2018年09月28日 10:12 弁護士ドットコム
交通事故や脱税などで罰金の有罪判決を受けた人が、罰金を払えない場合、どうなるのでしょうか。
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六法全書を開いてみると、刑法18条には「罰金を完納することができない者は、1日以上2年以下の期間、労役場に留置する」という規定が置かれています。つまり、罰金が払えなかった場合は労役場に連れて行かれ、働かされることになります。
「金が払えないなら、体で払え」「逃げ得は許さない」ーー。労役場留置といわれるこの制度は、実はそんな制度なのです。
『検察統計調査』によると、2002年の罰金刑総件数は83万1605件でしたが、2017年は23万9259件に減少しています。これは、交通事故などの発生件数が減ったためです。
一方で、労役場留置処分となった件数は2002年(5068件)から急増し、2003年は7000件をこえました。2010年以降は件数が減っている(2017年は4285件)ものの、罰金が払えずに労役場留置となる割合は高くなっています。
2003年は罰金刑総件数のうち労役場留置となる割合は0.89%でした。ところが、2010年に1.9%をこえ、2013年以降は1.7~1.8%の間を推移しています。2017年は1.79%、2003年の約2倍です。この背景には、飲酒運転などの厳罰化による罰金額の引き上げや、罰金を払えない経済的困窮者の増加があります。
もちろん、罰金を払えないからといって、だれもがただちに労役場に連れていかれるというわけではありません。検察官の裁量で、生活保護受給者や年金受給者など資力がない人に対して、罰金の延納や分納が認められることもあります。ただし、特別な事情もなく、完納が難しい場合は最終手段として労役場に留置されることになります。
なお、少年に対しては、労役場留置の言渡しをすることができません(少年法54条)。そのため、少年や近親者などの経済的な援助者が罰金を払えなかったとしても、労役場に留置されることはありません。
労役場に留置されると、作業内容や衣・食・住について「懲役受刑者に関する規定を準用」(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第288条)することになります。つまり、懲役刑の受刑者とほぼ変わらない環境で労役に勤しみ、共同生活を送ることになります。
実際に労役場に留置された経験をもつ元新聞記者・森史之助さんの著書『労役でムショに行ってきた』(2011年・彩図社)によると、1日3食付き、完全週休2日制であることに加えて、休日は何もしなくても労役をしたことになったそうです。森さんは「労役というものは軽作業をさせることより留置することに重きを置いている」ことが分かったと著書で述べています。
では、具体的にどのような作業をすることになるのでしょうか。
森さんによると、平日の1日8時間、紙袋のひもを800個通す作業や、ひもの片端だけをひたすら堅結びする作業をおこなっていたそうです。
また、真偽は定かではありませんが、労役体験者とみられる方のブログによると、「作業はハンガーについている洗濯ばさみの工作」とのこと。懲役刑の受刑者が刑務所でおこなう「刑務作業」とほぼ変わりません。
罰金刑が下される場合、「被告人を罰金20万円に処する。ただし、罰金を完納する事ができない場合は、金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する」などと、日当と期間についても言い渡されます。
多くの場合、1日の留置は5000円相当と換算されています。つまり、罰金20万円だった場合は、40日間の「労役」が必要となります。
ただ、留置の上限は2年間です。もし、1日5000円を2年間続けた場合でも払えないような巨額の罰金の場合はどうなるのでしょうか。裁判官の裁量次第で、日当数万円などという判決も理論上はありえるのです。だからといって、労役が重くなることもありません。
罰金刑は、刑務所への収容を回避するための措置でもあります。「ムショ帰り」の烙印押しを避けることができるという長所があるのです。
ところが、罰金を払えなかった場合は実質「ムショ帰り」とほぼ変わりません。また、同じ罰金額でもお金持ちは簡単に払えますが、お金がない人は労役場留置となるため、不公平だと指摘されることもあります。
もちろん、「払えないならば仕方ない」となれば、なんのための罰金刑なのかわかりません。払えなかった「お金」の分を埋め合わせるための「なにか」が必要です。
欧米諸国では、罰金を払えない人に対し、労役場に留置するのではなく、社会奉仕活動を命じている国もあります。命令の内容は、道路・公園などの清掃や落書きの除去などのボランティア活動です。
日本でも同様の制度を導入することに前向きな意見がありますが、労役が課されるのは住所不定や所在不明の人が多いという現状もあります。そのため、ボランティア活動の対象者として不相応ではないかという理由などから、導入に消極的な意見もあるようです。
<参考文献>
川出敏裕・金光旭著『刑事政策(第2版)』 (2018年) 成文堂
藤本哲也著『刑事政策概論(第7版)』 (2015年) 青林書院
森史之助著「労役でムショに行ってきた!」 (2011年) 彩図社
守山正・安部哲夫(編)『ビギナーズ刑事政策(第3版)』(2017年)成文堂
(弁護士ドットコムニュース)