2018年10月05日 15:02 弁護士ドットコム
10月4日に始まった日弁連の人権擁護大会では、「組織犯罪からの被害回復~特殊詐欺事犯の違法収益を被害者の手に~」と題したシンポジウムも開かれた。シンポの中で、振り込め詐欺をはじめとする特殊詐欺の捜査の状況について、金の流れから犯人を割り出す「金融捜査」や「日本版司法取引」とされる合意制度の現状や課題が紹介された。社会問題となって久しい振り込め詐欺の被害が防止しきれない中、捜査にあたる人員が「圧倒的に足りない」と弁護士が指摘する場面もあった。
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特殊詐欺は、2013年から2017年の5年間で被害認知件数は毎年1万件を超え、2017年は最近5年で最多の1万8212件。被害金額もこの期間で565億円から394億円の間で推移し、高止まりが続いている。
従来、警察などの捜査機関は、電話をかける「かけ子」の拠点の摘発や、振り込め詐欺であることを知りながら被害者に連絡を続けてもらい、金を受け取りに来た「受け子」を逮捕する捜査(いわゆる騙されたふり作戦)を続けてきた。捜査の現状について報告した東口良司弁護士(京都弁護士会)によると、騙されたふり作戦による検挙者数は、ここ数年、特殊詐欺の検挙人員の約4割を占めていて、「中心的な取り組みになっている」と指摘した。
一方で、振り込め詐欺グループは、犯人間での接触を可能な限り遮断する傾向があり、「受け子」や「かけ子」を摘発しても、首謀者やグループ上位の犯人の摘発につながりにくい傾向がある。
東口弁護士が近年の捜査として紹介したのは、首謀者やグループ上位の人物に金が集まることに注目し、不審な資金の流れを特定して金の出所をさかのぼる「金融捜査」という手法。「金融捜査は、膨大な被害を根こそぎ没収できることにつながる意味で、極めて効果の高い捜査手法」した上で、「少なくとも日本で十分に行われているとは言えず、財務の専門知識を兼ね備えた捜査官の育成や配置が急務といえる」とした。
さらに、もう1つの捜査のツールとして期待が寄せられているのが、今年5月の法施行で始まった「日本版司法取引」と呼ばれる「合意制度」。合意制度では、犯罪の解明に対して真実の供述の協力をした被疑者に対して、検察官が不起訴にするなどの有利な取り扱いができる。
合意制度について報告した田中謙一弁護士(山梨県弁護士会)は、制度が組織犯罪の解明を前提としていることから、「特殊詐欺の捜査に合意制度を用い、有効な(首謀者などの摘発を狙う)突き上げ捜査のツールの1つとすることは制度の趣旨や特徴に合致する」と期待を示した。
ただ、田中弁護士が問題点と指摘したのが、捜査に協力した証人の保護の問題。「組織解明のために助力した被疑者らが、いわゆる『お礼参り』を受けるようなことがあれば、真実を供述することに萎縮する可能性がある」とした。イタリアの証人保護プログラムでは、居住地の変更や異なる身分の付与、場合によっては証言による収入減少に対する補償もあるという。田中弁護士は、「日本では、(裁判で傍聴席から姿が見えなくする)遮蔽措置があるが、合意制度を実効化する証人保護としてはいまだ不十分であると考えられる」とした。
東口弁護士は、金融捜査や合意制度などの新しい手法の活用に期待を示す一方で、「どんな捜査も大きな手間と労力が必要。手口が非常に巧妙化しているが、捜査側の手が足りない、つまり人員が圧倒的に不足している」として、事態打開に向けて資金や人員の確保も1つの考え方として許容されるのではないか、と投げかけた。
(弁護士ドットコムニュース)