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永野芽郁が明かす『半分、青い。』鈴愛役の苦悩と喜び「壊れるかもしれないと思った時期もあった」

2018年09月17日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 4月2日よりスタートした朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合)が、9月29日に最終回を迎える。星野源が歌う主題歌『アイデア』とともに、永野芽郁の笑顔に毎朝癒やされた視聴者も多かったことだろう。永野が演じる主人公・楡野鈴愛は、度重なる挫折を繰り返しながらも、人並み外れた前向きさとバイタリティで、“一大発明”に向けて突き進んでいる。


 リアルサウンド映画部では、約10ヶ月間にわたり鈴愛を演じた永野芽郁にインタビュー。朝ドラヒロインを演じたことで得たもの、鈴愛への思い、そして今後の女優としての展望までたっぷりと話を聞いた。


●予想以上に大きかった朝ドラヒロインの“壁”


ーークランクアップを終えた後のブログで「台本を読まない自分が不思議」とも書かれていましたが、改めてすべての撮影を終えた現在の気持ちを教えてください。


永野芽郁(以下、永野):思い返すとすごく大変な毎日ではありました。クランクアップの際に、スタッフ・キャストの皆さんから寄せ書きが書かれたアルバムをいただいたのですが、写真の中の私は全部笑っていたんです。もちろん、楽しい日々ではあったのですが、私の中では現場ではそんなに笑えているイメージがなかったので、自分で思っていた以上に周りの皆さんに支えていただいていたんだなって。でも、撮影を終えて、「明日からはもう撮影現場に行けないんだ…」というロスに襲われるかと思ったら、意外とそれはありませんでした(笑)。


ーー鈴愛にとらわれるわけではなく、意外にスッキリと切り替えられたと。


永野:『半分、青い。』の現場が大好きでしたし、スタッフ・キャストの皆さんが大好きです。先日、おじいちゃん(中村雅俊)の舞台をお母ちゃん(松雪泰子)と一緒に見に行って、その後にご飯に連れて行ってもらったんです。その席で、「鈴愛は芽郁ちゃんにしかできないよね」と言ってもらって、“私にしかできない役がこの世の中に存在していたんだ”と思ったらすごく嬉しいことだと改めて感じました。本当に鈴愛を演じることができたのは嬉しかったんですが、それでも今は意外に「サヨナラ~」という感じがあります。1日に撮影する量がとんでもなく多くて、セリフの量もすごく多かったので、最初は1週間分をどう覚えればいいんだ!という感じでした。でも、やってしまえば意外とできるんだなと。今は映画1本分の台本を3時間ぐらいで覚えられると思います(笑)。


ーー撮影開始当初のインタビューで、「壁を感じない」と話していましたが、実際に“壁”はなかったですか?


永野:「壁を感じてない」と発言してから2週間後ぐらいにすごい壁に直面していました(笑)。世の中に最初のインタビュー記事が流れ始めて、「お、永野芽郁は余裕でやっているのか」と皆さんに思われている時期が一番苦しい時期でした。10ヶ月間、同じ役を演じるというのは、自分自身でいる時間がほとんどなかったですし、実際に本物の家族と一緒にいるよりも楡野家のみんなと一緒にいる時間のほうが長かったんです。途中、自分の生きている時間に鈴愛をどうやって落とし込んでいくのか分からなくなる時期がありました。周りの皆さんともどう接していいのか分からなくなってしまって。夫となる涼ちゃん(間宮祥太朗)との出会いから別れまでの時期は、撮影の順番があらすじ通りではないところもあり、どう演じていたかほとんど記憶にないぐらいでした。


――鈴愛のキャラクターのせいもあり、勝手ながら現場でも永野さんは元気に乗り切っているイメージがありました。


永野:結構いっぱいいっぱいになってる時期もあったんです。でも。本当にしんどい時に、お母ちゃんがわざわざ前室に来て、抱きしめてくれて、泣きながら話を聞いてくれたこともありました。こんなに長い時間をかける作品で、本当に周りの皆さんに恵まれたことを、改めて幸せだったなと思います。


●北川さんから“果たし状”を出されているようだった


――10ヶ月間演じた鈴愛というキャラクターは、永野さんにとってどんな存在になっていますか?


永野:どんな人も、良いところも悪いところも表裏一体だと思います。鈴愛はいつでもまっすくで、これと決めたら曲げない。それがすごくいい方に回るときもあれば、悪い方に回るときもある。「漫画家になる!」と突然宣言したり「社長になる!」と言ってみたり、鈴愛は全部「~なりたいなあ」ではなく「なる!」なんですよね。でもそれを言ったところで本当に行動に移せるかはまた別であって、きっと多くの人が口では言っても最後までやり遂げられない。でも、鈴愛は自分で決めたことは絶対にやり遂げる。そこは本当にすごいなと思いました。だけど、実際に鈴愛がいたら友達にはなれないですね(笑)。菜生(奈緒)ちゃんも、裕子(清野菜名)もボクテ(志尊淳)も、鈴愛にあんなに優しくてすごいと思います(笑)。


――脚本の北川(悦吏子)さんは、実際に永野さんと接して感じたものを鈴愛にも組み込んでいったと話していましたが、「こんなところに自分がいる」と感じたことは?


永野:私は脚本を読めば読むほど、鈴愛と自分が似ているとは感じなくなりました。周りの皆さんから「鈴愛のまんまだね」と言われた部分で、納得できることもあれば違和感を覚えることもあって。奈緒ちゃんは「芽郁ちゃんは鈴愛とまったく違うね」と言っていたのですが、(佐藤)健さんは「鈴愛のままだよな」とも言うし。男性から見る私と女性から見る私でまた見え方が違うのかもしれないですね。


――以前、間宮さんは北川さんからの台本を「“ラブレター”のように感じた」と表現されていたのですが、永野さんはどのように捉えていましたか?


永野:“ラブレター”だとは思ってないですね。北川さん自身を書いている気がしたから、北川さんが望むものが絶対あると思いましたし、私の中ではこれは正解だと思うものが全く分からなかったけど、きっと北川さんはこういう風にしてほしいだろうなという思いもあったので、常に“果たし状”を出されている気がしていて。それは悪い意味ではなくて、「あなたに懸けている」という強い信頼を感じましたし、それが鈴愛として生きる力になりました。次はどんな言葉が並べられて、鈴愛はどんな動きをしているのか。それが楽しみでもあり、怖くもありました。北川さんが作ってくれた“生きる道”を、最後まで歩いていかないといけないなと。


――オールアップの際には北川さんとどんな話を?


永野:朝ドラ=大変、という印象がつくのが嫌で、「大変」ということは言っていなかったんですけど、北川さんから「大丈夫って言っていたけど大変だったでしょ」と。思わず「めっちゃ大変でした!!」って言ったら「だよねぇ(笑)」って(笑)。誰よりも北川さんが大変だったと思うのですが、北川さんから「本当に頑張ったね!」と声をかけていただいて、本当に嬉しかったです。


●意識的に演技に持ち込んだ“矛盾”


――主人公の鈴愛として、劇中の誰よりもセリフが多かったと思いますが、その中でも特に印象に残っているセリフを教えてください。


永野:鈴愛のセリフではなくて、お母ちゃんのセリフでもいいですか? パッと浮かんだのが、鈴愛が東京から岐阜に帰ってきたときに、お母ちゃんが「宝くじに当たったみたいな気分やった」というセリフ。泣くシーンではなかったんですが、お母ちゃんの元に生まれて、こんなに愛情をもらえて本当に幸せだなと思ったらブワッと涙が溢れてきたんです。北川さん自身もお母さんだからこそ、出てきた言葉だなと感じました。鈴愛のセリフでは、秋風先生(豊川悦司)に向かって放った「飛べる鳥を見上げながら下を歩くのはごめんだ」「私は、自分の人生を晴らしたい。曇り空を晴らしたい」かなあ。相当な挫折をしたり、苦しいことがない人じゃないと言えない言葉だから。挫折や失敗をした経験がある方ほど、胸にくるものがあったのかなと思います。


――鈴愛が漫画を描けなくなり、秋風先生に泣き笑いのような顔でネームを見せて「これ屑ですよね」と訴えていたシーンも強く印象に残っています。涼ちゃんから別れを切り出されたシーンなども、顔は笑っているのに言葉は真逆など、セリフと表情が一致しない演技が圧巻でした。


永野:鈴愛も自分のことが分かってなくて、どうしていいか分からないことにも悲しさを感じている。そして、自分の思いとしてはこうしたいというものがしっかりあるのに、それができない自分の無力さだったり、色んなものを感じてるから、表情と言葉が食い違っていく。生きていたらそういったどうしようもない感情って時々あると思うんです。悲しくて虚しいけど、自分を守るために笑っておいた方がいいみたいな。すべての行動とセリフが一致していくのは何か気持ち悪いなと思って、ちょっと意識的に“矛盾”を持ち込めたらと思ってやっていました。


――本作では実年齢より先の30代、40代、そして「お母さん」も演じていますが、年齢が上がるにつれて難しさはありましたか?


永野:見た目も特殊メイクをするわけではないので、30代・40代を動きや雰囲気で表現しないといけないという難しさはありました。いつもまっすぐで全力な鈴愛らしさは変えずに、いかに大人にとなっていくか。その上で一番大きかったのは娘・花野(山崎莉里那)の存在です。莉里那ちゃんが現場に来てから、自分がどんなにしんどくてもこの子のことは守ろう、支えてあげたいと強く思いました。鈴愛が大人に見える瞬間があったり、1人の女性として成長したんだなって思えるのは花野がいたからだなって思います。何かを捨ててでも絶対に守らなくてはいけない存在。鈴愛としても、私自身としても、花野に助けてもらったことは本当に多かったなと今は思います。実は、途中何度も「終わらない」と思ったんです。8月中には撮影が終わるだろうと分かっているのに、8月まで本当に長くて。それまでに私のいろんなところが壊れるかもしれないと思った時期もありました。だからすべてが終わったとき、私よりも母の方が泣いてました。毎日私を仕事に送り出さないといけなかった母も辛かっただろうなって。花野を想う母としての鈴愛を演じたからこそ、母のその想いも痛いほど伝わりました。


――『半分、青い。』は永野さんにとってどんな作品になりましたか?


永野:これだけ長い間、自分自身や、演じる役に向き合ったのは初めてでした。自分はこういうときはこんな行動をするんだとか、こんなときは辛いんだとか、自分自身に優しくする方法をようやく見つけられた気がします。それは鈴愛として、自分自身を客観的に見ている瞬間があったからかもしれないです。『半分、青い。』を通して、女優さんというお仕事がすごく大好きになったし、誰かと目を合わせてお芝居するのがすごく楽しいことだって思えたし、逆に女優さんってお仕事がとんでもなくつらいっていうのも感じました。だからこそ、すごくこのお仕事に対しての魅力を再確認できました。この作品でご一緒できた方々とまた違う役で向き合ってお芝居することができたらいいなと今は思います。これまで女優としての目標を考えたことはなかったのですが、「こうしたい、こうなりたい」という思いを、『半分、青い。』は培ってくれました。


(取材・文=石井達也/撮影=三橋優美子/スタイリスト=岡本純子(Afelia)/ヘアメイク=石田絵里子(air notes))