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『健康で文化的な最低限度の生活』最終話は“松本まりかオン・ステージ”に 吉岡里帆が導いた母娘の姿

2018年09月19日 07:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 えみる(吉岡里帆)の担当世帯である、ハルカ(永岡心花)とその祖母・幸子(小野和子)のふたり暮らしの丸山家に、4年前に男と姿を消したハルカの母・梓(松本まりか)が帰ってきた。これからは家族と暮らしていくと誓った彼女だが、自身の生活保護の受給が決まると、早々に出ていってしまっていたのだ。


 9月18日に放送された火曜ドラマ『健康で文化的な最低限度の生活』(カンテレ・フジテレビ系)第10話では、生活保護の支給を口座振込から窓口支給に無断で変更された梓が、激昂した状態で役所を訪れる。一方、妊娠しているが、出産の決心がつかない阿久沢(遠藤憲一)の娘・麻里(阿部純子)たちの、父娘の物語も並行して描かれた。


【写真】最終回で奮闘するえみる(吉岡里帆)


 前回の第9話のラストでは、声を荒げながら梓が役所を訪れたところで幕が下りたが、今回はのっけから、演じる松本による“松本まりかオン・ステージ状態”。ドラマ開始そうそう、全国のお茶の間を凍りつかせたのではないだろうか。これまでにも様々なタイプのゲスト俳優が、吉岡扮するえみるの前に立ちはだかってきたが、ここまで作品のトーンをガラリと変えてしまうのは彼女が初めてだ。恐るべし。


 そんな梓に、えみるは毅然とした態度で接する。新人ケースワーカーとして仕事を始めたての頃と比べると見違えるほど逞しい。演じる吉岡の力の入れようも、終始うかがえるものであった。


 この母娘を一緒にするのはマズイと考えたえみるは、ハルカを施設をに預けることを提案する。これには、栗橋千奈(川栄李奈)や七条竜一(山田裕貴)といったえみるの同期たちも賛成のようだ。しかし、それを梓は「ありえない……」と口にする。


 どうやらえみるが調べたところ、梓も施設で過ごした経験があるようだ。彼女は「なにが幸せか分からない」とまで言い放つ。梓に会うためにハルカが行方知れずとなった場面でのえみるの必死の訴えは、これまでで最も鬼気迫るものであった。しかしそれでいて優しい。梓より先に涙を流したことが、えみるが誰よりも梓に寄り添おうとした証だろう。


 母娘の再会の場面では、自身の置かれた状況を省みず、母のことを心配するハルカの姿が印象的だったが、そんな彼女に梓は“母として”向き合い、「ごめんね」と口にする。すると、これまでどこか表情の硬かったハルカの瞳からも涙が溢れ出す。ようやく、本当の意味での“母と娘”の関係になったことで、子供のようだった梓は母親の顔に、そして、大人のように振る舞わなければならなかったハルカは、子供らしい顔を見せたのだ。


 時同じくして、えみるが向き合っていたもう一組の親子(父娘)だが、麻里は、父が出ていってから、病気の母と2人で厳しい生活を強いられてきたのだという。しかも、当時役所に相談したところ、「病気でも働ける」と、厳しい対応も取られたことがあるという。この経験や、現在の生活のままならなさが、子供を産むか産まないか悩んでいる理由なのだ。


 それを知った半田(井浦新)は、自ら麻里のもとへ赴き、彼女たちの生活をサポートすることができるかも知れないと訴える。第9話で、彼の過去の苦い経験も明かされたが、それが活きての、この発言だろう。これで麻里が出産の意思を固めるということは、文字どおり、生活保護が“命を守る、最後の砦”だと端的に示していることにほかならないのだ。


 この最終話のラストでは、麻里の恋人役としておばたのお兄さんが登場。何かネタでも放ってくるかと思ったが、さすがに最終回なだけに、それはなく。本作にしては珍しく出落ち感は否めなかったが、湿っぽくならない最終回に、彼が一役買ったのは間違いない。


(折田侑駿)