京都大学の本庶佑特別教授(76)がノーベル医学生理学賞を受賞した。非常におめでたいニュースだが、10月1日の記者会見では、潤沢な研究資金が必要だと訴える場面もあった。
ネット上でも「いずれノーベル賞学者も輩出できない国になっていく」と科学研究の現状を憂う声が上がっている。
「1億円を10人にやって可能性を追求したほうが、ライフサイエンスは期待が持てる」
本庶教授は記者会見で、「あまり応用をやるのではなくて、なるべくたくさん、僕はもうちょっとばらまくべきだと思います」と話していた。もっと多額の研究費用を基礎研究に投資する必要があるということだ。
「ただばらまき方も限度があってね、1億円を1億人にばらまくと全てむだになりますが、1億円を1人の人にあげるのではなくて、せめて10人にやって、10くらいの可能性を追求した方が、1つに賭けるよりは、ライフサイエンスというのは非常に期待を持てると思います。もっともっと、たくさんの人にチャンスを与えるべきだと思います。特に若い人に」
また研究成果から利益を得ている製薬会社が、その一部を研究者に還元することも求めた。
「(小野薬品は)特許に関して、ライセンスを受けているわけですから、それに関して十分なリターンを大学に入れてもらいたいと思っています。そのことによって、(中略)次のジェネレーションが京都大学でそのリターンを元にした基金にエンカレッジされて育っていく」
本庶教授と共同受賞者のジェームズ・アリソン米テキサス大教授(70)の2人には、賞金として900万スウェーデン・クローナ(約1億1500万円)が贈られる。日経新聞によると、本庶教授はこれを京大に寄付する意向だという。
他分野の専門家も基礎研究への投資不足を心配
ネットでも、基礎研究にかける資金不足を心配する人が多い。法政大学社会学部の藤代裕之准教授は10月1日、「ノーベル賞を受賞した研究者のみなさんが『基礎研究が大事』とか、成功するかどうか分からないから『薄く広く研究費を』と文科省などに言い続けているが、まるで改善されない」とツイートした。
本庶教授は、1992年に発見した免疫抑制たんぱく質PD-1と、それに続く研究で新しいタイプの「がん免疫療法」の開発に寄与したことが評価され受賞に至った。そのため、「今の日本の科学技術や政策の成果ではなく、研究資金削る前の8~90年代の研究環境で生み出された成果」と指摘する声も散見された。
今後は、ノーベル賞学者を輩出するのが難しくなると見る人は多く、
「教授が研究する時間を削られ、自動的に割り振られる大学の研究費も削られ、図書館の雑誌購読さえ削られ、将来的に受賞が続くことはまずありえません」
と断言する人も。過去の研究の成果で受賞者が出ているが、やがてノーベル賞を受賞できない国になるという懸念だ。
国立大学は法人化して以降、文科省から毎年、運営交付金が支給されている。法人化初年の2004年には全ての国立大学法人に、合わせて1兆2415億円交付されていたが、2018年には1兆971億円にまで減少している。
2017年には英ネイチャー誌が、科学論文のデータベースに収録されている日本人の論文の割合が7.4%(2005年)から4.7%(2015年)に減少したと報じた。掲載論文数の減少は国の予算削減が原因と指摘されており、日本の科学研究の未来を憂う人は多い。