新たなパワーユニットである『スペック3』を投入したF1第16戦ロシアGP初日から24時間後、ホンダは土曜日に向けて再びパワーユニットを交換したと発表した。
交換したのはピエール・ガスリーとブレンドン・ハートレーの2台で異なるので、詳細を説明したい。
まず、ガスリー。こちらはこれまで使用した『スペック2』に戻したため、FIAからは何も発表はない。シンガポールGPまで使用していたパワーユニットだ。
次にハートレー。こちらはホンダはその理由を明らかにしていないが、シンガポールGPまで使用したパワーユニットのうち、ターボ、MGU-H(熱エネルギー回生システム)に信頼面でやや不安があったために、スペック2の中古のICE(内燃機関)に、新しいターボ(7基目)、MGU-H(7基目)、MGU-K(運動エネルギー回生システム/7基目)をドッキングさせたと考えられる。
現在のレギュレーションでは1グランプリで2基以上のストックを作れないため、金曜日の使用した新しいターボ(6基目)、MGU-H(6基目)は、もうグランプリでは使用できない。また、フリー走行3回目が開始されてすぐ出されたFIAのPU交換リストに、ハートレーはMGU-Kも記載されていたが、これはFIA側のミスと判明。予選後にターボとMGU-Hだけの交換だったと訂正されている。
では、なぜ今回ホンダはスペック3を温存したのか。日本GPに向けて、少しでもマイレージを抑えたかったのだろうか。
「金曜日走らせて、大きな問題はなかったんですが、レースに臨むにはもう少し細かいところまで手を入れたほうがいいと考え、交換する決断をしました。まったく走れないというわけではないんですが、レースディスタンスを考えると、もう少しキャリブレーション(調整)して、PUを熟成させる必要があると判断しました」と、田辺豊治F1テクニカルディレクターは説明した。
キャリブレーションとは、ハード的に何かを変えるのはではなく、ハードを最適に作動させるためにソフトウェアのデータの設定などを調整することだ。
■ロシアGPの翌日からホンダのパワーユニットの最適化を開始
ただし、金曜日に走らせたパワーユニットは封印されているので、手を加えることはできない。田辺TDも「(スペック3は)このまま、飛行機に乗せて、鈴鹿へ搬送します。ただ、その飛行機がキャンセルになって、鈴鹿到着が一日遅れるので、少し慌てていますが」と答えている。
では、具体的にはこれから鈴鹿までどんな作業をするのか。
「ロシアGPの翌日にイギリスのミルトンキーンズにあるHRD MKのファクトリーのダイナモで、今回投入したスペック3と同じスペックのPUに、ギヤボックスをくっつけた状態でPUを稼働させます。トロロッソのエンジニアにも来てもらって、再調整します。今回投入する前にも、ギヤボックスをつけた状態でダイナモを回してチェックしていたんですが、ダイナモの特性上、普通にシフトチェンジするとギヤボックスが壊れやすくなるため、実際のコースを走るシフトチェンジとは異なる使い方をしなければならないため、想定していなかった振動が金曜日に出てしまいました」
気になるのは、もしHRD MKでのテストで、シフトチェンジ時の振動の問題が解決しなかった場合、日本GPへのスペック3投入断念もあり得るのかということだ。
田辺TDは、少し間をおいて、こう答えた。
「きちんと仕上げて持っていきます」
ロシアGPの金曜日に登場した新スペックは、わずか1日で姿を消した。しかし、熟成が十分ではない状態にもかかわらず、金曜日にガスリーが8番手のタイムをマーク。その高いポテンシャルを秘めたスペック3を搭載したトロロッソ・ホンダの走りをロシアGPでこれ以上、見られないことは残念だが、その楽しみは次戦、鈴鹿まで待つことにしよう。