9月18日に発売された『新潮45』10月号の内容が、波紋を広げている。同誌8月号の特集「日本を不幸にする『朝日新聞』」内に掲載された、自民党の杉田水脈衆院議員の主張を全面的に擁護する企画を掲載したためだ。
特別企画では、新しい教科書を作る会の藤岡信勝氏や文芸評論家の小川榮太郎氏など、7人の論者が意見を寄せている。杉田議員の「LGBTは子どもを産まないので生産性がない」といった主張への賛同や、主張に寄せられた批判への反論のほか、批判した人への誹謗中傷と捉えられる内容の文章もあった。
新潮社の編集方針に疑問も出ている中、同社の出版部文芸ツイッターアカウントは『新潮45』10月号発売日から、同誌への抗議とも見られるリツートを繰り返している。
新潮文庫、新潮文庫nexなど他レーベルも抗議の意思か
18日深夜から始まったリツイートは、『新潮45』を批判するものに限らず、「新潮社の本は今後買わない」と、新潮社そのものに不快感を示す内容のものに限られていた。同誌の内容に賛同するものは見られなかった。
一連のツイートは一度削除されたが、19日朝にはリツイートを再開している。19日午前には新潮社の創始者、佐藤義亮の言葉「良心に背く出版は、殺されてもせぬこと」を呟き、アカウントのトップに固定した。このツイートは新潮文庫、新潮文庫nexなど、同社の他レーベル・他編集部のツイッターアカウントもリツイートしている。
新潮社のSNS運用ポリシーを見ると、ツイッターやフェイスブックでの情報発信は「必ずしも新潮社の公式発表・見解を表しているわけではありません」とある。しかし、少なくとも出版部文芸アカウントの中の人は、『新潮45』に寄稿された各種の意見に思う所があると考えて間違いないだろう。
「新潮社内からのSOSに感じる」「中の人が社内でつらい目に遭いませんように」
同アカウントの行為を応援する声も多い。河出書房新社・翻訳書は、前出の創始者の言葉を引用し、
「良心に背く出版は、殺されてもせぬ事(佐藤義亮)長く続く出版社同士。もちろん、時代時代で変わっていく、変わらない訳にはいかないけど。良心に背いても、いいことないぜ、きっと。ほにゃく課は、新潮社出版部文芸と同じ気持ちです」
とツイートしていた。作家の星野智幸さんは、
「新潮文芸セクションのアカウント、この人たちを孤立させないことが、今一番重要です。外部から、書き手も読者も、新潮社バッシングではなく、『新潮45』のしていることがおかしいと、はっきり批判していきましょう」
とツイート。これには、作家の乃南アサさんも、引用リツイートで「同感です」と賛同の意思を示している。
このほか、太田啓子弁護士も、「新潮社出版部文芸の中の人頑張って下さいね。社内でつらい目に遭いませんように。組織内での闘いはしんどいかも」とツイート。「やおい研究家」を自称する金田淳子さんも「新潮社内からのSOSに感じる」と呟くなど、多くの人がアカウントの中の人の立場を思いやった。
小川氏の主張に批判噴出「慄然とする」
『新潮45』10月号に掲載された内容には、多くの疑問や抗議の声が出ている。それらを見ると、特に小川榮太郎氏が寄稿した「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」に対しては「慄然とする」など、拒否感を持つ人が多い。
困難を抱える主体は集団ではなく個体のため、「政治は個人の『生きづらさ』『直面する困難』という名の『主観』を救えない」というのが小川氏の主張だが、「LGBTの生き難さは後ろめたさ以上のものなのだというなら、SMAG(編集部注:小川氏の造語で、サド、マゾ、お尻フェチ、痴漢)の人達もまた生きづらかろう」という論理で、
「満員電車に乗った時に女の匂いを嗅いだら手が自動的に動いてしまう、そういう痴漢症候群の男の困苦こそ極めて深かろう。再犯を重ねるのはそれが制御不可能な脳由来の症状たという事を意味する。彼らの触る権利を社会は保障すべきではないのか。触られる女のショックを思えというか。それならLGBT様が論壇の大通りを歩いている風景は私には死ぬほどショックだ、精神的靴の巨額の賠償金を払ってから口を利いてくれと言っておく」
と主張している。