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菅田将暉×山田孝之が築き上げた濃密な物語 『dele』は“死”ではなく“生”を描いたドラマに

2018年09月15日 15:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「デジタル遺品」を題材にしたドラマ『dele』(テレビ朝日系)、その最終話が9月14日に放送された。主人公・坂上圭司(山田孝之)と真柴祐太郎(菅田将暉)は、クライアントの依頼を受け、死後に残るデジタル記録を“内密に”抹消する仕事を生業にしている。削除予定のデジタル遺品から明らかになる隠された真相やクライアントの人生が、このドラマの醍醐味だ。


参考:菅田将暉と山田孝之の間に不穏な空気が流れる 『dele』が描いた“人間の裏の顔”


 最終話では、クライアントの遺したデータから、真相のみならず、語られてこなかった圭司と祐太郎の過去が浮き彫りになる。クライアントの依頼がきっかけで、彼らが抱えていた心の傷が再び彼らを痛みつける。しかし第1話から築きあげてきた2人の関係によってその傷が昇華される回でもあった。


 死後のデータ削除を依頼していたクライアントの名は、辰巳仁志(大塚明夫)。辰巳は、祐太郎の亡き妹・真柴鈴(田畑志真)の死に関わる人物だった。新薬治験の最中に亡くなった妹。その死には不審な点があった。しかし病院の弁護を担当していた辰巳などによって、死の真相は闇に葬られていた。


 菅田は祐太郎らしい朗らかさを封印し、祐太郎にはびこっていた心の傷への怒りや悔しさを表現した。妹の死によって家族が崩壊した祐太郎は、やり場のない怒りを露わにする。物に当たり、圭司を怒鳴りつける姿から、長年祐太郎が妹の死に苦しめられてきた過去が、回想シーンなどで語られなくとも伝わってくる。また劇中、冷静さを欠いた祐太郎の行動から溢れ出すのは深い悲しみだ。菅田の正直な演技からは、怒り、悔しさ、悲しみ、祐太郎が抱えてきた心の傷の重さが、これでもかというほど表現されていた。これまでクライアントやその周辺の人々に共鳴してきた祐太郎だが、今回は共鳴することを拒絶したようにも見える。


 そんな祐太郎の悲しみに共有したのが山田演じる圭司だ。第1話では、祐太郎をつっぱねるような態度をとり、人との関わりを極力持たないように生きてきた様子を見せた圭司。しかし「人をほんの少し優しくする」男・祐太郎との出会いが、彼の考え方を変えていった。深い悲しみに覆われた祐太郎に共鳴する圭司の目には、第1話では見せなかった優しさに満ちている。


 圭司は、真相を解き明かすのに役立つのではと、妹の死に関わる大物政治家・仲村毅(麿赤兒)と自分の父の黒い過去を祐太郎に手渡す。祐太郎のために、自分の父の犯した過ちを手渡したのだ。祐太郎は「自分のように過去に囚われ、自分の家族を憎むようになってほしくない」と泣きながら拒絶するが、そんな彼の顔を見つめる圭司の表情は優しかった。


 山田は感情を表に出さない圭司のキャラクター像を壊すことなく、最終話までの間に圭司に生じた変化を丁寧に演じている。今まで相手の顔を見ることなく言葉を発していたぶっきらぼうな圭司が、祐太郎の心の傷に共鳴し、彼を諭すように言葉を選びながら話す姿は印象的だ。


 人の死後、遺されたデータを削除する仕事を請け負う圭司と、もし同じような仕事をするのなら、死後遺したいデータを守り抜きたいと考える祐太郎。彼らの考え方や性格は正反対だが、大切な人の死後、抱え続けてきた心の傷には共通点がある。デジタル遺品を通して、亡くなった人や今を生きる人の人生に触れてきたからこそ、彼らは互いに共鳴することができた。ドラマ終盤、仲村の裏の顔を暴いた彼らに、背負い続けてきた傷の重さは感じられない。


 『dele』は「デジタル遺品」という題材で物語を描いてきた。しかし今作で強く表現されていたのは、“死”ではなくむしろ“生”のほうだったと気づかされる。1話完結のバディものとして視聴者に受け入れやすい演出でありながら、重厚な物語を丁寧に描いてきた今作。山田と菅田は、人の死後に残る“記録”と“記憶”に向き合う圭司と祐太郎を真摯に演じたことで、残された人々の生きる道を示した。濃密な物語が終わってしまうのは心惜しいが、削除しない限り残り続ける「デジタル遺品」のように、観た人の心に残り続けるドラマと言えよう。(片山香帆)