トップへ

“ジャイアンデビュー”から13年…木村昴、声優キャリアを振り返る「最初は記念受験のつもりだった」

2018年10月05日 21:23  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

“ジャイアンデビュー”から13年…木村昴、声優キャリアを振り返る「最初は記念受験のつもりだった」
『ドラえもん』のジャイアン役を14歳から13年間務めており、近年は『暗殺教室』や『Dance with Devils』、『遊☆戯☆王VRAINS』などといったアニメでも主要キャラクターを演じている木村昴。若くして注目を集め、キャリアを重ねてきた彼は順風満帆のようにも見えるのだが、そこには若さゆえの戸惑いがあったという。

「アニメ!アニメ!」では、過去に木村へインタビュー(※)を行なっているが、ここで改めて“声優・木村昴”の軌跡を聞いてみた。前後編にわたってじっくり振り返ろうと思う。

■最初は記念受験のつもりだった

――そもそも、木村さんはどういったキッカケで声優になったのでしょう?


木村
これがちょっと複雑なんですけど……語弊を恐れずにサクッと言っちゃうと、子どもの頃から子役をやっていたので人前に立って何かを表現して、見た人に何かしら感じ取ってもらいたいという夢みたいなものをずっと持っていたんですよ。
ジャングルクルーズのお兄さんになりたい、ミュージカル俳優になりたい、ラッパーになりたいって。一番強かったのは、ミュージカル俳優なんですけど。

――なぜミュージカル俳優?

木村
もともと大好きだったんです。両親がオペラ歌手なのでオペラもいいなと思ってたし、両親もやってほしかったのかレッスンをさせるんですけど、やっぱりプロなんで厳しいんですよね! で、もうオペラはやりたくない!みたいな(笑)。
両親に反発する意味もありましたし、全く同じ道をたどると両親を超えられないと思ったので。超えるためには別の道をと思ってミュージカルで行こうと思っていました。歌で表現するという意味では似てるじゃないですか。


――夢がすべて「人の前に立つ」で共通しているところが、木村さんの本質を現していますね。そんななかで、『ドラえもん』のオーディションが。

木村
中学生の頃ですね。「何でもやってみよう」とトライできる年齢になった時期と、『ドラえもん』のオーディションが重なって、「じゃあ」と受けてみることにしました。もちろん受かるとは思っていなくて、ダメもとの“記念受験”のつもりでした。
何年後かにミュージカル俳優かラッパーとして成功したとき、「実は昔、『ドラえもん』のオーディション受けたんだよ」とネタにできたらな、ぐらいの気持ちだったんです(笑)。

――オーディションでは役を何役でも選べたとか。なぜジャイアン役を選んだのでしょう?

木村
記念受験ぐらいの心持ちとはいえ、ドラえもんはちょっとビッグネーム過ぎるなってビビっちゃったんですよ(笑)。
あと、しずかちゃんものび太もスネ夫も、僕の性格とだいぶ違うのでちょっと入り込めないなぁって考えて、割とポンポンと「ジャイアンしかないな」って決めました。
第一次審査は、テープオーディションだったので声を録音したMDを送ったんですけど、僕的にはもうそれでミッションコンプリートだったんですよね。


――「受けたことがある」って言えますもんね。

木村
そうそう、もう送ったんで(笑)。
やりきったんですよ、僕的には。何十年後かに『情熱大陸』で「実は俺ね、受けたんだよ。今やってる2代目の人たちには頑張って欲しいね!」って言う準備は整ったと(笑)。もうオールクリアだったんですけど……。

――二次審査に進めた。

木村
びっくりしましたね。それに二次審査はアフレコブースで受けるんですよ。行くと、ジャイアンを受けている選りすぐりの声優さんたちが順番を待っているんです。
それを見て「ちゃんとやらなきゃバチが当たる。記念受験なんて言ってらんねぇ!」と思って身が引き締まったのは覚えてますね。まだ合格するとは思ってなかったんですけど、とにかくやるだけやろう。じゃないと失礼だとは思ってました。
そうして三次に進んだときは「ここまできたら受かりてぇ!」って思うようになっていました。

――そうして見事合格しましたね。

木村
まさか本当に合格通知をいただけるとは思いませんでした。

僕の声優デビューがこういうスタートなので、失礼で生意気かもしれないですけど、なろうと思っていなかったけれどチャンスをいただいたという形です。
「剛田武役、木村さんでお願いします」と言われたその日から、今までやってきたことや目指してたもの全部水に流して。「俺は今日から声優だ」と覚悟を決めました。

→次のページ:未だに僕の師匠はスネ夫なんです

■未だに僕の師匠はスネ夫なんです

――声優一本で行こうという覚悟はかなり重いものだったんですね。

木村
そりゃあやりたいことたくさんあったけど、今はダメっていう感じでしたね。夢のまた夢、このさき一端の声優になれたときにちょっとわがまま言ってみようかな、というぐらいでした。
当時はまだ学業もありましたし、片手間じゃあできないですから。「なんかなれちゃいました声優~」みたいな気持ちでやったら『ドラえもん』に失礼だと思ったので、「一端の声優になるんだ」とそれだけを考えてやってきました。

環境も180度、まるっと変わりました。プロデューサーからは、「『ドラえもん』のことを第一に考えてくれって」って口酸っぱく言われていましたし、一挙手一投足、ジャイアンとしてというつもりで生きてきましたから。

――実際に、「声優」というお仕事をやってみてどうでした?

木村
どうこう思う間もなかったですよね。だって、現場でのあれこれも何もわからないんです。
「台本に書き込むペンはそういうのなんだ」「現場ではそういう靴をはくんだ」「マイク前までそうやって歩いていくんだ」っていうレベルだから。やるしかねえんだっていう張り詰めた感じでした。

――まわりに聞いたりしなかったんですか?

木村
そこも当時の僕の勝手な考えなんですけど、対等にやっているクルーなので「教えてください」っていうのも何か違うなって思っていたんですよ。
「はじめてだって思われたくない」っていう子どもの見栄もありましたし。

それに、正直高校生になるまで家にテレビがなかった家庭なので、声優さんのことも全く知らなくて。
合格した瞬間も、僕以外みんな大人で経験者という環境でありながら「『ドラえもん』の声優っていう意味ではみんな同じスタートラインに立ってるんだ」っていう変な思い込みがあったんですよ。
だから、スネ夫役の関智一さんに「男同士、頑張りましょう」って言っちゃったんですよね。最大のミスですよ……(苦笑)。


――はじめてだから仕方ないといえばそうなんですけれどね。

木村
基礎も知識もないですからね。とんでもなく空回りしていました。
でも、そんなとき背中が大きく見えたのが関さんなんですよ。しばらくしてようやくいろいろ聞けるようになって「僕、何がダメですか? どうしたらいいですか?」って聞いてアドバイスをもらっていました。だから未だに僕の師匠はスネ夫(関さん)なんですよね。

――もう13年演じていますが、ジャイアンを演じるうえでのポリシーってありますか?

木村
うーん、ずっと考えてはいるんですけど、まだ不安な部分は多いのではっきりしたものはないですね。
だって、26年間先代が演じてこられて確固たるものがあるのに、2代目のキャストはモノマネにならないよう2代目にしか出せないものを作らなきゃいけないんです。もう、無理~!ってなるんですよね。
たまらず、たてかべ和也さん(先代ジャイアン役)に相談したら「俺はもうジャイアンじゃないから」と教えてくれなくて。
唯一聞き出せたのが「ジャイアンは豪快なヤツだから思いっきりやればいいよ」だったんですよ。なので、それだけをヒントにどうにか噛み砕いてやってきたくらいです。

■心に余裕はできてきたと思う

――では、声優としてのポリシーはありますか?

木村
そうだなあ……欲しいですね(笑)。
っていうのも、ちょっとずつ歳を重ねていろんな役をやらせていただけるようになって、変わってきたんですよねポリシーが。
でもそんななかで変わらないのは、「出し惜しみをしない」ことかな。変な話、「この収録で終わっても良いや」「明日のことは考えない」っていう気持ちで毎回臨んでるんですよ。
今日のこの作品がうまく行かなければ、次はないじゃないですか。だから全力を出す。

――ジャイアンが教えてくれたというか。

木村
そうですね。当初は、ジャイアンをやると無理しているからか、毎週喉が枯れていたんですよ。で病院に行って、治ったらまた現場で枯れてって。そういうのを繰り返していると、そう思うようになるんですよね。
病院のお医者さんからは、「君の歳にはキツいよ」って言われたんですけど、「次のアフレコに行けなかったら意味がないんです。将来もなくなるんです!」って言ってやっていましたね。

――もう、根性ですね。

木村
結果、なんの影響もなかったので僕は大丈夫でしたけどね。そういうのを経験しているから、今もひとつひとつ大切に出し惜しみせずマイク前に立てているんだと思います。
ポリシーって言うほど大層なものでもないかもしれませんけどね。


――ちなみにご自身は声優向きだと思いますか?

木村
えー! そんなんわからないです(笑)!
正直僕、ずっと「こんな僕が声優で良いのかな」って思ってるし。そういう意味では自信がないんですよね。ただ、続けていきたいとは思っています。
中学生の頃、ジャイアン役に応募したあの瞬間から比べれば、声優になれていると思うので。

――声優歴13年にしても不安はあるんですね。

木村
そうですね。今からでもラッパーになれるならなりたいし、ジャングルクルーズのお兄さんになれるならなりたいですもん(笑)。……というのは冗談ですが、裏を返せばそう言えるくらい経験を重ねられて、心に余裕はできてきたと思います。それが自信と言えるのであれば、そうなのかもしれないです。

インタビュー記事後編はコチラ▼
「ジャイアンから脱しなければいけなかった」声優・木村昴の転機となった作品とは?