F1第16戦ロシアGPに投入することを発表したホンダの新パワーユニット『スペック3』が、フリー走行1回目から元気に走り始めている。気になるのは、その性能だ。
以前、田辺豊治F1テクニカルディレクターはアップデートを入れるタイミングについて、次のような見解を述べていた。
「アップデートを入れるからには、当然他社の伸びしろを超えるものを投入したいという気持ちで開発している。ただし、直近(スパ、モンツァ)に投入したスペックの性能はサーキット特性がまったく違うということもあって、まだ把握していないので、ライバルの性能を注視しながら、投入するに足る向上があるのか、そして投入するに足る信頼性が確保できたのかを見極めた上で、(スペック3を)投入したい」
そのうえでスペック3を投入したということは、今回のアップデートでホンダはルノーPUの性能を上回るだけの伸び代がベンチ上で確認がとれたと見ていいだろう。
公式の発表はないものの、メルセデスとフェラーリが1000馬力に達していることは衆目の一致するところだ。この2強にルノーが950馬力で続き、ホンダはルノーより20馬力低い930馬力程度ではないかとパドックでは予想されている。
では、今回のアップデートはどれだけの伸び代があるのか? ドイツ誌の編集者は筆者に「30kWアップした」と語った。この情報を田辺TDにぶつけると、田辺TDは次のように回答した。
「想像にお任せしますが、ある程度は(アップデートが)見えることができるレベルのパフォーマンス向上は確認できています」
そこで「ルノーは抜いた?」と尋ねると
「走ってみないとわかりませんが、どこまでベンチ上の性能が、クルマに搭載したものがコース上で発揮されるかによります」と、ルノー超えは否定はしなかった。
1kWは約1.36馬力なので、30kWの性能向上は40.8馬力に相当する。つまり、ホンダPUの性能はスペックでつにい970馬力に達しようとしていることになる。
■事前にホンダパワーユニットの情報を入手していたメルセデスチーム
興味深いのは、ロシアGPにホンダがスペック3を投入することは発表前の段階でメルセデスも把握していたことだ。しかも、彼らは性能の情報も入手していた。その情報もまた『35馬力以上の向上』とされている。そして「これによってわれわれとの差は約30馬力程度に縮まった」(某メルセデス・エンジニア)という。
ただ、そのエンジニアはかつてBARホンダ時代からホンダと仕事していた経験があり、「ホンダのデータは希望的観測で楽観視しているケースが多いので、この数字がそのまま性能向上に繋がらない可能性もある」と指摘している。
一方、ルノーはスペックCのパワーユニットを投入しているものの、「標高の高い第19戦メキシコ(海抜2000メートル)や第20戦ブラジル(海抜700メートル以上)では苦戦することをわかっているため、新品のスペックBをプールするために、今回ロシアGPではレッドブルが2台そろって、前戦シンガポールGPで使用していたスペックCではなく、新品のスペックBを下ろしている。
しかし、メキシコGPやブラジルGP以外のサーキットで予選ポジションが重要になるグランプリでは、予選モードに優れ温存しているスペックCを再投入してくる可能性はある。
そのスペックCが、どれだけの性能を発揮するのか?
ホンダ対ルノーの激しい戦いは、この後もしばらく続きそうだ。