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『ULTRA JAPAN 2018』開催。日本におけるEDM人気の立役者が5周年

2018年09月14日 19:31  CINRA.NET

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『ULTRA JAPAN 2017』会場風景
■2014年に日本初開催。10万人規模のフェスに成長した『ULTRA JAPAN』

今や毎年9月のお台場の風物詩とも言える人気の都市型フェスとして成長した感がある『ULTRA JAPAN』が、今年の開催で5周年を迎える。世界的なEDMブーム全盛期の真っ只中だった2014年に同イベントは海外発の音楽フェスとして初開催。日本のEDMファンにとってはまさに待望の日本開催であり、アナウンス時から大きな話題になったことは記憶に新しい。

その衝撃のデビューとなった初年度ではいきなり4万2000人を動員。続く2015年は9万人、2016年は12万人、そして昨年も前年に引き続き12万人を動員するなど回を追う毎に動員数は順調に増加。同じく都市型フェスとして東西2会場で10数万人規模の集客力を誇る『SUMMER SONIC』に迫る勢いだ。

EDMは、エレクトロハウスの世界的な流行以降、2010年代における世界的な音楽の一大ムーブメントとして隆盛を極め今に至る。そして日本にもその流れは輸入されており、国内におけるブームを確立するのに大きな役割を果たしたのが『ULTRA JAPAN』だと言える。このブームは日本の若者文化にも大きな影響を与え、EDMのようなアップリフティングな音楽を好み、パーティーに興じる人物を指す「パリピ」のような新しい若者言葉を生み出した。

またファッション面でも海外フェスに姿を現すセレブの様子は、ネットを通じて拡散され、ここ日本にも伝播。フェイスペイントをした若者たちが纏うフェスファッションもその年毎にトレンドが進化し、『ULTRA JAPAN』の会場では流行の最先端をつぶさに確認することができるなど音楽に限らず若者文化の流行が凝縮された場にもなっている。

■日本のEDM受容に影響を与えた「ポップス」としてのEDMアンセム。三代目JSBも取り入れる

動員数の変遷を見れば『ULTRA JAPAN』が、日本におけるEDM受容拡大と密接に関係しているのがわかると思う。しかし、EDMが日本で知られるようになったきっかけとして大きな役割を果たした要因が他にもあるとすれば、それは海外で活躍するEDMスターによる所謂「アンセム」と呼ばれる、ポップミュージックの分野すら席巻した世界的な大ヒット曲だ。

例えば、『ULTRA JAPAN』が初開催された2014年には、現在『フォーブス』誌が選ぶ「世界で最も稼ぐDJランキング」で6連覇中のカルヴィン・ハリスがシングル“Summer”やアルバム『Motion』のようなヒットチャートを席巻する作品をリリースしているが、それ以前に彼はポップス界におけるアイコンの1人であるRihannaとの“We Found Love”で世界的なヒットを記録。以降、EDMのようなダンスミュージックの枠に止まらずポップスの分野でも名を上げ、EDMの知名度上昇に大いに貢献した。

また2014年には、今年、最新アルバム『Sweetener』をリリースした世界の歌姫アリアナ・グランデが、当時若手ながらもシーンで頭角を現していたZeddとEDMスタイルのコラボ曲“Break Free”をヒットさせている。他にも2015年には同年の『ULTRA JAPAN』でヘッドライナーの一角を務めたSkrillexが、DiploとのユニットJack Üとしてジャスティン・ビーバーを迎えた“Where Are Ü Now”を大ヒットさせるなど、この頃からEDMがポップスと結びつくことで、日本のラジオ、テレビ、果ては買い物に出かけた先の街中でも聴こえてくるようになり、これまでのクラブミュージックというアンダーグラウンドな音楽としてだけでなく流行のポップスとして捉えられるようになりだした。

その結果、幅広い層にまでEDMがリーチ。なんとなく他の洋楽ヒットのようにMajor Lazer“Lean on”、The Chainsmokers“Closer”のようなEDMアンセムを鼻歌的に口ずさんだ経験がある人もいることだろう。

このようにEDMのポップスヒット曲化は、海外だけでなく日本におけるEDM受容を促進させることにも繋がった。またそういった海外の流れを日本の三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBEが取り入れ、2015年にはEDMの有名DJであるAfrojackをプロデューサーに採用。EDMサウンド経由のJ-POPヒットが生まれたことも少なからずEDMの認知度上昇に影響与えていると言えるだろう。

■各国の『ULTRA』にも出演する日本人EDM DJたち

先述のようにEDM人気を世界規模で拡大させたのは、年間数十億円規模の収入を得るスターDJたちであることは間違いなく、日本で開催される『ULTRA JAPAN』でもヘッドライナーを務めるのはそういったシーンのトップたちだ。しかし、最近では本場海外の『ULTRA』ブランドフェスでも活躍するKSUKEやTJOのような日本人DJたちの出演も目立つ。彼らのように本場の空気を知り、海外のスターと肩を並べる日本人DJを輩出したことは、『ULTRA JAPAN』をきっかけに広がったEDMブームのポジティブな結果であり、日本人がEDMでアーティストとしての夢を見ることができるという1つのベンチマークにもなった。

■『ULTRA JAPAN』の非EDMステージ導入。去年は水カンやKOHHも出演

『ULTRA JAPAN』では2015年以降、メインとなるEDM以外にもアンダーグラウンドなクラブミュージックを堪能するための「RESISTANCE」というステージを設けている。RESISTANCEとは英語で抵抗の意味を持つ言葉であり、同ステージはメインとなるEDMとはまた違った音楽を会場に集ったファンが新たに発見するというコンセプトを持っている。

出演するのはテクノ、ハウスといった非EDMの有名DJたちで、これまでの開催ではクラブシーンのレジェンドであるジョン・ディグウィード、Sasha、Dubfireらが出演してきた。この導入により、先述のとおりEDMファンはテクノ、ハウスの魅力を、一方ではEDMに慣れ親しんでいない層もEDMの魅力を体感できるという相互作用が発生。結果的に日本におけるクラブミュージックの裾野が広がり、『ULTRA JAPAN』の動員数を伸ばす原動力の1つになっている。

また昨年はそれ以外にもLive Stageを導入。非EDM勢では、Underworldのような大物のほか、日本からも水曜日のカンパネラ、KOHH、SALU、ゆるふわギャングらが出演するなど日本のポップスやヒップホップ勢をラインナップする、単純なEDMフェスに止まらない多角的なアプローチが注目を集めた。

今、この流れは今年の『ULTRA MIAMI』での人気ラッパーG-Eazy、『ULTRA』と同じく有名EDMフェスとして認知されている『EDC Las Vegas』でのポスト・マローンの出演しかり、世界的に見てもスタンダード化しつつある。それだけに今年の『ULTRA JAPAN』では日本のヒップホップ勢の出演がアナウンスされなかったのは残念ではあるが、昨年のこのジャンルの垣根を越えたブッキングは、日本におけるポストEDM時代を到来させる出来事だった。

■『ULTRA JAPAN 2018』はAmazonとTwitchでライブ配信。進化する「体験型エンターテイメント」

今年の『ULTRA JAPAN』では、昨今フェスのトレンドとなっているライブ配信がAmazonとTwitchでも実施されるのは特筆すべき点だろう。EDMフェスでのライブ配信はこれまでに海外の『ULTRA』や『Tomorrowland』でも実施されており、また今年は国内でも『FUJI ROCK FESTIVAL』の配信が話題になったことも記憶に新しい。近年、音楽フェスでは「体験型エンターテイメント」がキーワードになっていたが、ライブ配信を行うことでその体験にも別の選択肢が生まれたように思える。しかし、今回、Amazonが配信を行う特設ページでは、ライブ配信のみに止まらず、自社サービスのAmazon Musicを使ったプレイリスト公開やレコメンドアーティストの音源、過去の『ULTRA』コンピレーションの販売と連動させる試みも行われる。

個人的には感動を享受するということにおいては、やはり会場で生で「ライブ体験」することに勝るものはないと思う。しかし、タイムレスに今、そこで起きていることを配信を通じて既存のファン層以外にもリーチさせることに加え、そこで体験し興味を持ったアーティストの音源購入やストリーミングまでをAmazonというプラットフォーム内で完結させることは非常に興味深く、もし自分がその状況にいるとするなら率直にいってすごく便利なサービスだと思える。

ポストEDM時代と言われて久しいが、ライブ配信によってEDMフェスという「体験型エンターテイメント」にも既存のものとはまた別の体験方法という選択肢が加わった。そして、今回のAmazonの配信とそれに付随するサービスは、その在り方をもう一歩推し進めた進化系と言えるのではないだろうか?

EDMファンが現場に足を運びライブ体験をするという従来型の体験方法もあれば、自宅で配信を楽しみながら気に入ったアーティストがいれば、Amazon内でアクションを起こすことによって、さらにその興味関心を深めていくこともできる。そのためこの配信に関する新たなコラボレーションは、来年以降の同フェスの今後の発展にも大きく関わってきそうだ。

このように2014年の初開催以来、進化を続け、日本のEDM受容を拡大に大きな影響を与えた『ULTRA JAPAN』だが、今年は、現在、本格的な再始動が噂されているEDMの伝説的なユニットSwedish House Mafiaのメンバー2人によるAxwell Λ Ingrossoのほか、『グラミー賞』受賞シンガーであるアレッシア・カーラとのコラボで大ヒットを記録したZeddが初出演、さらに非EDM系ではテクノの女王ニーナ・クラヴィッツが日本だけでなく世界の『ULTRA』でも初出演するなど見所は盛り沢山になっている。5年目を迎える節目の『ULTRA JAPAN』で何が起こるのか、是非当日は会場やライブ配信を通して目撃してほしい。

(文:Jun Fukunaga)