トップへ

Zaifが金融庁から3度も行政処分を受けたワケ

2018年09月29日 11:12  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

また仮想通貨の信頼を揺るがす事態が発生した。金融庁は9月25日、不正アクセスにより約70億円分の仮想通貨が流出した仮想通貨交換業者「テックビューロ」に対し、業務改善命令を出した。今年3月と6月に続いて3度目の処分となった。テックビューロは仮想通貨交換所「Zaif」を運営している、金融庁の正式な登録業者だ。


【関連記事:死んだ母に「ばかやろー、片耳返せ!」と叫んだ少女、壮絶な虐待からの生還】


日経新聞によると、金融庁は立入検査に乗り出し、業務停止命令や登録取り消しなどのより強い措置も視野に入れている。流出から10日以上も経過しているのに、記者会見を開くなどして経緯を詳しく説明していないことも問題視されている。


今回の問題を受け、テックビューロは別企業から金融支援を受けることを決めた。顧客の大事な資産を流出させたテックビューロに対し、顧客はどのような請求ができるのか。金融庁がわずか半年あまりの間に3度もの業務改善命令を出す意図はどういったところにあると思われるか。仮想通貨に詳しい勝部泰之弁護士に聞いた。


●顧客、「機会損失」で損害賠償を求めることも

ーー顧客が取り得る請求はどのようなものが考えられますか


「顧客は、預けていた仮想通貨をそのまま送信するように交換所に請求できますが、大量流出の場合には交換所がそのような対応をすることが難しい場合もあります。本年1月末に起きたコインチェックの顧客資産流出事件では、流出時のレートにより算出した金銭的損害を日本円で補償するという対応がされました。


本件でも同様の対応がされる可能性がありますが、実際に補償が実施されるまでの間、顧客は仮想通貨の取引ができないことになるので、儲ける機会を失った(機会損失が発生した)ことを理由に損害賠償請求をしていくことも考えられます」


ーー金融庁がわずか半年余りの間に3度も業務改善命令を出すことは異例だと思います。どのような理由・背景があると考えられますか


「3回の命令の内容は全て異なりますが、システムリスク管理、マネーロンダリング対策、顧客保護といった業務全般について改善が求められています。背景として、金融庁が仮想通貨交換業者にも金融並みの厳格な運営を求めているなか、その水準に達していないということがあるのではないでしょうか」


ーーどういうことでしょうか


「一例として、同社がシステム障害により、21億BTCを0円で顧客に販売してしまったという件があります(2018年2月16日)。ビットコインの発行上限は2500万BTCなので、このような約定自体が原始的不能な契約ではあります。


しかし、例えば、2005年のみずほ証券大量誤発注事件では、みずほ証券がシステムの不具合により存在する総株式数の6倍以上の引渡しを求められましたが、この場合にも決済はなされました(解け合いという特殊な処理)。証券や金融の世界ではそのくらい厳格な運営が求められます」


●仮想通貨全体への信頼に影響

ーーテックビューロにおいては厳格な運営がなされていないのでしょうか


「はい、そのように言っていいでしょう。テックビューロにおいては、『ゼロ円で購入された売買については、システムの異常によるものですので訂正扱い』として、いわゆるロールバック処理を簡単に認めてしまいました。


簡単にロールバックを認めるのであれば、運営側に都合の悪い約定は事後的に取消ができてしまうことになり、言葉は悪いですが『イカサマカジノ』と同じことができてしまいます。


金融庁は、昨年8月に、国際的な金融犯罪対策、金融商品取引監視などのスペシャリストによる仮想通貨モニタリングチームを発足させ、対応にあたっていますが、業務改善への対応、顧客への対応のいずれも、金融庁と事業者の認識に大きな齟齬があるように感じます」


ーー今回の問題を受け、仮想通貨への信頼はまた失われたと思われますか


「既存の金融機関でもハッキング事案は発生していますが、仮想通貨交換業者の不祥事は目新しさもあって大きく報道される傾向にあります。それが仮想通貨全体の信頼に影響するのは間違いないでしょう。


マウントゴックス事件以降、ハッキングや流出が起こっても『交換所の問題にすぎず、仮想通貨そのものの問題ではない』ということがよく言われてきましたが、現在稼働している交換所の大半で業務改善命令が出ている状況では、一般ユーザーは仮想通貨の取引自体を控えざるを得ません。


信頼回復のためには、各業者がまずは金融機関で常識とされている水準のシステム、コンプライアンス態勢の構築をしていくことが必要だと考えます」


ーー本件は早期に問題収束へと向かうでしょうか


「今回の流出直後に、株式会社フィスコが『株式シェア過半数以上の資本参加をする基本合意をした』というリリースを出しました。それによって本件は早期に収束するようにも思われましたが、現時点でテックビューロからの公式の説明はなく、実現するかは未だ不透明です。


いずれにせよ、本件が適切な形で収束し、業界全体が良い方向に向かっていくことを期待しております」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
勝部 泰之(かつべ・やすゆき)弁護士
2007年弁護士登録。ジョージワシントン大学ロースクール卒業(知財法専攻)。国内仮想通貨交換所の登録申請、コンプライアンス整備を担当した経験を持つ。株式会社リーガル・テクノロジーズ代表取締役CEO

事務所名:麹町アセット法律事務所
事務所URL:http://www.a-kojimachi.com