2018年09月21日 10:22 弁護士ドットコム
世界各国で広がる同性婚。しかし、日本では憲法上、認められないと主張する向きもある。主張の根拠となるのは、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」とした憲法24条。両性とは男女のことだから、同性の場合は「婚姻が成立しない」というわけだ。
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しかし、首都大学東京の木村草太教授(憲法学)によると、こうした考えは誤解で、同性婚の法制化は憲法24条に反しないというのが憲法学の通説だという。
東京・渋谷区のトランクホテルで9月13日にあったトークイベント「できる? できない? 同性婚」(主催:「結婚の自由をすべての人に」実行委員会)に出演した木村教授に聞いた。
旧民法は、婚姻に「戸主」・「両親」の同意を要求していました。また、明治憲法下では、女性の意思が尊重されなかったケースも多く、両親や夫となる男性の一方的意思で婚姻の相手が決められる場合もあったといいます。
そこで、GHQは、「婚姻ハ男女両性ノ法律上及社会上ノ争フ可カラサル平等ノ上ニ存シ両親ノ強要ノ代リニ相互同意ノ上ニ基礎ツケラ」れる(当時の日本政府訳)という条文を提案しました。これが日本政府案に取り入れられ、帝国議会でも賛成多数で可決し、成立したのが現行憲法24条です。
この規定は、婚姻における両当事者、特に女性の意思を尊重して、家庭内での男女平等を実現するためのものです。「両性の合意のみ」とは、戸主など他者の同意がなくても婚姻が成立することを示したものです。「両当事者」ではなく「両性」としたのは、「女性」の意思を特に尊重するためですね。
夫婦同氏違憲訴訟上告審判決(最高裁大法廷判決平成27年12月16日)も、憲法24条は、婚姻が「当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべき」ことを規定したものだという解釈を示しました。
では、憲法24条の男女平等の保護は、同性カップルにも及ぶのでしょうか。
通説は、この条文は、「婚姻」は異性婚を指し、同性婚には憲法24条の保護は及ばないとします。例えば、長谷部恭男教授の教科書『憲法(第7版)』(新世社2018年)187頁は「憲法は同性愛者間の家庭生活を異性婚のそれと同程度に配慮に値するものとは考えていない」としていますね。
確かに、憲法24条にいう「婚姻」に同性婚が含まれるということになれば、同性婚が「両性=男女の合意」で成立してしまうという意味の分からない条文になるのですから、長谷部教授の指摘は当然です。
また、同性愛者からすれば、憲法24条は、「家庭内に男女の不平等がある可哀そうな異性カップルのための規定」なので、私たちには必要ない、という考え方もできるでしょう。
政府解釈も、「同性カップルに」憲法24条にいう「婚姻の成立を認めることは想定されておりません」とします(平成27年2月18日参院本会議、安倍首相答弁)。憲法24条の「婚姻」は異性婚という意味ですから、同性間での異性婚の成立が「想定されておりません」というのも当然でしょう。
このように、通説・政府解釈は、「憲法24条の保護は同性婚に及ばない」とします。しかし、「異性婚は、当事者の合意だけで成り立つ」という法命題は、「同性婚を禁じる」という内容を含んでいません。
このため、憲法24条は、同性カップルの婚姻に法律上の効力を認めることを禁止していない、とされています。例えば、木下智史教授は、『新コンメンタール憲法』(日本評論社・2015年)288頁で、同性婚に憲法24条の保護を及ぼさないことと、同性婚に法律婚の地位を与えることを禁じることは異なるとします。
その他、主要な憲法の教科書を見ても、「憲法24条の保護は同性婚に及ばない」と解説するものはあっても、「同性カップルの共同生活に法的効果を認めると憲法違反だ」とか、「同性カップルに、里親資格を認めると憲法違反だ」と書いたものは見当たりません。
さらに、最近は、アメリカの判例の影響もあって、同性婚を認めないことに、違憲の疑いをかける学説も増えてきています。例えば、宍戸常寿教授は、共著『憲法Ⅰ基本権』(日本評論社・2016年)455-6頁の中で、異性婚と同性婚などの他の結合の保護の不平等は「合理的な根拠」がない限り、平等権侵害になると指摘しています。
(弁護士ドットコムニュース)