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Survive Said The Prophet、ラウドシーンの新時代を切り開く“洗練されたサウンド”を紐解く

2018年09月26日 12:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 “ラウドロック”と呼ばれる我が国の音楽シーンはここ10年あまりで大きく変わってきた。ひとくちにダウンチューニングや激しいディストーションサウンド……というだけでは説明できないものになってきている。かつてはミクスチャーロック、モダンヘヴィネスとも呼ばれていた日本のオルタナティブロックの潮流は、海外の様々なサウンドを取り入れながらも、世界でも類を見ない独自のロックシーンを作りあげたのだ。


参考:尾崎世界観に訪れた大きな“変化”ーークリープハイプ『泣きたくなるほど嬉しい日々に』評


 攻撃的なロックから、洗練されたロックへーー。“サバプロ”の愛称で親しまれる、Survive Said The Prophet(サバイブ・セッド・ザ・プロフェット)はそんな近年のラウドロックシーンをさらに進化させていく気鋭のバンドだ。


 粗削りさは皆無。すべてが計算され丁寧に構築されている。メタリックな質感を控えながらもハードに聴かせるソリッドなサウンドは、わずかな揺れも逃さない解像度の高さも持ち合わせており、重心を落としたグルーヴはブライトな輪郭を伴いながらアンサンブルの中にタイトに組みこまれたまま迫ってくる。そして、非凡な才能を魅せつけるように圧倒的なボーカルが耳を襲う。9月26日リリースのニューアルバム『s p a c e [ s ]』はそんなサバプロの魅力がぎっしりと詰まっている作品だ。


 アルバムの幕開けであるトラック1「s p a c e [ s ]」、中間部のトラック6「p a c e s [ s ]」と、ピアノ調のインストゥルメンタルが収められている。それは聴き手によって前半と後半、A面とB面といった分け方もできるだろう。前半は「T R A N S l a t e d」に見られるような獰猛なアンサンブルを轟かせるロックバンドとしての強さ、後半は「The Happy Song」「s t i l l b e l i e v e」といったメロディアスな楽曲に見る、類稀なるソングライティングセンスと繊細な表現力を感じた。しかしながら、二面性という言葉だけでは片付けられないところがあるのだから不思議だ。


 流麗な英詞メロディと変幻自在のアンサンブル。ヘヴィなリフと細かいパッセージを絡めていく2本のギター、重厚なベースと打ち乱れるドラム。メタル、パンク、ハードコア、エモ……さまざまな要素を巻き込みながら、独創的なスケール感で昇華していく様が実に心地よい。それでいて、聴き進めていくと、ロックのみならず、ハウスやソウル、ブラックミュージックの香りもしてくる。サバプロというバンドの性質を理解するには、数曲だけ掻い摘むような聴き方ではなく、アルバムを通して聴かないと、獰猛さと閑寂さの間から生まれる奥深いゆらぎに気づくことはできないだろう。


 「S P I N E」の噛み付くようなエッジ感、「Right and Left」の弾力のあるリズムなど、日本人離れした感覚に驚かされるものの、どこか哀愁や叙情を感じさせる“和”への情景があるのも彼らの妙味。バイリンガルのYosh(Vo)と香港出身のIvan(Gt)という、多国籍なメンバー構成ながらも“日本のバンド”という誇りがある。


 メロディアスな歌、そして分厚い音の壁の向こうには“なにか”を感じさせてくる。それがなんなのかは聴き手次第であるように思う。“様”というジャケットワークも文字通り様々な意味に取れる。前アルバムのタイトルにもなっている『WABI SABI』=“侘び寂び”は随所に散りばめられており、インターナショナルな鋭感を持ちながらも、アイデンティティーは紛れもなく日本人であるという彼らの美意識であり、強さである。


 「FUCKIN JAPぐらいわかるよ、馬鹿やろう」ーー本作でいちばん最初に耳にする声は、日本から海外に向けての宣戦布告かのように吐き捨てるYudaiの言葉だ。ただ洋楽をなぞるだけでは到達できないものがここにはある。


 彼らの楽曲が主題歌にもなっている『BANANA FISH』(「found & lost」)、『コードギアス 反逆のルルーシュ III 皇道』(「NE:ONE」)といったアニメの世界観は、サバプロの持つ研ぎ澄まされた嗅覚にマッチしているように思う。退廃美の中から生まれる強さ、とでもいうべきだろうか。そんな、音楽に新しい息吹をもたらそうとする彼らに相応しいライブが行われた。9月7日にZepp DiverCity TOKYOにて行われたフリーライブ『Survive Said The Prophet VR Experience』である。


 この公演はサバプロの熱量に溢れたライブをより多くの人に伝えるべく、最新テクノロジーのVR技術を用いたインタラクティブ・ミュージックビデオを製作するプロジェクトであり、1夜限りのライブシューティングだ。そして、彼らにとって初のZeppでの単独公演でもある。その瞬間を目撃すべく、会場を埋め尽くすオーディエンスが集った。


 無数のレーザーに出迎えられるように、メンバーがステージの持ち場に着くと、YoshとYudai(Ba/ Scream)によるシャウトの掛け合いと轟音が振りそそぐ。「Lost in Time」でライブの火蓋が切って落とされた。さらに「Fool’s gold」「found & lost」を畳み掛ける。


 「観る者に寸分の隙を与えない」ーーそんな言葉が似合う演奏である。Show(Dr)の大きく振りかざしたストロークが虚を突きながらビートを刻む。音はどっしり重く、それでいてリズムは軽やかだ。Tatsuya(Gt)とIvanが両端から分厚いサウンドを固め、Yudaiはアンサンブルを支えながらも、時に斬り込み、時にヒートアップしすぎたグルーヴを引き戻す、といったバンドの司令塔のような役割をしているように見えた。そして、やはり目と耳を奪われるのはYoshだ。卓越したボーカル力と天性のフロントマン気質。なによりもその表情である。こんなにも笑顔で、嬉しそうに歌うロックバンドのボーカリストがいただろうか。音楽が好きで、バンドが好きで、ライブが好き。何より今、この場所を楽しんでいる。そんな姿が、この日、この会場を支配していたように思う。ふざけあいながら演奏するメンバー、両手を目一杯ステージにかざすオーディエンス。サウンドはとてつもなくヘヴィで、けたたましいほどラウドなのに、とてもピースフルな空間だった。


 フロア後方に設置されたサブステージで、Ivanのアコースティックギターに導かれて優しく、熱く歌われた「3 a.m」が印象的だった。「音楽に人生を捧げてる人に拍手を!」Yoshはこのライブを作り上げているスタッフ、集まってくれたファンに、何度も何度も感謝の意を述べていた。


 10月からは『s p a c e [ s ]』を提げた全国ツアーがはじまる。そして、海外の猛者との共演、Incubus、Paramoreに続いて、Hoobastankの来日公演サポートアクトも控えている。Survive Said The Prophetがさらに進化していく様を、我々は体感していくことになるだろう。 (冬将軍)