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菅原卓郎&滝 善充が語る、キツネツキを通して気づいたこと「9mm自体の面白さを見つけた」

2018年10月03日 19:32  リアルサウンド

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 9mm Parabellum Bulletの菅原卓郎と滝 善充が、2017年に結成した“キツネツキ”。その名前然り、菅原がボーカル&ギター、滝がドラム(!)を務める編成然り、「取り憑かれメンバー」と称して様々なバンドマンが参加するライブ然り、気になるポイントが満載のバンドだが、このたび1stアルバム『キツネノマド』がリリースされる。そこで、アルバムの収録曲の話を入り口として、二人に数々の謎を解き明かしてもらった。(高橋美穂)


(関連:9mm Parabellum Bullet、“滝休養前”の壮絶なステージ 彼らがツアー最終公演で見せたもの


■滝 善充「(ドラムを叩きたいという欲求が)元から物凄くあった」
ーー歌詞や曲や活動など、このバンドのいろいろなところが、キツネツキという名前に引っ張られているような印象があるのですが、そもそも名前の由来って?


菅原卓郎(以下、菅原):人を食ったような名前にしたかったんですね。だから、キツネツキっていう回文にして。歌詞も、バンド名のテンションに合わせて書いていったんです。コンセプトっていうほどでもないんだけど、「こんぐらいにしよう」っていうくらいの塩梅ですね(笑)。曲も、簡単にしようってね。


滝 善充(以下、滝):そう(笑)。あとは日本っぽさや、妖怪的な感じが出ればいいなって。それこそ、最初の頃から、童謡のような世界観も出せればなっていうアイデアもありましたね。それで、童謡の本物(のカバー)もやっちゃったっていう(笑)。


菅原:でも、一生懸命その世界観を作ろうっていうのでもなくて、さっき言った“塩梅”みたいなものを積み重ねていったっていう。シリアスにならないように気を付けています。それが、このバンドを回す……。


滝:ポイントです。


ーー(笑)。それにしても、キツネツキって、ふと思い浮かぶような名前じゃない気がしますが。


菅原:いや、ふと思い浮かんだんです。バンド名を考えるのが好きなバンドマンっているんですよ(笑)。(マキシマム ザ ホルモンの)マキシマムザ亮君とか。僕もそうなんですよね。で、組む予定もないのに、バンド名になりそうな言葉をメモしていて、その中に“キツネツキ”があったんです。そもそもアルカラのフェスに出るために組んだので、出たとこ勝負で、観る人もなんだかわかんない状態に、キツネツキっていう名前が合ってるなって。


滝:そうそう。でも時間が、まーあんまりにもなかった(笑)。それでも曲を作ったんですけど、そういうところからも、すぐに覚えられるように、曲が簡単になったんです。しかも、最初のライブでは橋本塁さん(カメラマン)がベースを弾いてくれたので、ベース初心者の塁さんでも弾ける曲、っていう。


ーーなるほどね。でも、『キツネノマド』の1曲目「ふたりはサイコ」は、簡単というイメージからはみ出している曲だと思うんですけど(笑)。


二人:ははははは!


菅原:そう思ってもらえて嬉しいです。まさに、二人だけど「二人なのか!?」って思わせたくて、サウンドをデザインしたので。


ーーまさに、この二人がサイコということを証明するような曲だと思います(笑)。自己紹介的な意味合いで作ったところはあるんですか?


菅原:いや、タイトルと曲が別々に同時進行するように出来上がっていったんです。滝が曲を作ってきて、僕が……バンド名と同じように、タイトルのアイデアだけ書き溜めているメモもあるんですね(笑)。そこから、この曲は「ふたりはサイコ」にしよう、ってくっ付けて、歌詞を書いていきました。


ーーこの曲、滝さんのドラムに対する本気度も表れているような激しさがありますが、ドラムを叩きたい! という欲求はあったんですか?


滝:元から物凄くあったんです。


菅原:元はドラマーなんですよ。


滝:一応ギターが先なんですけど、中3で受験のために一旦やめてしまって、高校からはドラムを叩いていたんです。


菅原:その後も、叩ける場所は、常に探してたよね。9mmのライブでも、終わって、ステージからみんながはけたかな……っていうときに、滝だけがまだいて、ドラムを叩き出して、おっとまだ何かやってるぞ? って他のメンバーが出ていって、ギャーン! ってやったりね(笑)。


滝:パンクなセッションをね。


ーーちなみに、キツネツキの曲は、ギターとドラム、どちらで作っていますか?


滝:ギターですね。簡単なところで、何となくドラムがちょっとあって、っていう。卓郎には伝わるような感じにして、終わりにしています(笑)。


ーーまずは断片だけ作る、という感じ?


菅原:いや、断片なんだけど完成しているんです。


滝:だから、曲が1分とか2分で短いんですけど。そのへんを精査していって、3分4分を目指したりとかは、キツネツキではあまりやらないっていう。


菅原:そもそも、アルバムを作ろうとも思っていなかったんですね。ライブをやろう、でも曲がないと出来ない、っていう感じだったので。曲作りも9mmでいったら、これにギター足してベース入れてボーカル入れてハモりを考えて……ってやっていくんですけど。


ーー構築していくわけですよね。


菅原:そうです。でもキツネツキは「もうこれでいい」って。頑張りたくないので(笑)。ザ・クロマニヨンズの(甲本)ヒロトさんやマーシー(真島昌利)さんが語っているインタビューを読んだんですけど、かいつまんで言うと、「すっごく簡単に出来る曲しかやんないんだ。じゃないと、ライブで100以上のことができないから。100出来るような曲だけを用意しておいて、120をライブでやるんだ」っていう話をしていて。キツネツキでは、自分らなりに、それをやってるんです。


ーー9mmは構築美が魅力ですもんね。そういった意味では、真逆というか。


菅原:やっぱり、構築癖がついちゃってて。


滝:そう。


菅原:気を抜くと重厚にしちゃうんです。でも、キツネツキでは、滝がステージでギターを弾かなきゃっていうプレッシャーがないライブをやりたいっていうスタートだったから、そこで「この建築を作り上げてさ……」とか、やりたくないんです(笑)。シンプルな状態で、エネルギーだけ発揮できるように。


■菅原卓郎「谷川俊太郎さんが好きで、好きなバンドと同じくらい影響を受けている」
ーー障害物競走じゃなくて100mダッシュ、みたいな?


菅原:競争ですらないです。鬼ごっこぐらいな感じ(笑)。


滝:ただ走り回っている(笑)。


菅原:うわーい! あれ、誰が鬼だっけ? みたいな(笑)。


ーー(笑)。そういう発想を聞くと、いろんな楽曲にユーモアが盛り込まれているところも必然だったのかな、っていう。


菅原:そうですね。


ーー「ふたりはサイコ」の〈(All Winner Ring Sun)〉が“おいなりさん”に聴こえるところ、すごく面白かったです(笑)。これ、卓郎さん、英詞じゃなくて“おいなりさん”って……。


菅原:歌ってますよ(笑)。俺たちキツネツキだし、ここはひとつ“おいなりさん”ぐらい歌うか、って。


ーーこの曲、ライブではお客さんが“おいなりさん”って歌ってるんですか?


菅原:歌ってますねえ。


ーーいい絵ですね(笑)。


菅原:平和というか、間抜けですね(笑)。


ーーお客さんもキツネツキ的なグルーヴを感じているのかもしれない(笑)。


菅原:コアな人たちは、あいつらはどうやらふざけようとしていると察してくれているんでしょうね。また、近年デビューしたバンドとかと一緒にフェスに出る機会があると……。


滝:僕らも新人なんでね。そういう場所だと、9mmに詳しくない人たちにも観てもらえる。


菅原:「あの人9mmっぽいよなあ? なんかもじゃもじゃしてるし」みたいな(笑)。でも、曲はこんな感じだし、ライブも……、このインタビューと同じようなテンションなんですけど(笑)。とは言え、さっきの話のように、ライブで120を出すために曲をシンプルにしているから、ふわーっと弾いてても音が爆発するんですよね。


滝:流してるくらいでやっても、すごくパンチがあるんです。


ーーなるほどね。次に気になったのは、「てんぐです」。インパクト絶大なタイトルですけど、曲調はおしゃれですよね。 


菅原:そうですね。


ーーそこに「てんぐです」と名付けたのは、何故だったんでしょう。


菅原:これは歌詞が先だったんです。「てんぐです」って歌詞を書いたから、曲を付けて、って。


ーー滝さんのセンスがすごい!(笑)。


滝:結構さわやかな曲になりましたね(笑)。仮の歌詞を見ながら曲を作りだして、どう考えても和風だよなって思っていたんですけど、出来なくて、切り口を変えたんです。そうしたら、ファンキーで70年代アメリカンな、ちょっとシティポップな感じに落ち着いたっていう。


菅原:曲がシティポップだから、てんぐが街に降りてきた歌詞に変えたんですよね。


ーー曲に引っ張られて、歌詞の物語が変わったんですね。


菅原:そうですね。まあ、てんぐ自体がカッコいいと思っていて。でも、ただてんぐのことを書こうとしたら、キツネツキのテンションにはならないので、「てんぐです」にしようと(笑)。でも、実はただのラブソングなんですよね。


ーーこのアルバム唯一のラブソングですよね?


菅原:そうですね。


ーー衝撃的です(笑)。そして、「ちいさい秋みつけた」「小ぎつね」「証城寺の狸囃子」と童謡のカバーも収録されています。この選曲というのは? 「小ぎつね」はわかりますが、「証城寺の狸囃子」はキツネからのイメージなのでしょうか?


菅原:まんまです(笑)。裏はないです。


滝:キツネといったらタヌキでしょ、っていう。


ーー二人なら、他の童謡のカバーもできそうですけどね。


滝:でも、意外と合う童謡がなくって。「ちいさい秋見つけた」が出てきて、本当によかったです。


ーー切なさと、ほんのちょっとの怖さが、キツネツキに合いますよね。どれも童謡とはいえ、3曲それぞれの色が出たカバーになっていると思います。


滝:同じような感じでアレンジしたんですけど、メロディと歌詞でここまで雰囲気が変わるのか、って。童謡はすごいなと思いました。


ーー子どもまで対象を広げて活動していって欲しいと思います。


菅原:『NHK みんなのうた』目指してね(笑)。


ーーオリジナル曲でも、「まなつのなみだ」はジブリ感があるというか、抒情的な映像にもマッチすると思いました。歌詞もすべてひらがなですし。


菅原:歌詞をひらがなにするときは、よりあいまいに、ドリーミーにしたいからなんですよね。僕、谷川俊太郎さんが好きで、好きなバンドと同じくらい影響を受けているんですけど、キツネツキはそういうところが出やすいっていうか。歌詞と詩の間、詩として読んでもいける歌詞になっているっていう。この曲の歌詞は、ちょっとだけ真面目だね。


滝:曲も真面目だよ。


菅原:曲の真面目さを感じ取って歌詞を書くとか、歌詞の真面目さを感じ取って曲を書くとか、お互いやってきたから。


滝:説明を受けなくても、落としどころがわかるんですよね。


菅原:あと、ジブリ感もあるんですけど、CMの『そうだ 京都、行こう。』みたいな映像に、もともと入っていた音を消してこの曲を流しても、ばっちり合うんですよ。


ーー確かに! 可能性が広がりますね。


菅原:作詞・作曲チームとして、こんなことも出来ますよ、っていうのが、いろんな人に伝わるといいですね。お題があった方が強いしね。


■菅原卓郎「頑張らないでやろうと思います(笑)」
ーー「かぞえうた」は、歌詞とループ感のある曲調がリンクしていますね。


滝:これは曲が先かな。


菅原:でも、ただ数字を数えているような曲があってもいいよね、っていう話はしていて。


滝:ずっと同じリフでも、数字が増えていくだけで曲が進んでいくんですよ。


ーー最後に「ハイカラちゃん」についても聞きたいんですけど、インパクトあるタイトルも、歌詞に〈アルカラ〉とか〈キツネ〉とか、キツネツキにまつわるキーワードが盛り込まれているところも気になります。


菅原:これはデモCDを作りに滝の実家のスタジオに行って、歌詞も書いちまおうって言って、どれくらいのテンションにしようかな、キツネツキだからな、じゃあ「ハイカラちゃん」ぐらいな感じにしよう、って。『はいからさんが通る』ってマンガがありましたよね、ブーツ履いて着物着てる。そういう感じかな、って思ったんでしょうね(笑)。


滝:どうだったっけ?


菅原:酔っぱらってたんだよ(笑)。「じゃあ『ハイカラちゃん』にしよう、ガッハッハ!」ぐらいな(笑)。その後、「ハイカラちゃん」をちゃんと「ハイカラちゃん」にしようと思って直したんですけどね。キツネが出てくるのは、ハイカラちゃんがキツネツキになっちゃった、っていう話だからなんですよ。ハイカラちゃんがキツネに憑かれたせいにして、いろんなことをしてるっていう(笑)。


滝:初期キツネツキのキラーチューンです(笑)。


菅原:ハイカラちゃんって、キツネツキのことなんですね。


ーー曲調もハイカラですよね(笑)。


滝:ディスコパンクですからね(笑)。


菅原:歌詞は、アルカラのテンション感もお手本にしたんです。〈アルカラだとか/なにがなんだか〉って歌ってますけど、ちゃんとリスペクトしてますよ(笑)。


ーー歌詞が印象的な一方で、インストも2曲収録されていますよね。


菅原:ライブをやるのに、歌詞がない曲があってもいいじゃんって。


滝:インストを作るのが習慣になっていったんです(笑)。


菅原:「QB」って、九尾の狐のことなんですけど、作り終わった後に、“QB”ってヘアカット屋さん(ヘアカット専門店QBハウス)があることに気づいたんです(笑)。そして「It and moment」は、一反木綿です。


ーー確かに、和な浮遊感が一反木綿らしいです!(笑)。アルバムは作るつもりはなかったって言っていましたけど、聴けて本当によかったですよ。


菅原:来年は9mmが15周年だから、キツネツキも同時には出来ないなっていう(笑)。でも、キツネツキや僕のソロをやることで、9mmはこういうバンドだったってよくわかった1年でしたね。ソロで歌謡曲をやろうとしても、ちょっと気を抜くとエモコアになっちゃって、9mmってラウドなバンドだったんだな、僕たちの周りはラウドな人たちがいたんだなって気付いたというか。9mm自体の面白さを見つけるためにも、キツネツキはやれてよかったです。


ーーリリースツアーも楽しみですね。「取り憑かれメンバー」として、各地に様々なバンドマンが参加しますけど、パートもバラバラじゃないですか。たとえばバイオリンの(東出)真緒さん(BIGMAMA)が参加するライブ/しないライブがありますよね。


滝:これ(アルバム)を再現するのが目標じゃないので。真緒ちゃんがいるときは、これにはない音を弾いたりすることになるんじゃないかな。最低限、俺たち二人でやってもキツネツキですから。


菅原:演奏したい人がどんどん入ってこれるような状態を、みんなに見せに行くっていう。ダンサーが入っても、絵を描いてもらっても、何でも大丈夫です。最終的には、僕も滝も踊ってるだけっていうくらい、人を入れてステージを成立させられたらいいな(笑)。


滝:昔話の朗読をしてもらって、俺らはアンビエントをやるっていうのもいいね。


ーーこれからも、どんどん面白いものを見せてくれそうですね。


菅原:はい、頑張らないでやろうと思います(笑)。


ーー9mmを知っていると、頑張ってしまいそうな二人ってわかりますからね(笑)。


菅原:そう、頑張りそうになっちゃった! ってなるからね。その感じも楽しいじゃないですか(笑)。


(取材・文=高橋美穂)