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“夫婦アクション”の新たな快作! 夫婦関係をカッコよく描いた『スカイスクレイパー』の新しさ

2018年09月27日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 香港に作られた高さ1kmの巨大タワー“ザ・パール”。ビルの安全管理コンサルタントを務めるウィル(ロック様ことドウェイン・ジョンソン)は、妻のサラ(ネーヴ・キャンベル)や子供たちとパールの居住スペースに宿泊していた。ウィルは過去の事件によって片足となっていたが、暖かな家庭を持ち、世界一高く、世界一安全なビルで幸せな時間を過ごしていた。――が、例によってパールを謎の組織が急襲! さらに大火災まで発生! ところがウィルは元FBIの人質救出部隊であり、サラは元・軍医だった! かくして特殊なスキルとド根性を持つ夫婦は、大炎上する超高層ビルからの脱出と、パールに隠された陰謀へ立ち向かっていく!


参考:『スカイスクレイパー』特別映像公開 ドウェイン・ジョンソン「これまで演じた役とはまったく違った」


 今、夫婦で観るのにピッタリなアクション映画は、本作『スカイスクレイパー』だろう。なぜなら本作は夫婦漫才ならぬ夫婦アクションだからだ。こういうアクション映画は意外に少ない。


 いわゆる「人間ドラマ」とは、往々にして何らかの関係性が出来上がるまでの物語だ。赤の他人から友人・恋人・夫婦・ライバル・敵……etc、こうした言葉で表現できる何らかの関係へ着地するまでがドラマであり、「夫婦」もその着地点の一つである。よって夫婦のドラマを描こうとすると、どうしてもその関係性を揺さぶる物が多い。ましてアクション・スターが主演するアクション映画では、観客が求めるもの――アクション・スターの大暴れ――が最優先されるため、登場する夫婦の多くは離婚寸前か、あるいは妻か夫が殺されて復讐に走るパターンか、ともかく片方が悲惨な目に遭うことが多い。『スカイスクレイパー』は夫婦が協力して、しかもどっちもカッコよく活躍する点が新しい。


 何より良いのはキャスティングだ。夫を演じるロック様は説明不要の大スターである。アメリカン・エンタテイメントの最高峰・WWEでプロレスラーとして大人気となり、やがて本格的に俳優として活動を開始。確実なステップアップの末、今や一年の何本も主演作が公開される現在最高峰のアクション・スターに成り上がった。一方、その妻を演じるネーヴ・キャンベル。こちらは90年代に一世を風靡した『スクリーム』(96年~)シリーズで主演を務めた女優だ。つまりロック様が“ピープルズ・チャンピオン”としてマットを席巻していた頃、銀幕で“スクリーミング・クイーン”として君臨していた人物なのである。いわば本作はチャンピオンとクイーンのタッグ・マッチであり、アメリカン・エンタテイメントを背負うに相応しい夫婦だと言っていいだろう。


 そんなチャンピオン&クイーンの活躍は期待通りの素晴らしさだ。予告やポスターで見られる通り、今回もロック様は大活躍。重力を超越したビルへの大ジャンプや、義足とダクトテープを使ったアクション、さらには『燃えよドラゴン』(73年)へのオマージュまで、観客の期待にしっかり応えてくれる。一方、“クイーン”ネーヴ・キャンベルも負けてはいない。彼女は『スクリーム4:ネクスト・ジェネレーション』(’11年)まで全シリーズ皆勤を果たしており、あえて現実と映画をゴッチャにするなら、相当なサイバル・スキルを持った御方である。その手腕は期待通りであり、火災発生と同時に子供たちを冷静かつ的確に守りつつ、安全区域へ脱出を開始。ロック様との息もピッタリな脱出劇の後もビル外でも積極的に戦いを続け、最後にはスタイリッシュ悪女と肉弾戦まで披露。彼女の劇中での魅力はロック様に勝るとも劣らない。


 最初にも書いた通り、アクション映画では「夫婦」が「夫婦」のまま活躍するのは難しい。本作はその難題を見事にクリアし、なおかつ「これ伏線かな?」と思った部分は基本的に全て回収され、笑いあり涙ありのエンタテイメント作品に仕上がっている。夫婦という関係をカッコよく描いた夫婦アクション、その新たな快作が生まれたと言っていいだろう。(加藤よしき)