FIA F2選手権の第11ラウンド、ソチは日本人ドライバーたちにとって最高の結果とはならなかった。しかし内容に目を向ければ、モンツァから見え始めた良い流れは着実に実を結びつつあることは見て取れた。
牧野任祐は予選で7位に入り、レースに向けたマシンの仕上がりも良好だった。それだけにレース1のスタート直後にターン1でアウト側に押し出されるようにして接触してしまったのは痛かった。
ランド・ノリスがスタートで出遅れた混乱に端を発して3ワイドになった末のレーシングアクシデントであり、誰に非があったわけでもなく不可抗力だったが、マシンにダメージを負った牧野はコース上に留まるのが精一杯になってしまった。
「ステアリングはずっと大きく傾いていたし、右フロントのバイブレーションも酷くて。そのせいでブレーキングでロックしてフラットスポットができて余計にバイブレーションが酷くなるし。振動がすごすぎて前も見えないしミラーも見えないし、ずっと『もう辞めたい』って言っていたくらいですから」
そんな手負いの状態でもタイヤマネージメントは悪くなかった。そのくらいマシンの仕上がりは良かったのだ。
「ステアリングがあまりにおかしすぎて、プライムに換えてすぐに左フロントが終わってしまって、このままじゃとてもフロントタイヤのライフが足りないと思ったんでずっとリヤを使って走っていたんですけど、そうすると最後はリヤが足りなくなってしまったんです」
「自分としてはあのクルマの状態でやれることは全てやりました。オプションも周りと比べるとタレていなくて僕は良かったと思うし、ペースは良かったですね。あの状態でそこそこ走れていたわけですから、クルマの仕上がりは良かったんだと思います」
6位以内は確実、もしかすると表彰台に行けたかもしれないと牧野は言い、10位1位ポイントでは慰めにもならない。しかし不可抗力のアクシデントだけにどうすることもできなかった。
レース2では10番グリッドからスタートし、やはりマシンの良好な仕上がりを感じながらレース後半に勝負を賭けるつもりで戦略を組み立て、レース前半はタイヤマネージメントに徹していた。
■牧野「雨が余計でした」
「ドライでのフィーリングは良くて、レース後半に向けて前半はタイヤをセーブしつつ走っていて、あとは周りがどのくらい落ちてくるかで順位がいくつ上がるかなって思っていました。でもあの雨が余計でした」
ウエットタイヤではハンガロリンク同様に「入口でアンダー、出口でトラクションがない」という苦しい状態で、僚友アルテム・マルケロフともども大苦戦を強いられて11位に終わった。
結果には繋がらず不完全燃焼の感だけが残ったが、しかし内容的にはマシンの仕上がりもさることながらタイヤマネージメントやレース全体の組み立てがかなりクリアに見えるようになってきたことが感じられた。
「かなり掴めてきたかなというのはありますね。あまり形にはなっていませんけど、予選の順位もそこそこ前に行けているし、ドライでのマシンのフィーリングは良くなっていたし、途中までは全然無理せずにずっとタイヤマネージメントをし。あのままドライでレースがしたかったですね……」
一方、福住仁嶺はこれまでチームの技術レベルや人的ミスによるトラブルに何度も泣かされてきたが、今回も初日フリー走行に出ていく前からスロットルセンサーに問題が発生したり、一旦コクピットから降りて作業を行ないそれが直ってからも断続的に電源がシャットダウンする症状に苦しみながらの走行を強いられた。
初めてのサーキットでぶっつけ本番での予選となり17位。それでもレース1では冷静に自分たちのマシンレベルに合わせたペースで走ってタイヤマネージメントに徹し、ライバルのペナルティにも助けられて8位入賞を果たした。
「最初は全くプッシュしてないですね。基本は50%とか40%くらいの感覚で走っていました。周りのペースについていくと痛い目に遭うし、F2初戦のニコ・カリとかあんなペースについていったら絶対タイヤが終わると思ったら案の定カリは終わってましたよね」
「そう考えると、僕らのペースはそんなに悪くないのかなとは思うんですけど、DAMSとか上位勢に比べるとまだまだ足りないですね」
レース2ではリバースグリッドとはいえポールポジションからのスタートとなり、福住は「久しぶりに緊張感を味わった」と笑顔を見せた。
■ポールスタートも人的トラブルに泣いた福住
タイトル街道を邁進するARTのジョージ・ラッセルには5周で抜かれついていけなかったが、その後はDAMSやプレマと同等のペースで走った。「表彰台は難しかったとは思うけど5~6位は争えると思った」という福住だったが、またしてもトラブルに襲われた。
「ダウンシフト側のシフトパドルが2本のボルトで留まっているんですけど、そのうちの1本が取れてガタガタしていて、シフトダウンするときにくっ付いたまま押し戻されないことがあるような状態になっていたんですよ」
「5、4、3速くらいまで落ちて行けたりするんですけど、そこで引っかかって2速に落とせなくて減速できないからロックして飛び出していたんです。タイヤも少しキツかったですけど、シフトダウンができなくてどうしようもなかったですね。パドルを指で挟んで、女の子を操るようにコントロールしてましたよ(苦笑)」
アーデンもマシンの仕上がりは少しずつ上向いてきている。しかし肝心なところでつまらない人的ミスが出てしまう。それが今のアーデンのチームレベルだ。1度ならず何度も繰り返され、ノートラブルの週末はない。
そんな状況にモチベーションを失いかけた福住だが、来季に向けてシート交渉を有利に進めるためにも今季残りのレースで少しでも光るところを見せなければならない。
「こういうシーズンを送っていますけど、こんなツラいときこそ自分と向き合うしチームとも向き合うし、改善しなければいけない部分をしっかり見つめ直すようになるからこそいろんな発見もあるし。今年はモチベーションを保つのもすごくツラいですけど、自分にやれることはやれるだけやったらあとは来年がどうなろうと悔いはないですよ」
結果ではなく内容を見れば、日本人ドライバーたちのシーズンは着実に上向いてきている。しかし残すところはあと1ラウンドのみ。そこで悔いのない走りをしてもらいたい。