F1第12戦ハンガリーGPとともに、相性がいいと思われた第15戦シンガポールGPで、トロロッソ・ホンダは予選でQ3に進出できなかっただけでなく、レースでも一度もポイント争いをすることなく、無得点に終わった。
なぜ、トロロッソ・ホンダはマリーナ・ベイ・ストリート・サーキットで失速したのか。考えられる原因は、ふたつある。
ひとつは、空力が非常にピーキーな特性を持ったトロロッソの車体が、改善されていなかったことだ。シンガポールGPの予選でQ2に進出したピエール・ガスリーがQ1のタイムを更新できなかった一因を「風の影響で結構バランスが変わってきてしまったようです」と、ホンダの副テクニカルディレクターを務める本橋正充が説明している。
ピーキーな空力は、風による影響だけでなく、コース特性による影響も受けていた。第2戦バーレーンとハンガリーはしっかりと止まって、方向転換した後にアクセルを踏んでいくタイプのコーナーが多いのに対して、シンガポールはブレーキングしながらステアリングを左右に切り返すコーナーが多い。
レースでピエール・ガスリーがザウバーのシャルル・ルクレールに一気に追い詰められた10、11、13コーナーがそうだ。いずれもコーナーが進入が進行方向と逆に少しだけ向いているため、ブレーキングしながらステアリングを切り返さなければならない。このような状況では前方からの風の流れが変わるため、リヤのダウンフォースが抜けやすい。
このエリアの空力の開発がトップチームとそれ以外のチームでは差があることも事実だ。またトロロッソはオーストリアGPで投入した新しいフロントウイングが実走で機能せずにお蔵入りとなり、その後、新しいフロントウイングが投入されていない点も気になる。これは2018年マシンの空力の根本的な部分に問題があったのか、あるいは2018年の開発をすでに終了した可能性がある。もし、そうなら、今後も同じような状況に陥った時、同様に苦しむことが考えられる。
ふたつ目の理由は、タイヤだ。
じつはシンガポールGPでトロロッソは、かなりアグレッシブなタイヤ選択をしていた。シンガポールGPで使用されたコンパウンドのタイヤは、ソフト、ウルトラソフト、ハイパーソフトの3種類だが、トロロッソはソフトを1セットしか選択してなかった。
■トロロッソ・ホンダのピーキーなマシン性能に振り回されたピエール・ガスリー
ふたりのドライバーともにソフトを1セットしか選択肢なかったのは、トロロッソのほかにフェラーリしかいない。1セットしか持って来ていないため、金曜日のフリー走行でのロングランはウルトラソフトで行うしかない。したがって、セットアップもウルトラソフトに合わせて施される。ソフトとウルトラソフトではコンパウンドが違うだけでなく、タイヤの特性が異なる。これがハイパーソフトを履いたときのマシンの挙動に影響を与えたのではないか。
シンガポールGPの予選後、田辺豊治F1テクニカルディレクターは次のようにコメントしていた。
「ハイパーソフトを予選でうまく使えませんでした。フロントが温まりにくく、リヤがオーバーヒートしやすかった。そのため、セクター1、2、3でどんどんクルマの挙動が変っていって運転しにくいクルマになってしまったようです」
調子が良かったハンガリーGPにはハイパーソフトは投入されておらず、ガスリーはウルトラソフトとソフトで6位に入った。7位に入ったモナコGPにはハイパーソフトが投入されていたが、ロングランはスーパーソフトだった。今回のシンガポールGPのようにハイパーソフトでスタートし、ウルトラソフトでロングランしたレースは今シーズンこれまでなかった。アグレッシブすぎるタイヤの使い方がピーキーなマシン特性をより運転しづらいものにしてしまった可能性が高い。
シンガポールGPは残念な結果に終わったトロロッソ・ホンダ。しかし、シーズンはまだ終わっていない。この教訓を今後に生かすためにも、シンガポールGPのデータを解析し、打開策を早く見つけてほしい。