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へきトラハウスはなぜ音楽活動を本格化した? 初EP『搬送』に見る、過激派YouTuberのスタンス

2018年10月07日 07:21  リアルサウンド

リアルサウンド

 チャンネル登録者数145万人(2018年10月現在)を誇る人気YouTuber・へきトラハウスが、9月18日に初の音楽作品『搬送』を配信リリースした。本稿では、険しい道を果敢に突き進んでいく彼らの魅力を、アルバムの音楽性とともに考察していく。


(参考:破天荒YouTuber・へきトラハウスが愛される理由ーー『ここまで来たか、トランジスタ』レポート


過激派チャンネルの代表格から音楽活動へ
 相馬トランジスタ、へきほー、カワグチジンの3人から成るへきトラハウス(以下、へきトラ)。2014年に活動を開始し、ワタナベマホトらとともに“仲間家”での生活を送りながら、体を張った“やってみた系”の検証動画を中心に、精力的にYouTube活動を行ってきた。昨年9月にはチャンネル登録者数100万人を突破し仲間家を卒業。“過激派チャンネル”の代表格として若者から大きな支持を得ている。


 一方、今年4月に公開された「頑張っている全ての人へ」は、これまでのへきトラの動画とは180度異なる方向性の、真っ直ぐでメッセージ性の強い動画となった。劇団スカッシュによるYouTubeドラマ『シューティングスター』の主題歌として書き下ろされた「流星」とともに“努力”をテーマにしたMVに仕立てられ、後半ではSEIKIN、東海オンエア、瀬戸康史など人気YouTuberからの「頑張れ!」というメッセージも添えられていた。


 一見すると意外にも思えるへきトラの音楽活動だが、メンバーのカワグチジンは以前から「ヒップホップが好き」と公言しており、水溜りボンド・トミー企画の「【MV】尖ったYouTuberだけでラップしてみた」にも出演している。そして、満を持してリリースされた『搬送』では、ラップを取り入れながらも、ポップスやロック、テクノの要素を取り入れたバラエティ豊かな楽曲に挑戦している。


バンドとの繋がり
 へきトラハウスのデビュー作となった『搬送』は、神聖かまってちゃん・の子が書き下ろした「だって笑ってんじゃないの」をはじめとする全5曲を収録。「くずむしの歌」では相馬が作詞に挑戦している。


 の子はYouTuber好きとしても知られており、へきトラとも交友関係があった。先述の「頑張っているすべての人へ」にも出演しており、その意味でファンも納得のコラボレーションと言えるだろう。へきトラがこれまでの活動でぶつかってきた壁と、伝えたいメッセージを表した「だって笑ってんじゃないの」は、センチメンタルな雰囲気の漂うポップチューンに仕上がっている。


 の子の手がける切ないサウンド、歌詞も絶妙である。ずっと彼らを見てきたの子だからこその<だってあなたに前を向いてほしいから僕は歌うだけさ>というフレーズからは、両者の信頼関係も見えてくる。


 へきトラはYouTuberだけでなくCrossfaith、coldrainといったバンドとも交流がある。リリースによって活動の幅が広がった彼らの垣根を超えたコラボレーションに期待が高まるところだ。


へきトラハウスだからこその作品になった『搬送』
 HIKAKIN&SEIKINを皮切りにフィッシャーズ、スカイピースなど続々とYouTuberが音楽業界に進出している。キャラクターがすでに確立されており、十分すぎる認知度がある中で作られる作品は、チャンネルの色がそのまま色濃く出たものばかりだ。


 しかしへきトラの場合は、表題曲からもわかるようにメッセージ性を全面に打ち立てている。チャンネルの色からすれば、もっと過激でギリギリを攻めた作品にも出来たはず。あえてそうしなかったのは、彼らがこれまで真摯にYouTube、そしてリスナーと向き合ってきたその姿勢を、音楽でも表現したかったからなのではないか。


 音楽活動を行っている過激派チャンネルといえは、レペゼン地球を思い浮かべる人も多いだろう。DJ集団である彼らはクラブ、ダンスミュージックを軸に過激派の冠そのままのドギツイ下ネタをそのまま楽曲にしているが、もともとアーティストであるレペゼン地球とは違い、へきトラはYouTubeが主戦場である。楽曲の方向性とメッセージ性という観点から、YouTuberとしての活動と音楽活動をしっかりとすみ分けしたのは、彼ららしいスタンスとも言える。


過激派チャンネルとしての苦悩が表現された「くずむしの歌」
 動画では表現しきれなかった彼らの考え方やコンセプトが、わかりやすく打ち出されている本作品。相馬トランジスタが作詞に参加した「くずむしの歌」の一節にはへきトラの核となる部分が描かれている。


 「もうダメかもあちこち痛いよ。もう少しもう少し歯を食いしばり生きてます」とストレートに表現されたサビのフレーズには、炎上や病気など多くの苦悩を経験してきた相馬の切実な思いが詰め込まれているのだろう。しかし「何でだろうわからない。鏡の前で笑ってるんだ」と続く歌詞で、それでも楽しく毎日を過ごしていることが伺える。ジャケットでは、ボロボロの姿でゴミ捨て場に倒れる相馬が写されており、過激派YouTuberの道の険しさを表現している。


 ネットでは「YouTuberが音楽に安易に手を出すのはどうなのか」という意見がたびたび見受けられる。それはへきトラも例外ではなく、中には厳しい声もあった。


 しかしグループによって音楽をやる理由はそれぞれだ。「YouTuber」と一括りにして論じても、建設的な見方にはたどり着かないだろう。へきトラはこれまでも、感謝や応援といった、チャンネルの色とは異なった部分を表現するために音楽を活用してきた。この作品は、そうしたスタンスの延長線上にあるもので、彼らにとっては必然性のある作品なのである。


 9月20日に豊洲PITでのライブイベントを終えたばかりのへきトラ。今後はYouTubeだけではなく、音楽でもファンを楽しませてくれるに違いない。


(馬場翔大)