役もかけもちでやってたんだ!」と確かめるのも楽しいかもしれません。
第1話に登場するヤオイガールズもほとんどレギュラーのキャストがやっていますから。皆さん引き出しをフル活用してくれています。

■アニメは原作よりも見やすくなっている!?

――監督は『秘密結社 鷹の爪』制作の経験が活きたと感じるところはありますか?


あるとすれば、“省エネ”の仕方ですかね。正直に言うと、制作予算やスタッフの数、フラッシュアニメーションで作っていることもあり、動きが多い作画が困難な状況ではあります。
『秘密結社 鷹の爪』よりは動いているんですけど、キャラクターの立ち絵がパタパタ反転するのが基本条件の中で、どれぐらい躍動感を出せるかというのが今までの経験を活かせたと思います。「ここは簡単な動きで見せよう」とか「ここは描き込んだほうが面白い」といったメリハリは意識しています。


本田
この間、エゴサーチしていたら、映像を見た人から「原作よりも見やすくなっている!」といった声がありましたよ。

轟おうる
本当ですか! ? 嬉しいです!

――最後に第1話の見どころを教えてください。

本田
第1話はオールスター回です。お客さんもとりわけ濃い人が出てくるし、本屋さんの主要メンバーも揃っています。
私は笑っていたらあっという間に観終わってしまったので、誰がどの端役を兼ねていたのか追い切れませんでした。短い時間なので何回も観て欲しいなと思います。
あと、実在すると思しき作品名がたくさん出てくるんですけど、不自然にならないような音響を入れてタイトルの読み上げを隠しているところも見どころです。よくあるピーは使っていません。

轟おうる
OPとEDの楽曲もすごくいいですね(※)。
それぞれTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDさんと高野寛さんに書き下ろしていただいたのですが、歌詞も書店や本に関連づけられていて素晴らしいです。メンバーの一人・松井さんは書店で働いていた経験があるそうで。書籍のISBNコードをフィーチャーして楽曲を作ってくるなんて思わなくて驚きました。

※OPはTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat.本田(CV.斉藤壮馬)の「ISBN ~Inner Sound & Book's Narrative~」、EDはTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND feat.高野 寛の「Book-end,Happy-end」。

映像は本編同様私が担当しましたが、楽曲の力にすごく引っ張られましたね。OPは激しい曲調に合わせて思い切ってカラフルに、EDは1日の終わりに見た後「明日も頑張るぞ!」と思えるような仕上がりを目指しました。

実は…第1話で見れるのはOPだけなんです。それだけ、本編は今後の方向性を決める要素を詰め込んだ濃密な仕上がりになっています。素敵なEDはぜひ第2話で確認してください!