2018年09月24日 10:12 弁護士ドットコム
鉄格子のついた居室、自由がない、光がないーー。刑務所には暗いイメージが付きまとう。7月25日には名古屋刑務所に収容されていた受刑者が熱中症で亡くなったことが報道され、快適な環境とは程遠いことも想像できる。
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しかし、日本には「楽園」とよばれる刑務所があるという。それが、国と民間が協働で運営しているPFI(Private Finance Initiative)刑務所だ。いったいPFI刑務所はどんな刑務所なのか。
PFI刑務所ができた背景には、刑務所の過剰収容がある。『犯罪白書』によると、2000年の収容率は100%を上回っているほか、施設によっては収容率が130%を超えてしまうという年もあった。このころは、1つの居室に定員をこえる受刑者が収容され、2段ベッドをつくるなど施設ごとに工夫していたという。
これを解消するため、日本に4つのPFI刑務所ができた。PFI(Private Finance Initiative)とは、施設の建設や管理、運営などを民間の資金やアイデア、ノウハウを活用して行う手法のことだ。つまり、PFI刑務所には「民間ならでは」の工夫が凝らされている。「刑務所」ではなく「社会復帰促進センター」という名前がつけられているのも特徴だ。
日本初のPFI刑務所「美祢社会復帰促進センター」は、2007年4月に山口県美祢市に設立された。ここには、男女両方の受刑者が収容されている。
広大なセンターの敷地内には、市立保育園や一般向けの食堂も設置されている。地域との共生を図ることで、受刑者の社会復帰を促進している。
同年に兵庫県加古川市に「播磨社会復帰促進センター」、栃木県さくら市に「喜連川社会復帰促進センター」が設置された。
「官民協働のPFI刑務所だからこそ、できることが多くあります。施設には、民間事業者により教育、心理、作業療法、福祉関係の専門スタッフが多数配置されています。
また、民間事業者内に設けている社会復帰促進部では、専門スタッフが教育業務と分類業務を兼務して実施しています。これによって、受刑者のアセスメントと教育プログラムの実施、そして実施後の評価を一体として実施することができ、質の高い矯正指導をおこなうことができます」(播磨社会復帰促進センター)
喜連川社会復帰促進センターには、精神や身体に障害のある受刑者を収容する「特化ユニット」がある。もちろん、高齢者や障害者に配慮し、「特化ユニット」内はバリアフリーだ。
もっとも新しいPFI刑務所は、2008年に島根県浜田市に設立された「島根あさひ社会復帰促進センター」だ。ここでは、多彩な改善指導プログラムを設置している。
「施設では、動物介在療法(盲導犬パピー育成プログラム,ホースプログラム(馬))などを実施しています」(島根あさひ社会復帰促進センター)
このようにオリジナリティ溢れるPFI刑務所の中はどうなっているのだろうか。
PFI刑務所の居室は、ほとんどが「刑務所=鉄格子」のイメージを拭払するものだ。
「当センターには鉄格子はありません。受刑者は、釈放前指導期間以外は単独室収容としています」(美祢社会復帰促進センター)
「一部共同室がありますが、大半が単独室です。居室の窓は鉄格子ではなく、強度を高めたガラスを使い、保安性能を確保するとともに開放的な空間を実現しています」(島根あさひ社会復帰促進センター)
家族に配慮し、明るい面会室を用意している施設もある。喜連川社会復帰促進センターは、受刑者と面会人との間に仕切りのない「家族面会室」や、高齢者や身体に障害がある面会者を考慮した「バリアフリー面会室」を設置している。
居室に冷房はないが、島根あさひ社会復帰促進センターのみ暖房が設置されている。ただし、工場に冷房やストーブを設置するなど、施設ごとに温度調整をおこなっている。
「作業内容や作業場の環境等を考慮して、冷房を設置している工場もあります。冷房が設置されていない工場や居室棟等では扇風機を使っています。冬は各工場に石油ストーブが設置されます」(播磨社会復帰促進センター)
面会や診療の際に、受刑者が職員の付き添いなしに一人で移動できる施設もある。これを可能にしているのが、ITを活用した「位置情報把握システム」だ。
美祢社会復帰促進センターでは、受刑者に無線タグを装備し、リアルタイムに位置情報を把握。また、生体認証装置によって所在確認などをおこなっている。喜連川社会復帰促進センターでは、民間警備会社のノウハウを活かしたシステムが導入されている。
まさに、民間と協働しているPFI刑務所だからこそ、実現できるシステムなのだろう。
PFI刑務所はだれでも入れるわけではない。4つの刑務所に入所可能なのは「犯罪傾向が進んでいない受刑者」に限られる。つまり、初犯者や刑務所に初めて入る者でなければならず、何度も刑務所に出入りしている者が入所することはない。
ほかにも細かい条件がある。美祢社会復帰促進センターと播磨社会復帰促進センターは「心身に著しい障害がなく、集団生活に順応できる者」を条件としているほか、美祢においては「社会において安定した就労状況が維持されていたこと、帰住環境が良好であることなどの、条件を満たした受刑者」など細かい条件も設定されている。
ただし、喜連川社会復帰促進センターをはじめ、ケアをするための設備が整っている施設があることから、精神的・知的障害、身体的障害など特別のケアを要する者も受け入れており、障害類型に応じた一般改善指導などがおこなわれている。
開放的できれいな居室、受刑者の一人歩き、さまざまなプログラムーー。これらはすべて、受刑者の改善更生と早期の社会復帰のためにおこなわれるものだ。円滑な社会復帰ができなければ、再び再犯を犯し、刑務所に戻ってしまうおそれも否めない。
では、PFI刑務所に入所した者が刑事施設に再び入ってしまう再入率はほかの刑務所よりも低いのだろうか。これについて、受刑者に「楽園」といわれることもある島根あさひ社会復帰促進センターより回答を得られた。
「刑事施設に初めて収容された者の再入率で比較した場合、当センターは全国平均よりも低い水準にあります」(島根あさひ社会復帰促進センター)
また、美祢社会復帰促進センターによると、平成25年出所の2年以内再入率は全国平均が18.1%であることに対し、美祢の男性が8.5%、女性が3.4%だという。全国平均と比較しても半分程度の数字だ。
もっとも、PFI刑務所に入所できるのは犯罪傾向が進んでいない「選ばれし者」のみだ。そのため、再入率が低いのは当然という指摘もある。しかし、できるだけ社会に近い環境を提供することや、社会とのつながりを実感できる多彩なプログラムを実施することなどは一定の効果があると考えられる。再犯防止推進の観点からも、PFI刑務所の多彩な取組みは今後も注目されるだろう。
(弁護士ドットコムニュース)