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『泣き虫しょったんの奇跡』で4度目のタッグ 松田龍平×豊田利晃監督が語り合う2人の関係性

2018年09月14日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 映画『泣き虫しょったんの奇跡』が9月7日に公開された。瀬川晶司五段による自伝的作品を映画化した本作は、プロ棋士へのタイムリミットである26歳で年齢制限の壁にぶつかり、プロ棋士になるという夢を断たれた、小学生の頃から将棋一筋で生きてきた“しょったん”こと瀬川晶司が、35歳で人生をかけた二度目の挑戦に挑む模様を描いた実話を基にした物語だ。


参考:全ての人が心震える怒涛のラスト 『泣き虫しょったんの奇跡』は“夢を見続けること”を肯定する


 今回リアルサウンド映画部では、“しょったん”こと瀬川晶司役で主演を務めた松田龍平と、メガホンを取った豊田利晃監督にインタビューを行い、今回一緒にやることになった経緯や、2人の信頼関係などについて語ってもらった。


ーー豊田監督と将棋という組み合わせは、奨励会に所属していたご自身の体験を基に脚本を書き上げた『王手』(1991年/阪本順治監督)以来となりますが、このタイミングでまた将棋の映画を作ろうと思った理由は?


豊田利晃(以下、豊田):僕の将棋映画を観たいという方がいたり、将棋映画をやらないかと声をかけていただいたりすることはこれまでにも結構あったんです。それで、7~8年前にこの作品の原作を読む機会があって、読んでみたらものすごく感動してしまって。「豊田の将棋映画が観たい」という声に対して、僕自身はあまり積極的に動きたくはなかったんですが、この素晴らしい原作と出会って、尻を叩かれた形ですね。


ーー主演の松田龍平さんとは『青い春』(2002年)、『ナイン・ソウルズ』(2003年)、『I’M FLASH!』(2012年)に続いて今回4度目のタッグとなりますね。


豊田:新作を考えるときは、常に「これ、龍平できるかな」「龍平に合うかな」と考えながら脚本を書いているんです。7~8年前に考えていたときはまだ龍平も20代だったので、ハマらないかなと思ったんですが、7~8年後になって龍平が35歳という原作の実年齢と近くなったので、これはもう松田龍平しかいないなと思って文句なしにオファーしました。


松田龍平(以下、松田):僕は豊田さんが将棋の映画をやるというので、胸が躍りながら、是非やりたいなと。僕も結構前に豊田さんに「将棋の映画は撮らないんですか?」と訊いたことがあったんですが、さっき豊田さんが言っていたように、当時は「撮らないよ」と。豊田さんの中で将棋というのは特別なものなんだろうなと、そのときはなんとなく感じていました。今回このタイミングでやれたことは素直に嬉しいですし、いろいろな繋がりがあったんだなという気がします。


ーー豊田監督の作品としては新境地のような印象を受けました。


豊田:そうですね。ただ、作品のことしか知らない人はそう思うかもしれませんが、僕自身のことを知っている人は、そうは感じないんですよね。


松田:僕は台本をもらったときに、この題材を豊田さんがやるとどうなるのかなと思ったり、将棋の部分は豊田さんなりの勝負の仕方を現場に持ってくるんだろうなとなんとなく思っていました。すごく安心しながらも、そういう楽しみな感じはありましたね。


豊田:原作も良くできているし、結構よくできた脚本も作れたと思っていましたから。将棋のことは僕自身知り尽くしていて、そこにキャスティングがうまくハマったので、「お祭りだ」と。どう楽しもうかと思える現場で、そんなに困ることはありませんでした。いつもの作品のような人殺しは経験がありませんが(笑)、将棋は経験しているのでいろいろ分かるんです。


ーー将棋をテーマにした映画はこれまでも制作されてきましたが、本作では対局よりも人間ドラマ的な部分が掘り下げられていたのがとても印象的でした。


豊田:僕はこの作品を“将棋を題材にした人間ドラマ”だと思っています。そもそも将棋ばかりやっている人はあまりいませんし、わざわざ映画館に行って将棋の映画を観ようというお客さんはそんなにいないんですよね。映画はやはり人間ドラマが基本になってくるので、そこは力を入れてやろうと思いました。


ーー広く観られることを意識した部分もあると。


豊田:映画が始まる前は敷居が低くて、観終わるとちょっと階段を上ったような。それはチャップリンの言葉ですが、そういう映画をいつも作りたいと思っていたんです。でも、なかなかそういう機会に恵まれなくて。でも、この映画はそれをやれるチャンスだったんですよね。


ーー松田さんは瀬川晶司さんという実在の人物を演じるにあたって、どのようなことを意識したのでしょう?


松田:もちろん瀬川さんご自身とお話もしましたが、質問してどうこうというよりも、瀬川さんがずっと現場にいてくれたので、どちらかというと佇まいや雰囲気を感じながらやっていました。瀬川さんはすごく優しくて可愛らしくてとても正直な方で、気持ちが全部行動や顔に出てしまうような方なんです。そういう方が将棋盤の前に座ると、ムードが変わる。そういったことを役に反映したいなと思いながら演じていました。


ーー19歳から35歳までを演じられていたのも強く印象に残りました。


松田:無茶だなぁと思いましたよ(笑)。


豊田:19歳の頃は10代っぽく一応なんかしおらしくしてて(笑)。でも仕方ないよね。髪型と服で、なんとか年齢を作って。


松田:若い頃を思い出して、豊田さんに背中を押されながらでした。


豊田:でもあれ、なんか19歳に見えるんだよね。


松田:そうですね。キラキラしてる感じが。


ーー長年の付き合いがある豊田さんと松田さんですが、お互い変わったと感じることはありましたか?


豊田:僕はそんなに違いを感じることはなかったですね。それは合間合間でもときどき会ったりしてるからかもしれないです。映画が終わって、バシッと会わないという感じではないですし、龍平が出てる他の映画も観ているんで。でも、龍平は20代~30代はいろいろあったでしょ?


松田:…自分のことはあまり分からないですけど、豊田さんは相変わらずで。ふざけてるなと(笑)。でも、豊田さんはやっぱり役者を面白がってくれます。台本にないセリフを誰か1人だけに教えて、アドリブ合戦になるんです。台本通りではなく、「1回かき乱してみろ」みたいな。そういう“豊田節”が、単純に自分も楽しいんだろうなと思いますし、豊田さんの作品に出演している役者さんは、それを楽しみにしてる部分があるんじゃないですかね。でも、楽しみながらもすごい冷静な目で見てるなと、ある種その冷静さが怖かったりもするんです。


豊田:ふざけているだけじゃないんですよ。真面目にやっているんです(笑)。


ーーキャストには豊田組常連の方々が集まっていますが、イッセー尾形さんや小林薫さんら豊田組初参加の方々も集っています。中でも印象的だったのは、松田さん演じるしょったんの友人・鈴木悠野を演じた野田洋次郎さんでした。


豊田:野田くんの出演は飲み屋で決まったんです。龍平と飲んでいたときに、龍平が翌日誕生日だと言うんで、誰か呼ぶかとなって、じゃあ野田くんを呼ぼうと。で、野田くんが来て飲んでいたんですが、「豊田さん次何やるんですか?」と聞かれて、「うーん、将棋するかも」と言ったんです。それで野田くんが「龍平ピッタシっすねえ」と。「……って言うお前が親友役にピッタシじゃん!」みたいな流れで出演が決まりました(笑)。


ーー(笑)。松田さんも野田さんとは以前から親交があったんですよね?


松田:そうですね。3年前くらいに知り合って、一時期は1年間、週3くらいで密な時間を過ごしていた時期もあったぐらいで(笑)。ここまで人と急激に濃い時間を過ごしたのは初めてでした。


ーーそんな野田さんと実際に共演してみてどうでしたか?


松田:映画やドラマなどでお芝居は観ていて、すごくセンスがいいなとは思っていたんですけど、無理しない感じがいいなと。もともと、役者の仕事をやるんだったらいつか一緒にやりたいなとはなんとなく話していたので、今回一緒にやれてよかったですね。


豊田:次はボーカリストとしてRADWIMPSに参加する?(笑)


松田:確かに(笑)。


ーー松田さんと豊田監督はプライベートでも仲が良いようですが、何も言わずに通じ合うみたいな雰囲気はあるんですか?


豊田:作品毎だと思うし、プライベートはよくわからないけど、カメラが回ってる間は繋がっている感がありますね。そのときだけが真実、みたいな。こういうインタビューの場でそう言われると照れくさいし、いろいろ考えるとそうでもないぞとかあるけど、実際カメラ回っちゃうと「OK、大丈夫」みたいなところはありますね。


松田:嬉しいですね。


ーー今後も2人のタッグを楽しみにしています。


豊田:お金を出してくれる人がいればね(笑)。


ーーでも、今回の作品で豊田監督の新しいファンが増えるのではないかという気がします。


豊田:そしたらそいつらを裏切るような『マッドマックス』みたいなやつを撮って、「やっぱりあいつ頭おかしかった」みたいになるんだろうね(笑)。


松田:それ交互にやったらどうですか?(笑)。


豊田:それはそれで精神的におかしくなりそうだな(笑)。


(取材・文・写真=宮川翔)