トップへ

話題作となった『義母と娘のブルース』、賛否が別れた『高嶺の花』 夏ドラマに見るテレビドラマの形式

2018年10月04日 07:42  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 夏クールのドラマを観ていて、いよいよ“テレビドラマ”という形式が、難しいところにきていると感じた。まず、素晴らしかった作品を紹介する。


 『透明なゆりかご』(NHK)は、小さな産婦人科を舞台にした医療ドラマだが、母性と出産の美化一辺倒ではなく、中絶の問題もしっかりと扱う姿勢に志の高さを感じた。高校生の出産や、幼女の性的虐待など、描かれるテーマは重たいが、それを見せる演出は静かで淡々としており、だからこその緊張感と凄みがあった。脚本を担当した安達奈緒子は『リッチマン、プアウーマン』等の月9(フジテレビ系月曜9時枠)の華やかなドラマの中で「働くとはどういうことか?」「子どもを産むとはどういうことか?」といったテーマを真摯に追求してきた脚本家で、月9で書いていた際には、それが違和感となって現れていたが、真面目な作りのNHK作品とは、とても相性がよかった。


【写真】『ぎぼむす』綾瀬はるかと『高嶺の花』石原さとみ


 『dele』(テレビ朝日系)は、山田孝之と菅田将暉が主演を務めるバディモノで、何より二人の掛け合いが楽しかった。物語は故人のスマートフォンやパソコンの中にある「デジタル遺品」を題材とした1話完結のドラマで、毎回面白いアイデアが展開された。話数が少なく、あっけなく終わってしまったところがあるので、できれば続編を待ちたい。


■話題作となった『義母と娘のブルース』


 話題作という点では『義母と娘のブルース』(TBS系)は外せないだろう。綾瀬はるかが演じるキャリアウーマンの女性・亜希子と、血のつながらない娘・みゆき(横溝菜帆、上白石萌歌)との10年間を描いた作品で、話数を重ねるごとに視聴率が上昇していった。脚本は『白夜行』や『わたしを離さないで』といったTBS系の綾瀬はるか主演ドラマを手がけてきた森下佳子。長い歳月の中で、義母と娘の親子関係の変化を描くという時間にこだわったストーリーは、森下ならではのもので、特に、娘のみゆきが高校生になってからの展開は、上白石萌歌のみずみずしい演技もあって、一気に引き込まれた。


 ただ、演出に関しては、わかりやすさを優先するあまり、単調すぎるのではないかと気になった。これは岡田惠和・脚本の『この世界の片隅に』(TBS系)にも同じことが言える。どちらも脚本と役者の演技は面白かったのだが、若干、説明過多で、もう少し映像で見せる場面があってもいいのではないかと思った。これは「万人にわかるものに仕上げないといけない」という、民放プライムタイムのドラマが抱える限界ではないかと感じた。


■賛否が別れた『高嶺の花』


 賛否が別れたのは野島伸司・脚本の『高嶺の花』(日本テレビ系)だろう。石原さとみが演じる華道の名家の令嬢・月島ももと、峯田和伸が演じる自転車店を営むぷーさんの格差恋愛という触れ込みは野島の出世作である『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)の現代版となるかと思われたが、石原さとみが演じる情緒不安定な女が、何があっても動じない峯田に癒やされるドラマとなっていた。恋愛パートの描き方はさすが野島という感じで見せるのだが、バックボーンとして描かれる華道の世界の見せ方がわかりづらく、そのせいでストーリーが迷走しているように見えた。


 野島はここ数年、dTVやFOD、Huluといった有料配信メディアで過激な恋愛ドラマを手がけており、全盛期の迫力が戻りつつあった。それだけに彼が地上波に戻ってくることの意味は大きかったが、今の民放地上波で書くよりは、制約のない配信ドラマで書くほうが、野島の才能を活かせるのではないかと感じた。


 これは野島だけの問題ではなく、今のテレビドラマ全体の構造的な問題だと言える。かつては民放地上波のドラマも玉石混交で、時々、斬新な映像と脚本で見せる先鋭的な作品が何本かあった。それらの多くは新鋭の若手クリエイターが手がけていたのだが、そういった作品の多くは深夜ドラマに移っていき、現在では深夜ドラマも保守化の傾向がある。


■WEBドラマの“自由度の高さ”


 そんな中、新しい流れが生まれつつあるのはWEBドラマである。


 特にこの夏は『放課後ソーダ日和』と『アスアブ鈴木』というYouTube配信のドラマが面白かった。どちらも1話10分前後の作品で、出演女優の魅力で成立している小規模なドラマだが、逆に言うと、女優さえ魅力的ならば、何でもOKという自由度の高さを感じた。9月にはLINE NEWSで、のん主演のドラマ『ミライさん』の配信もはじまっており、こちらもYouTubeで観ることができる。


 一方、有料動画配信サイトのNetflixでは明石家さんま企画プロデュースの『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』や異色の青春ドラマ『宇宙を駆けるよだか』といった作品が作られており、Paraviでは堤幸彦演出の超能力ドラマ『SPEC』(TBS系)のスピンオフとなる『SPECサーガ黎明篇「サトリの恋」』がスタートしている。


 WEBドラマは、年々活性化していたが、この夏はオリジナリティの高い作品が多数登場した。もちろん完成度や作品の広がりにおいては、まだまだNHKや民放のプライムタイムのドラマの方が先を行っているが、あと数年で状況は反転するのではないかと感じる夏だった。


(成馬零一)