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The Wisely Brothers 真舘晴子が『万引き家族』を観る 「日本でのヒットは社会的にも意味がある」

2018年09月15日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 The Wisely BrothersでGt./Vo.を担当する真舘晴子が、最近観たお気に入りの映画を紹介する連載「映画のカーテン」。第3回は、第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、日本人監督として21年ぶりにパルムドールを受賞した『万引き家族』をピックアップ。是枝裕和監督の作品はこれまであまり観る機会がなかったいう彼女に、本作を観ての率直な感想を綴ってもらった。(編集部)


参考:『万引き家族』は、なぜカンヌ最高賞を受賞したのか? 誇り高い“内部告発”を見逃してはならない


 実は、是枝監督の作品は『誰も知らない』と『海街diary』を観たことあるくらいで、これまであまり観たことがありませんでした。なので、是枝監督の作品のイメージが自分の中であまり定まっていなかったのですが、カンヌ国際映画祭パルムドール受賞のインパクトもあって、上映が終わるまで、この作品が世界の人たちにどう観られたんだろうということをずっと考えていました。


 この作品で描かれている大きなテーマは“家族”。万引きをしながら生計を立てている、治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)夫婦とその息子の祥太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)、治の母・初枝(樹木希林)の家族が、小さな女の子(佐々木みゆ)を拾ってきたことによって、その関係性に変化が生じていきます。


 日本に限らずどの国でもそうですが、家族や人とのつながりは、映画でもたびたびテーマになるように、社会においてもとても大きな問題ですよね。今回のこの作品では、捨てられてはいないけど、虐待を受けている子供を見つけてしまったときに人はどんな行動をするのか、ということが大きなポイントになっているように思いました。家に連れて帰ったら誘拐で、犯罪になってしまう。でも、見過ごしてしまうわけにはいかない。外側から見ただけでは分からない、深い問題が描かれているなと感じました。


 こういうことって、日本だけでなく世界のいろんな国でも起こりえることだと思うんです。重要なのは、そういう状況の中で、何を一番に考えて生きていくか。この作品では、それが物語や役者の方々の演技でうまく表現されていて、とても印象に残りました。特に、祥太役の男の子(城桧吏)。彼が自身と家族の置かれた状況において、自分がどう行動してどんな決断を下すのか、どうやって生きていくべきかを考える様子がとてもハッキリと描かれていて、そこにグッときました。最初は祥太の行動が理解できなくて、「え?」と思ったのですが、演じている城桧吏くんの目の中に祥太の気持ちがそのまま乗り移っているように感じて、いつの間にか納得させられていました。すごい男の子が起用されたなと。


 最初はこの家族の関係性がよく分からなかったのですが、それが次第に明らかになっていく。樹木希林さん、リリー・フランキーさん、安藤サクラさん、松岡茉優さんをはじめとるするキャストの皆さんの演技によって、作品に引き込まれていく感じがしました。


 特に印象に残ったのは、リリーさん演じる治と祥太が駐車場みたいなところで走り回る序盤のシーン。そのときの彼らの状況は、お金もなくて、仕事もうまくいかない。家族にいろんなことが起きているけれど、2人のそのときだけの時間は本当に楽しそうで。たとえどんな問題を抱えていても、そういう時間は誰しもにあるんじゃないかなと。そういう時間があってもいいと思うんです。それが夕暮れ時の空気感とすごくマッチしていて、ノスタルジックな気持ちになりました。


 そして個人的に一番気になったのは、家族が暮らしている家。座布団や布団、こたつなど家の中に物がたくさんあって、色味的にもくすんだ色味の多いあの家の雰囲気は、すごく日本的ですよね。生活感が漂っていて、外国の人からしてみてもすごく新鮮なのではないかと思いました。


 この映画を観たあと、自分にとっての家族って一体なんだろうと思いながら帰ったんです。そういうことって毎日考えることではないし、考えても答えは出ない。でも、自分で考えるきっかけになりました。


 私自身、それに多くのひとがそうであるように、いわゆる“普通の家族”の中で育ったわけではないので、家族にはいろんな形があるということはすごくすんなりと受け入れることができました。その人たちを家族と呼ぶか呼ばないかは別として、育っていく上で近くにいてくれた人、信頼できた人、助けてもらった人たちは、人生においてすごく重要な存在になっていく。この作品の場合は、その人たちが“ある問題”を抱えているわけで、そこが議論を呼ぶポイントになっている。でも、祥太にとっては、彼が成長して大人になったとき、問題があった治たち家族の見え方も変わるんだろうなと思ったんです。そのときは全く気がつかなかったことが、大人になったときに逆に見えてくる。ラストの祥太のその後が、とても重要な意味を持つ作品になっているなと感じました。


 観た人が何か感じることがあるからヒットに繋がっているわけで、こういう作品が日本でヒットするのは、社会的にも意味があるのではないでしょうか。顛末にかけての流れはことばを必要としない美しい映像で、カンヌでパルムドールを受賞したのも納得の作品でした。(真舘晴子)