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時事ネタ動画「せやろがいおじさん」ブレイク、「正論言ってるつもりはない」と語るワケ

2018年10月06日 10:32  弁護士ドットコム

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今、インターネット上で、「せやろがいおじさん」というキャラクターが登場する動画が、じわりじわりと人気をあつめている。


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赤いふんどしとハチマキを身に着けた男性が、沖縄の美しい海を背景に、テンポの良い関西弁で、真正面から「時事問題」に切りこんでいく。そして、最後は「せやろがい!」(関西弁で「そうだろうが」の意)という決め台詞で締めくくる。そんなユニークな動画だ。


今年7月に投稿された「違法アップロードされたエロ動画を見るやつに一言」というタイトルを皮切りに、「東京オリンピックのブラックすぎるボランティアについて」や「新潮45のそんなにおかしいか杉田水脈論文について」が立て続けに話題となり、「正論だ」「スカッとする」と反響を呼んでいる。


せやろがいおじさんの正体は、沖縄を拠点に活動しているお笑いコンビ「リップサービス」の榎森耕助さん(31)だ。奈良生まれで、子どものころは「ダウンタウン」に憧れる少年だったという。大学入学を機に沖縄に来て、学校の先生を目指していたが、挫折。その後、沖縄の芸能事務所「オリジン・コーポレーション」で本格的な芸能活動をはじめた。


約2分程度の動画は、自分で台本を書いて、撮影・編集している。ネット上でにわかに有名になった今でも「まだまだハングリー」「学歴もそれほどなく、どこまでいっても自信がない」と笑う。だが、ツッコミ力だけでなく、取り上げる時事問題のテーマとスピード感さえも、記者顔負けのセンスだ。


10月上旬、仕事で上京した榎森さんに、時事問題に対する考え方や動画制作で気をつけていることを聞いた。


【動画】せやろがいおじさん、弁護士ドットコムニュースを語る


https://youtube.owacon.moe/watch?v=Z4PZEdRKPUA



●「もし間違いがあれば、素直に謝って、すぐに訂正すればいい」

――まず、時事問題をネタにしているのはなぜでしょうか?


もともと、動画は、「リップサービス」というお笑いコンビをもっと知ってもらって、漫才を見てもらいたい、という気持ちではじめました。それで、身近なあるあるネタを取り上げたりしていたんですが、それよりも時事問題をテーマにした動画のほうが、より共感されて、拡散されたんです。


たとえば、「違法アップロードされたエロ動画を見るやつ~」のときは、とくに反響が大きかった。AV業界関係者からも「よくぞ言ってくれた」というコメントが届きましたよ。「新潮45」のときは、LGBT当事者から「あの記事で深く傷ついていたけど、この動画で笑って、少し気持ちが楽になりました」といったコメントがありました。


――「正論を言ってくれた!」といった声もたくさんあがっています。


そう言ってくださる人にはとても感謝していますが、僕自身は「正論」を言っているというスタンスではないんです。そもそも「正論」という言葉の響きがあぶないと思います。たとえば、僕が間違えたことを発信してしまったときに、「彼は正論を言う人だから」と、そのまま鵜呑みにされたら、問題ですよね。


――そう考えると、時事問題をあつかうのはこわくないですか?


最近、こわくなってきました(笑)。基本的には、誰かを傷つける表現や、差別を助長させる、偏見を招くような間違いをしていなければ、ひとまず「OK」かなと。約2分の動画で、すべてカバーできるわけはなく、林修先生や池上彰先生のように豊富な知識があるわけでもない。だから、もし間違いがあったら、素直に「ごめんなさい」と言えばいいし、すぐに訂正すればいいと思っています。


●「できるだけ『視聴者目線』で考えるようにしている」

――ネタはどうやって探していますか?


ネットやテレビ、ラジオを使い分けながら、情報収集しています。ツイッターで見つけて、「これは!」と思ったら、翌日すぐに撮影することもあります。ただ、ネットの情報は信用できないことがあります。偏っていたり、情報源があやしかったりする。だから、テレビやラジオを視聴して、時間をかけて、情報収集するときもあります。


――ネタを決める際に意識していることは?


自分の中で「パワーワード」が浮かぶことですね。たとえば、最近、バスケットボール日本代表選手の不祥事がありましたよね。バスケ日本代表は「アカツキファイブ」(AKATSUKI FIVE)という愛称です。それで、「今、本当に大変だけど、明けない夜はないよ、アカツキファイブという愛称のように、また夜明けがくるよ」と言いたいなと浮かびました。あとは、できるだけ「視聴者目線」で考えるようにしています。


――失敗談はありますか?


最近、東京オリンピックに関する動画の第2弾を撮影しました。その中に「学生を動員するのはどうなんだ!?」というくだりがあります。「政府は、学生ボランティアは無償だけど、自発的に素敵な体験を求めてきてよと言っているけど、単位を与えるのは見返りですよね、これってどうなんですか!」という内容です。


この撮影のあと、オリンピックのボランティアについて特集しているラジオを聞いてみたら、ほかの国でも、学生に単位を与えて、ボランティアをさせることはあるらしい、ということを知ったんです。日本だけがおかしいというわけでない。そう考えていくと、かならずしも正しい意見ではないなと思って、その動画をボツにしました。


自分なりに勉強していますが、動画の編集のときに「ホンマにこれでいいんかな!?」と不安になりますよ。そういうときに、いろいろな情報をあつめていく。そこで、勉強不足や誤解に気づくことがあるんですよね。


●「デマの発信源になることは避けたい」

――まさに記者の仕事に近いと思います。


今回の沖縄県知事選でも、「デマ」が流れていました。なまじ、ツイッターのフォロワーが増えて、拡散力がついてきただけに、僕の動画がデマの発信源になることは避けたいと思っています。


デマそのものにも相当腹が立っていますが、「これはデマだ」とか「デマを出すやつはダメだ」とか「いや、これはデマじゃないぞ」とか、みんながデマに関していろいろ言いはじめたことも残念でした。本来、一番大切なのは、政策を議論することじゃないですか。語るべきところがズレて、すごく無駄だったと思います。デマを信じて一票を投じることがあれば、のちのちその一票を後悔するだろうし、正しい選択になりえないと思うんです。


――今後、どういうテーマをあつかっていくつもりですか?


AV業界関係者に響いたように、たとえば、アニメ業界の「給料低すぎ」問題など、いろいろな業界が抱えていることを勉強して、自分なりの答えを見つけたら、そのテーマでつくっていきたいです。


また、日常の細かいところで共感を呼ぶような動画もつくっていきたいですね。あと、たとえば、「TikTok」(ティック・トック)なんかも使って、若い人たちへのアプローチも考えたいですね。


小学校の算数の授業で、「タカシくんが10分前に時速5キロで家を出発しました。ヨシコちゃんが時速8キロで追いつくには何分かかるのか、もとめなさい」という問題がありましたよね。これ、まったく面白くないでしょ。


だったら、「ピカチュウが時速5キロで逃げました。モンスターボールを時速10キロで投げたら、何秒後にゲットできるか」のほうが面白いでしょう。「そういうふうに工夫して!」という動画をつくったりしたら、学生にも届くかなと。


――「世の中を変えたい」といった野望はありますか?


そこまで大それたことは考えていません(笑)。なかなか声に出しづらいと感じている人たち、ふさぎ込んだ顔になっている人たちが、僕の動画を見て、少しでも良い感じになってくれたらうれしいです。


本業はお笑い芸人だから、将来的には、漫才を認めてもらって、大きなメディアで活躍したいです。そして、これまで応援してくれた人たちに、その姿を見てもらいたいです。また、僕たちの漫才を見るために沖縄に来て、沖縄のほかの芸人のことも好きになってもらえたら、とも思っています。


●榎森さんが運営しているYouTubeチャンネル「ワラしがみ」


https://youtube.owacon.moe/channel/UCe6tWL2GoemBsKFLyn5ZpgA


(弁護士ドットコムニュース・山下真史)


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