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Zeebraなど出演で話題の都市型フェスCMはどう生まれた? 映像作家・山田智和インタビュー

2018年09月17日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 都市型音楽フェス『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』(9月22日~10月12日)のテレビCMが話題を集めている。「音楽って誰のものだっけ?」というZeebraの問いかけから始まり、このフェスの舞台である渋谷の街で、向井太一、RHYMESTER、ちゃんみな、やくしまるえつこなど17組のアーティストが音楽について語るこのCMを手がけたのは、映像作家の山田智和。米津玄師の「Lemon」のMVのほか、サカナクション、水曜日のカンパネラといったアーティストの映像作品を数多く手がけてきた山田氏に、新たな都市型フェスの提案と音楽シーンへのメッセージをライブ感のある映像で表現したこのCMについて聞いた。(森朋之)


(関連:渋谷の中心で音楽の解放を叫ぶ 『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』のメッセージ


■フェスのCMを通して、いまの音楽シーンのおもしろさを伝える


ーー都市型音楽フェス『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』のテレビCMが大きな注目を集めています。まず、山田さんがこのCMに関わることになった経緯を教えてもらえますか?


山田智和(以下、山田):『RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018』のキャンペーンを担当している電通の田辺さんから「フェスのティザー映像を作りたい」と呼んでもらったのが最初ですね。東京の街のなかで開催されるフェスなので、街と音楽が一体となるような映像を作りたいということだったんですが、その内容がすごくおもしろいと思ったし、こちらとしても「ぜひやらせてほしい」という感じでした。まず、フェスを都市で開催するということ自体に共感したんですよね。これは以前から感じていたことですが、フェスのあり方はもっと多様化していいと思うんです。地方には個性的なフェスもありますが、全体的に画一化されてきている印象があって。『RED BULL MUSIC FESTIVAL』の、都市と人と音楽を繋げるというコンセプトは今までになかったし、個人的にも賛同できたんですよね。このフェスのCMを通して、いまの音楽シーンのおもしろさを伝えられるかもしれないということも考えました。最近は才能のあるアーティスト、バンドがどんどん出て来ているし、ヒップホップも再燃している一方で「やっぱり大御所のアーティストはいいね」という再評価もある。この企画はいまのシーンで起きている現象とも重なっていると思ったし、自分自身の意識ともマッチしていたということですね。そもそもフェスのCM自体、ほとんどないですからね。


ーー確かに。しかも渋谷の街のなかでZeebraさん、向井太一さん、RHYMESTER、ちゃんみなさんなどのエッジの効いたアーティストが音楽について語るという、非常に刺激的な内容に仕上がっています。


山田:このCMのクリエイションは、クライアント、広告代理店、制作会社を含めた信頼関係があったから実現できたと思っています。根幹の企画、コピーがしっかりしていたから、自由にアイデアをつなげられたというか。渋谷の街でCMを撮ることも、普通だったら「リスクが高い」と言われがちだと思うんです。今回の場合は“三脚を立てられない”“通行する人を妨げないように撮る”などの制限がありましたが、「このCMは渋谷の街で撮るべき」という共通の認識が出来ていたので。それは目立つ映像を作るためではなくて、あくまでもフェスのコンセプトを伝えるためなんですけどね。山手線の電車の中や新宿のカラオケ館などで行われるフェスだからこそ、親和性のある映像を撮るためには、街のなかで撮影することが必要だったので。


■CMとMVの境界線を常に超えたいと思っている


ーーCMに登場するアーティストに関しては?


山田:フェスに出演するアーティストにCMのコンセプトをお伝えして、趣旨に賛同していただける方を募集させてもらいました。かなりタイトな進行だったので、事前にロケハンして、ビデオコンテも作って、あとは出演してもらえるアーティストのスケジュールを調整しながらパズルのように組み込んで。当初は「出てもらえるアーティストが3組になるのか10組になるのかわからない」という状況だったんですけど、チームの空気がいいときって、上手くいくものなんですよね。


ーーすごく自由度が高い現場だったんですね。出演しているアーティストからも、撮影を楽しんでいる雰囲気が伝わってきました。


山田:みなさんこの企画に賛同してくれていたので、すごくフラットに撮影に臨んでくれて。スクランブル交差点の真ん中や駅前で撮影するって、なかなかないですからね。ゲリラ的な撮影だったから緊張感もあったし、シビれる場面もありました。なかでもZeebraさんの撮影は印象に残ってますね。撮影のときに、急遽「音楽って誰のものだっけ?」というセリフを言ってもらったんです。そのときにチーム全体が「CMはここから始めよう」というところで一致したんですよね。当初は街の人の声からスタートするアイデアもあったんですが、そうじゃなくて、Zeebraさんの言葉で始めるべきだなって。それだけものを背負っているアーティストの言葉で始めたいなって。


ーーフェスのCMという枠を超えた、音楽シーン全体の提言に溢れた映像作品ですよね。


山田:これも個人的な意見なんですが、CMとMVの境界線はなくなるだろうし、常にそこを超えたいと思っていて。映像というよりも、MVとCMの境界を超えた、その構造自体がおもしろいんですよね。CMに出ている“ゆるふわギャング”を見て「このカップル、何だ?」と気になってMVを見ることだってあるだろうし。企業のCMと楽曲のタイアップも、クリエイションが上手くいけば、商品のイメージを借りたMVとして成立するはずですから。この先はさらに媒体は関係なくなるというか、広告、MV、ドラマなどの境界もなくなると思っていて。僕はいまのところMVとCMがメインで、ドラマを作ったり、写真をやったりしてますけど、先に“やりたいこと”“伝えたいメッセージ”があるんですよ。その後“それをどのメディアに落とし込むか”という順番なんです。たとえば音楽を伝えることが目的だとしたら、MVではなくて、イベントのほうがいいかもしれない。MVを撮ってる立場で、こんなこと言うのもどうかもと思いますけど(笑)。


ーー(笑)。先に表現のメディアを決めるのではなく、伝えたいメッセージがもっとも効果的に届く手段を選ぶと。


山田:やりたいことを実現するための手段として映像を使うほうが健康的というか。僕が「この人はおもしろいな」と思う人も、いろんなことをやってることが多いんです。たとえば役者をやりながら脚本を書いたり、映画を撮ったり、音楽を作ったり。フォーマットに捉われず、表現方法をフレキシブルに考えるということですよね。職人的なクリエイターも素晴らしいし、リスペクトもしていますが、僕の場合は、それが窮屈なんです。いろいろな表現方法を持っていると「何をやってるかわからない」と言われる不安もあるんですが、自分にはそのほうが合ってるのかなと。もちろん、いまも将来も軸は映像ですし、その表現をさらに突き詰めたいという気持ちもあって。その両軸があるのが楽しいんでしょうね。


■メッセージがあればエッジが効いた表現も伝わる可能性がある


ーー映像の世界を追求しつつも、他のメディアを使った表現の幅を確保しておく、と。山田さんがMVを手がけてきた、サカナクションの山口一郎さん、水曜日のカンパネラのコムアイさんも、そういうタイプのアーティストですよね。音楽を軸にしながら、様々なメディア、テクノロジーを使った表現を続けていて。


山田:山口一郎さん、コムアイさんから受けた影響はとても強いですね。サカナクション、水曜日のカンパネラと仕事を続けられているのはラッキーだし、これからもずっと呼ばれる存在でありたいと思います。彼らを見ていて、僕自身も、もう少し前に出たほうがいいのかなと感じることもありますね。僕が関わらせてもらった作品には、何千万の予算で作ったCMやドラマもあるし、10万円くらいで制作したMVもあって、それが同列で語られているのもおもしろいなと思うんですよ。米津玄師くんの「Lemon」のMVで僕のことを知ってくれた人が、『RED BULL MUSIC FESTIVAL』のCMを見ることもあるだろうし。ドラマを見 てくれた人が、Kid FresinoのMVを見てくれたり。そうやってクリエイションがつながって、いろいろな垣根を超えていけるのもおもしろいですよね。


ーーこういうエッジの効いた企画のCMが、地上波のテレビで放送されているのも興味深いです。ふだんテレビで観ることが少ないSurvive Said The Prophetやゆるふわギャングがいきなりゴールデンタイムのお茶の間に登場するのもおもしろいなと。


山田:いいですよね(笑)。そこはクライアントの意向もあるのですが、僕自身もテレビCMには可能性を感じています。テレビCMは大人数に伝えることが前提ですが、それはすごくいいフォーマットだと思っていて。メッセージがしっかりしていれば、エッジの効いた表現であっても、伝わる可能性はあると思うんです。そういう機会がなくなっていくと、作り手はどんどん行き詰るような気がします。みんなが歌える曲が生まれなくても、『NHK紅白歌合戦』が貴重なコンテンツとして存在しているのも、そういうことだと思うし。


ーーインターネットの場では、セグメントごとに刺さるコンテンツを作ることが良しとされているわけですが……。


山田:それはとても喜ばしいことであると同時に、今後はそれも窮屈になってくるでしょうね。テレビCMのように窓口が広いメディアのほうが表現として強いという場面が出てくると思います。3年前は逆だったんですよ。ターゲットを絞って、ウェブでバズらせることが主流だったんですけど、細分化が進み過ぎて、クリエイティブの方向も変わってきたと思います。山口一郎さんや、米津玄師さんなどもそうですが、しっかり掘り下げた表現ができる人たちだし、しかも大多数の人に伝えることを諦めていないんですよね。そういう勝負ができる人は、人間的にも素敵だなと思うし、アートだなと思います。


ーー確かにそうですね。それにしても山田さん、音楽に対する愛が本当に強いですね。


山田:映像と音楽は仲がとてもいいと思うんですよ、単純に。MVだけじゃなく、テレビCMにも音楽が必要だし、映画を作るときも音楽はすごく大事で。いまのシーンには才能のあるアーティストが多いので、どうしたらたくさんの人に届けられるか常に考えているし、メジャー、アンダーグラウンドに関係なく、好きなものをきちんと作っていきたいですね。その中で、しっかりと共犯関係を築けることが表現として健康だと思います。


ーー最後に『RED BULL MUSIC FESTIVAL』に期待することを教えてもらえますか?


山田:こういうお祭りごとは、1回きりではなく、5年くらいのスパンで観たいですね。このフェスは都市計画のひとつになるほどの大きいプロジェクトだと思うんですよ。街のなかでフェスを開催することから始まって、将来的にはカルチャーが街を作るところまで持っていきたいというか。ここ数年の東京は再開発がさらに進んで、どこに行っても同じような景色になってますよね。いい裏路地や古いお店がどんどんなくなって、同じようなテナントが入っている商業ビルばかりになって。そうではなくて、カルチャーが生まれる場所を残していったほうがいいし、そういう場所を作ること(残す)もカルチャーの方からできると思うんです。そういう意味でも意義深いフェスですよね、『RED BULL MUSIC FESTIVAL』は。 この場所でライブやったら面白いとか、音楽流したいなとか、つまりは現代の「お祭り」にちゃんとしたい。できれば来年以降も続けていただいて、映像監督としては、「このフェスのティザー映像を観れば、いまの音楽シーンと映像クリエイティブがわかる」というのが理想ですね。