トロロッソ・ホンダがいよいよF1第17戦日本GP鈴鹿に挑む。
前戦ロシアGPはスペック3の新パワーユニットを投入したものの、土日はパワーユニットをスペック2に戻して戦った上にグリッド降格ペナルティに加えて決勝は早々にブレーキトラブルでリタイアと良いところがなかった。
しかし、ホンダがようやく作り上げたスペック3のパフォーマンスは、日本GPに向けて期待が持てるものだった。一部で報じられた35馬力とか40馬力といった数字だけが一人歩きしていたが、ホンダ関係者によれば馬力の向上はそれらから決して実態から大きく外れたものではなく、シーズン中のアップグレードとしてはかなり大きなものだという。
第7戦カナダGPでスペック2を投じて以来、ホンダは小さな開発アイテムは捨てて大きな“タマ”にリソースを集中させ、2019年型により近く、2018年シーズンの残り6戦が2019年に向けた実走テストとしての価値が大きくなるようなスペック3を完成させたからだ。まだ金曜フリー走行しか走っていないとはいえ、パワーサーキットであるソチ・アウトドロームのフリー走行2回目で8番手に入ったことからもルノー超えは確実との評判だ。
これが日本GPで大きな威力を発揮する。2018年に導入された現行レギュレーションのF1マシンでは、鈴鹿は全開率が高くなりこれまで以上にパワーが要求されるサーキットになった。パワーがあればその分ダウンフォースを付けてセクター1を速く走ることができる。ストレートで前走車に追い付き、シケインやターン1などの数少ないオーバーテイクポイントで勝負を仕掛けることができる。
ロシアでは初めての実走でアップシフト時にオシレーション(エンジン回転数の収束がスムーズでない状態)が発生し、現場でのセットアップ調整だけでは完全解決が難しいと判断し土日はスペック2に戻して戦うことを決めた。
しかしこれはハードウェアに起因するものではなく、ソフトウェア面の熟成で解決できる問題だ。ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう説明する。
「基本的なところは問題もなく(性能面も)手応えがありましたが、オシレーションが出ていました。(ダイナモと実走で)ある程度の差があることは想定していたんですが、実際に走ってみると想定以上の差があったんです。全く走れないわけではありませんし充分走れるレベルではあるんですけど、レースディスタンスということを考えるともう少し熟成が必要ということです」
■スペック3の馬力にポジティブな反応を示すピエール・ガスリーとブレンドン・ハートレー
ロシアGPから日本GPまでは4日間しかインターバルがなく、ロシアで使用したコンポーネントを鈴鹿へ直送するのと並行して、ミルトンキーンズのベンチで同仕様のスペック3とギヤボックスを繋いで大急ぎでテストを行ない、実走データと付き合わせながらさらなるセットアップの煮詰め作業を行なうことになった。
「急きょトロロッソ側の協力も得てエンジニアに来てもらい、月曜にミルトンキーンズのHRDでギヤボックス込みのダイナモでテストをします。同じスペックのパワーユニットとギヤボックスでテストをしてきちんと仕上げて持っていきます」
ドライバーたちが違和感を感じたドライバビリティもさらなる調整が行なわれる。オシレーションにしろドライバビリティにしろ、開幕仕様のスペック1でもカナダGPのスペック2でも全く問題がなくドライバーたちが賞賛してきた。それがスペック3になって課題になった。それだけスペック3の燃焼コンセプトがこれまでとは異なるものに進化しているという証でもある。
パワーが上がりラップタイムが向上したとはいっても、こうしたフィーリングに関わる部分に問題を抱えていただけに、実際のところドライバーたちの表情は決して芳しくはなかった。しかし理論上はパワーが上がっていればそれだけ速く、前述のようにマシンのセットアップの幅をも広げてくれる。
「こういう差は全体からすれば小さな差でしかないし、別にクルマがウィリーしてしまうようなものではないからね(苦笑)。まぁちょっとした違いは感じるけどね……。パフォーマンスのゲインがあることは間違いないよ。どのくらいの数字なのかは、これからもっと走ってマイレージを稼ぎファインチューニングをして性能を引き出すことで見えてくると思う」(ピエール・ガスリー)
「新しいスペックのパワーユニットは金曜に走ってみてすごくポジティブだったし、それが鈴鹿でも効果を発揮してくれるはずだ。パワーユニットのアップデートがなくてもロングランでもペースはすごく良かったんだから、鈴鹿ではスペック3を入れればさらに良い結果が手に入れられると期待しているよ」(ブレンドン・ハートリー)
ただ心配なのは、トロロッソ・ホンダのマシンSTR13の鈴鹿との相性だ。
■シーズンを通してのトロロッソ・ホンダSTR13の弱点
ソチ・アウトドロームでは結果に繋がらなかったとは言え良い仕上がりを見せていたSTR13だが、走行中にマシンに当たる風向きが変わるようなサーキットではダウンフォース発生量が過敏に変わりやすく、その空力性能をフルに生かし切れない。シーズン中盤の空力アップデートに失敗したこともあって、風変化にセンシティブなマシンという弱点はシーズン序盤から変わっていないのだ。
つまり、S字のように左~右~左と切り返して行くようなセクションではマシンが安定しない可能性がある。ましてや台風の影響で風が強いとなれば、よりいっそう厳しくなる。
逆に雨が降ればSTR13は好走を見せる可能性が高い。メルボルン、ホッケンハイム、ハンガロリンクなど、ウエットセッションでは常にトップ10圏内につけた。
月曜にソチから日本に到着したドライバーたちは、束の間の休息を楽しんだ後は栃木県のホンダ技研研究所のHRD Sakura、埼玉県にある和光研究所、鈴鹿研究所へと表敬訪問をして日本GPへと挑む。
「3月の開幕直前イベント以来の日本になるけど、ロシアGPの後に月曜は東京で1日オフを満喫して、その後に火曜・水曜にホンダのいろんな工場に行っていろんな人に会ったりイベントに出席したり。もちろんもっとオフがあれば言うことはないんだけど(苦笑)、僕らはホンダのドライバーだから、日本を訪れる数少ない機会にこうして日本のあちこちでホンダの人たちに会うのは当然のことだよ」(ガスリー)
ホンダのメンバーたちはこれまで以上に大きなプレッシャーを感じている。ある意味では過去4年間で最も高いポテンシャルを持って臨む日本GPかもしれない。だからこそ余計にその肩には重責がのしかかる。
日本GPに向けて、敢えて予想はしないと田辺テクニカルディレクターは語る。全力を出し切ること、それが目標だ。
「悔いのないレースにしたいと思っています。ロシアGPではスペック3を投入しきれませんでしたが、鈴鹿ではきちんと仕上げて投入し、それも含めてトロロッソ・ホンダのマシンパッケージとしてチームとともにできるだけのことをやりたいと思います」
「シンガポールGPのように良いと思っていてもそうならないこともありますから、もう順位とか良いんじゃないか悪いんじゃないかというようなことは想定はしないことにしました(苦笑)。行って蓋を開けたら分かるだろうと(笑)。開けたときに後悔しないようにきっちりとレースをしたいと思います」