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奥田民生、レキシ、クリープハイプ……イメージを更新し続けるアーティストの新作

2018年09月25日 10:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 アーティストしてのイメージをしっかり訴求しつつ、作品ごとにそれを更新し続ける。音楽シーンのなかで長くキャリアを続けるために必要なのは、この2点だろう。今回は奥田民生によるDIYレコーディング作品、三浦大知が参加したレキシのニューアルバムなどを紹介。“変わらないために変わり続ける”アーティストの現在をぜひ感じ取ってほしい。


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 音質ってめちゃくちゃ大事。ギターもドラムもベースも歌も“いい音”で録らないと曲の魅力は伝わらない……と、そんな当たり前のことを平気で思ってしまう奥田民生のニューアルバム『カンタンカンタビレ』。アナログレコーディング最盛期を代表する名機“TEAC 33-8”(8トラックオープンリールテープレコーダー)、“TASCAM M-208”(アナログミキサー)を使用した宅録スタイルのDIYレコーディングプロジェクト“カンタンカンタビレ”による新作は、THE COLLECTORSへの提供曲「悪い月」、木村カエラの「BEAT」など、他のアーティストのために制作した楽曲のセルフカバーアルバム。アナログ特有の生々しさと力強さ(←筆者はこれを“ガッツのある音”と呼んでいます)がとにかく最高。録音方法だけではなく、演奏時の出音が良くないとこういうサウンドにはならないことも念のため記しておきます。


 「GET A NOTE ~下駄の音ver.~」(フジテレビ系TVアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』ED主題歌)、「SEGODON」(NHK大河ドラマ『西郷どん』パワープッシュソング)を含むレキシの6thアルバム『ムキシ』のテーマは“幕末”。これまでの作品でもっとも現代に近いが、そのせいか(どうかはわかりませんが)、サウンドメイクもさらにブラッシュアップされている。三浦大知が参加した「GOEMON feat.ビッグ門左衛門」では人力ドラムンベース的なリズムを採用し、「SAKOKU feat.オシャレキシ」では上原ひろみとGENTLE FOREST JAZZ BANDとともに洗練されたビッグバンドジャズを表現。いとうせいこう、ハナレグミというおなじみのメンバーによるメロウチューン「マイ会津 feat.足軽先生、シャカッチ」を含め、過去最高レベルに名曲ぞろいのアルバムである。


 彼女の原点である原宿をテーマにした「原宿いやほい」、“周りの目を気にせず、やりたいことをやろう”というメッセージを掲げた「きみのみかた」を収録したきゃりーぱみゅぱみゅの約4年ぶりのオリジナルアルバム『じゃぱみゅ』。中心になっているのは(アルバムタイトルが示唆する通り)日本的な和の雰囲気を感じさせるトラック、そして、社会に対する疑問をはじめ、率直な思いを反映したリリックだろう。それを象徴しているのが「とどけぱんち」。やわらかくてドリーミーなサウンドに“キツめのぱんちを決めてやる!”という意志を感じさせる歌詞を乗せたこの曲は、“世間がなんと言おうと、私はやりたいことをやります”という彼女の宣言なのだと思う。自分のなかの“好き”を肯定する姿勢こそがやはり、きゃりーぱみゅぱみゅの魅力だ。


 これまでのバンドのキャリア、そのなかで感じた葛藤と苦悩をむかし話みたいに描いた「今今ここに君とあたし」、恋人とのお別れのシーンを淡々と映し出した「お引っ越し」、妬みとか不安が溢れる日常を送りながら、“急に良くなることなんてないから、とりあえず進もうよ”と語りかけるような「ゆっくり行こう」。映画『帝一の國』主題歌「イト」、『NHK みんなのうた』で放映された「おばけでいいからはやくきて」などを収録したクリープハイプの5thアルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』で尾崎世界観は、怒りをぶちまけることも自己に対する不満に沈むこともなく、前向きな諦念とでも呼ぶべき心情を表現してみせた。どんな人間でも自分を受け入れることは簡単ではないが、それをやらない限り、充足は得られない。そう、彼はこのアルバムによって、ようやく自分を認めはじめたのではないだろうか。


 現在、2年連続のドーム公演(京セラドーム大阪)を含む全国ツアーを行っているiKONから、2ndフルアルバム『RETURN』が到着。韓国、日本を中心に大ヒットを記録したシングル「LOVE SCENARIO」、現在進行形のヒップホップと韓国語のシャープなフロウが完璧にリンクした「ONE AND ONLY -KR Ver.- / B.I」、友達と恋人の間で揺れ動く心情を描いたポップナンバー「BEST FRIEND」、繊細なピアノを中心にしたアレンジと感情豊かなボーカルが混じり合う哀切なバラード「DON’ T FORGET」などを収めた本作は、コアなヒップホップのリスナーから普通のJ-POPユーザーまで幅広い層を取り込めるクオリティを実現している。その中心は、全曲の制作に参加しているB.I。カリスマ性と音楽的なセンスを併せ持った彼の存在はこのアルバムによって、さらに大きな注目を集めることになりそうだ。


■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。