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外国人労働者問題で日本は「ブラック国家」になってしまうのか 日弁連・人権擁護大会

2018年10月05日 10:42  弁護士ドットコム

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日本弁護士連合会の人権擁護大会が10月4日、青森市で始まった。「『外国人労働者100万人時代』の日本の未来」と題したシンポジウムでは、外国人労働者の受け入れを主眼とした新制度を中心に、国会議員や法務省担当者らが意見を交わした。日本以外の国でも労働者受け入れが進む中、日本において時給300円で働かされるような事例が発生していることなどを踏まえて、自民党の議員が「ブラック国家では外国人労働者が来なくなる」と危機感を示す場面もあった。


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●「カラスは白い」と言って、正面から扱ってこなかった

現在、法務省では、中小企業等の人手不足の深刻化を踏まえて、一定の専門性・技能があり、即戦力となる外国人材について、就労を目的とする新たな在留資格制度の創設に向けて検討が進んでいる。今月就任した山下貴司法務大臣は、2019年4月の制度開始に向けて準備する意向を示している。新制度では在留期間の上限が5年間で、家族の帯同を認めない方向。


シンポジウムでは、新しい在留資格制度を中心に議論が進んだ。現在まで日本では、アルバイトを認める「留学生」や技能の獲得を目的とした「外国人技能実習制度」など、正面から外国人を「労働者」として捉えてこなかった経緯がある中、自民党の外国人労働者等特別委員会委員長を務める木村義雄衆院議員は、「従来の日本は、(実態は労働者なのに正面から労働者として扱わず)『カラスは白い』といって外国人を受け入れてきた。今回の制度で、正面から堂々と入ってもらう」と制度創設を歓迎した。


経団連の井上隆常務理事は、制度の必要性に理解を示したうえで、「(在留期間が最長)5年に限らているが、良い人なら長くいてもらいたい」と指摘し、優秀な人材がより長く日本にとどまれる制度を要望。外国人労働者を支援するNPO法人の鳥井一平代表理事も、「即戦力だけでなく、担い手がほしいという(受け入れ先の)社長の声を聞く」と指摘し、最長5年間の在留資格では、人手不足で悩む現場ニーズに十分に応えられない可能性を示唆した。


法務省大臣官房審議官(入国管理局担当)として、新制度の設計に携わる佐々木聖子氏は「5年経過後に専門性などがあれば、(何らかの形で)在留期間を長くしたり、家族帯同を認める処置などを検討している。シームレスな制度として組み立てたい」と話した。


●「合法化するほど、外国人労働者の隷属度が強まってきた」

待遇をめぐる議論もあった。連合の村上陽子総合労働局長は、労働者は生活者であるという視点に立った上で、「生活者としてどう受け入れるかの議論やサービス提供が必要。コストの負担の論点も欠かせない」とした。


外国人労働者については、時給300円程度の賃金しか支払われなかったり、月に1日しか休めないようなケースがあることが明らかになっている。村上氏は、賃金について、「日本人と同等の報酬が必要。具体的に『この職種の人はいくら』という賃金保証を作っていくべき」と話した。


鳥井氏は、外国人の労働環境について「制度を合法化するほど、外国人労働者の隷属度が強まってきた。原因としてブローカーの存在が大きい」と指摘。立憲民主党で、外国人受け入れのプロジェクトチーム座長務める石橋通宏参院議員は、「民間に丸投げするからブローカーが介在する。完全に公的な制度にすべき。(送り出し国と日本の間で)法的な縛りのある条約が必須」と力を込めた。


対して木村氏は、「『日本人と同じ』が重要」とした上で、日本以外の労働者不足となっている国との人材獲得競争が起きている点に言及。「制度を難しくするとブローカー暗躍の場となる。いつまでもブラック国家だと外国人労働者が来なくなる」と危機感を示した。外国人労働者の賃金を考える上での1つの問題として、都道府県ごとに差のある最低賃金制度の存在を指摘し、解決しないと賃金の高い他の自治体に逃げ出すような問題が解決しない点を示唆した。


佐々木氏は、ブローカーの問題の解決に向けて、新制度で検討している支援機関について言及。「会社と外国人材が対立する場面を想定して、外国人材側に立てる支援機関を登録して、何が起きているか把握する仕組みをつくりたい」と話した。


(弁護士ドットコムニュース)