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「AV問題、自由にもの言えず、なし崩し的に風化」男優・辻丸さんが抱く危機感

2018年09月23日 09:42  弁護士ドットコム

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「AV問題を風化させたくない」。業界歴30年のAV男優、辻丸さんは危機感を抱いている。


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女性が意に反して、わいせつなビデオへの出演を迫られる「AV出演強要」が、マスメディアの注目を浴びはじめてから、2年半が経った。この間、AV業界の改善・健全化にとりくむ「AV人権倫理機構」ができるなど、業界の自主的な取り組みもおこなわれている。だが、「業界内はまとまっておらず、ほとんど何も前にすすんでいない」(関係者)という声もある。


辻丸さんはこれまで、この問題について、ツイッターやブログだけでなく、リアルの「お茶会」でも発信してきた。さらに、今年5月には、AV問題について考えるシンポジウム「AV問題を考える会」(次回11月10日予定)を開くなど、独自の行動をおこなってきた。最近の業界をとりまく情勢を見て、どんな考えを持っているのか。辻丸さんにインタビューした。


●AV業界は「蚊帳の外」にある

――最近の状況をどう見ている?


業界内がまとまっておらず、いろいろな部分が未整備なままです。しかも一部のルールがなし崩し的に守られなくなっている印象です。AV問題については、マスコミが取り上げる頻度も少なくなっています。おそらく世間も無関心になってきているのでしょう。このままだと、なし崩し的に風化してしまうと思います。


たとえば、業界改革をうったえたAV女優のための団体は、今年3月いっぱいで代表が退任し、「AV人権倫理機構」の会員組織でもなくなった。なぜそうなってしまったのか。かたちがどうであれ、発言すらできない状況になっているように思えます。どう見ても不自然でしょう。


業界の人間が、この問題に関して、自由にものも言えなくて、何が「適正」なのでしょうか。私の懸念にすぎないかもしれませんが、もし仮に、自由にものが言えない、そういうものを許せない、という雰囲気になっているのだとしたら、非常に問題があると思います。


――「#Me too」を合言葉に、セクハラや性被害を告発する機運が、これまで以上に高まっているが、業界は変わっていないのか。


業界からすれば、都合が良いことなのかもしれませんが、「蚊帳の外」です。差別が当たり前に存在しているからだと思います。


AVは、一種の「ファンタジー」に乗っかって、世間の誤解や勘違いを利用してきた側面があります。たとえば、コンドームをつけるシーンがないことが典型的です。男性の身勝手な欲望を象徴的に示していますよね。ほかにも陵辱的な内容があります。


「表現の自由」だから問題ない、という反論があるかもしれませんが、一部の女性からすれば、人権意識を傷つけられて、蹂躙されている表現もあります。そうした男尊女卑の感覚のもと、業界側が「差別しているつもりはない」ともっともらしいことを言っている。本来なら時代遅れでしょう。


●「業界内の意識改革はほとんど期待できない」

――男尊女卑という観点からいえば、自民党の杉田水脈衆院議員の「生産性」や、東京医大入試事件の「必要悪」という言葉が話題になった。


業界内でも、「生産性」と「必要悪」はつながっていると思います。


「生産性」とは「女優として売れること」です。「必要悪」とは、売れるために「覚悟をもたせること」です。女優に覚悟をもたせて、過激・陵辱的な作品を撮ったり、強要被害にあわせたりしてしまう。根本的には、男尊女卑です。そして、こうした男性的で、家父長的・全体主義的な発想は、マイノリティや弱者をさげすむ発想につながっていく。


AV強要被害についても、「仕事に関しては必要悪だ」と乗っかっています。そうしたことも含めて、業界全体が、世間にうったえているのが「被害者に甘さがあるのだ」「自分たちこそが被害者なんだ」と身勝手さです。生産性や必要悪は、その根底にあるのです。


この問題が大きくなった当初、私は「業界側の意識改革がなければ、強要はなくならない」と思っていました。しかし、法規制があるはずのセクハラ・パワハラ、性犯罪でさえも、世間の意識が変わらなければ、なくなりません。AV問題については、業界内の意識改革はほとんど期待できない状況です。


●AVは「日本的なあいまいさ」の上で成立している

――辻丸さんはかつてインタビューで「業界と規制派の対話が必要である」と答えていた。この点についてはどう考えているか?


いまさら対話してもしかたがない、何の解決にもならない、と思うようになっています。だから、社会的に立場のある人から厳しい意見を発信してもらって、それに業界がどうこたえるかを見ていこうと考えています。


「AV問題を考える会」第1回は、ドキュメンタリー映画監督の森達也さん、俳優の知乃さんたちが参加しました。森さんはオウム問題を引き合いに出しながら、世間の同調圧力とクロスするという視点で話してくれました。知乃さんは自身がセクハラを受けた経験をもとに考えてくれました。


――外の目を入れる意味は?


AVは、モザイクに象徴されるように、「日本的なあいまいさ」の上に成り立っています。だから、外部からの風を巻き込んで、コンスタントに社会問題としてとりあげてもらうようにしていきたい。そうすれば、業界内の意識改革もできるだろうし、差別・偏見をなくす方向にもつながっているだろうと考えています。業界そのものを「考える対象」としたいです。


――今後についてどう考えているのか?


繰り返しになりますが、これだけ世界的に、セクハラ・パワハラ問題について声があがっている中、AV問題が反比例しているのは、とても歯がゆい思いです。だからといって、被害者が声をあげるのは、今も昔もむずかしい。外からの関心や指摘によって、働きかけていかないといけません。


業界に対する引き締めは「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けた浄化作戦」とも言われていました。オリンピックが近づいて、大きな動きがあるのか、新しい法規制ができるのか、それとも自主規制になるのか。女優たちにどう影響していくのか。不安なのは、AV問題に関する動きがなくなっていくのではないか、ということです。


マスコミ的に風化しただけで、本質的なものは変わっていません。だから、オウム事件のように、「処刑したから、これで問題は終わりだ」という結果になることがこわい。少しでもそうならないようにしていきたいです。


(弁護士ドットコムニュース・山下真史)


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