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柄本佑が体現する、消えゆく夏の儚さ 『きみの鳥はうたえる』は新たな代表作に

2018年09月19日 10:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 かねてより熱狂的な映画ファンとして広く知られている俳優・柄本佑。全国公開規模の大作映画に数多く出ながら、映画ファンの熱い支持を受けるパーソナルな映画にもコンスタントに出演を重ねてきた。主演最新作『きみの鳥はうたえる』は彼の新たな代表作となったのではないだろうか。


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 柄本の映画初出演にして初主演作は、2003年公開の黒木和雄監督作『美しい夏キリシマ』。1945年の霧島の大自然を舞台に、戦時下を生きながらえている少年の空虚な心を見事に演じ、多くの新人賞に輝いた。それからは、李相日監督作『69 sixty nine』(2004年)や『チェケラッチョ!!』(2006年)、『僕たちは世界を変えることができない。』(2011年)といった若手俳優が集結した作品に名を連ね、『犯人に告ぐ』(2007)や『空気人形』(2009)、近年は『64-ロクヨン-』(2016)や『追憶』(2017)など、その年を代表する大作でも強い印象を残し、これらの出演本数はかなりの数にのぼる。


 その一方で、若松孝二監督と『十七歳の風景~少年は何を見たのか』(2005)で、石井隆監督とは『フィギュアなあなた』(2013)、そして今年は冨永昌敬監督と『素敵なダイナマイトスキャンダル』でと、強烈な作家性を放つ監督たちと、主演俳優としてタッグを組んできた。さらには、限定的に公開された黒沢清監督による短編作品『ビューティフル・ニュー・ベイエリア・プロジェクト』(2013)や、自らがメガホンを取った『ムーンライト下落合』(2017)、日本・ポルトガル・アメリカの合作による『ポルトの恋人たち 時の記憶』も公開が待たれる。


 連続ドラマではあまり見かけないようにも思えるが(単発ドラマには多く出演)、NHKの連続テレビ小説『あさが来た』への出演や、『コック警部の晩餐会』(2016・TBS系)では連ドラ初主演を果たしている。やはり、活動の場の中心を映画に据えた上での、スケジュールの問題などなのだろう。


 そんな柄本のことは、まさに“映画人”と呼びたくなる。そのことに異論はないのではないだろうか。彼はトークショーなどにも多く登壇し、好きな監督や作品への想い、自身が参加した現場での情熱的な日々の興奮を口する姿をよく見かける。彼が映画について語るときの劇場内の空気は和やかで、それでいて熱っぽく、そして笑いが絶えない。一度でもその場に立ち会った方ならば、そんな印象を持たれるではずである。


 本作で柄本が演じる主人公「僕」とは、ひょうひょうとしていて掴みどころがなく、思わず目で追いたくなる印象が柄本自身とどこか重なる。「僕」は愉快な男ではあるが、かといって底抜けに明るいわけでもない。冒頭の、「僕にはこの夏がいつまでも続くような気がした……」という素朴な彼の声で語られるナレーションには、この夏(=青春)は永遠のようであるが、いつ消えてしまうか分からないという儚さが漂っている。先述したキャリアを眺めてみれば、特定の人物像にとどまらず様々なキャラクターに柔軟に適応してきたということが分かる柄本だが、主演を務めた作品に注目すると、世に言われる“普通”からは少し外れた役どころが多い。本作の「僕」はごく平凡な青年であるものの、この系譜に位置づけることもできるだろう。


 夜な夜な友人たちと繰り出しては楽しむその姿は、物語上の「僕」と同じように柄本自身が楽しんでいるように思えるが、それでいてふとした時に見せる虚ろな表情は、観ているこちらを不安にもさせる。それはまるでこの映画がやがて終わる寂しさを、彼と私たちとで共有している感覚にも近い気がする。


 『素敵なダイナマイトスキャンダル』では、昭和のアンダーグラウンドカルチャーを牽引した稀代の雑誌編集長・末井昭の半生を、柄本はフルスロットルで、爆発するような青春として体現していたが、今作での「僕」はまるで線香花火のよう。派手ではなく静かだが、いつまでも見ていたい、たしかな強い輝きを放っているのだ。


(折田侑駿)