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宍戸教授「ブロッキングの議論が不十分だと明記すべき」 中間まとめ案に反発続出、平行線のまま最終局面に

2018年09月13日 20:32  弁護士ドットコム

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知的財産戦略本部の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」(タスクフォース)の第7回会合が9月13日、東京都内で開かれた。「中間まとめ」の策定が大詰めをむかえる中、ブロッキング賛成派と反対派の議論は、平行線のまま終わった。この日、川上量生委員(カドカワ社長)が「インターネットは著作物を犠牲にして大きくなった。そのことに自覚的であるべきでないか」と言い放つ一幕もあった。


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●宍戸委員「政府の報告書として不適切だ」

この日の検討会は、ブロッキング反対派の委員が、事務局の「中間まとめ案」に疑問を呈したことなどがきっかけで、議論がヒートアップした。


これまでブロッキングに懸念を示してきた前村昌紀委員(JPNIC・インターネット推進部長)は、事務局の中間まとめ案に「いびつだ」という感想を抱いたという。その理由は、ブロッキングに関する法制度整備について、「紙幅が大きく割かれている」からだ。前村委員は「ブロッキングに懸念している人の意見が勘案されているように思えない」と指摘した。


宍戸常寿委員(東京大学教授)は、「通信の秘密」について、これまで確立された解釈があるのに、中間まとめ案の「通信の秘密」に関する記載が、ブロッキングという限定された問題のために、丁寧な検討もなく後退していると指摘。「不用意な記載であり、政府の報告書として不適切だ。削除をもとめる」と主張した。


さらに、宍戸委員は「通信事業者にブロッキングをおこなわせる論理・根拠について十分な議論がされていないことを明記していただきたい」「整理がされていない現状では、ほかのサイトにも広がりうる。だからこそ丁寧な議論が必要と明記していただきたい」「ブロッキング法制化は一般的に、憲法上問題ないかのような印象を与えない記載をお願いしたい」と重ねて要請した。


●福井委員「ここでの議論は社会の共有財産だ」

福井健策委員(弁護士)は「著作権の保護が過剰であると、社会が非常に窮屈なものにしてしまう」としながら、「(著作権を)生活の糧にしている人たちがいて、その生活はかならずしもラクではない。今年、その糧は、海賊版サイトに大きくおびやかされた」とうったえた。


そのうえで、ブロッキングの章全体を削除すべきとの別な発言に対して、福井委員は「ある人々の自由や権利が、別の人々の深刻な脅威になりうる。人々の幸福のためには、さまざまな自由や利益の最適なバランスを考えないといけない。ブロッキングという課題において残念ながら一致できないが、ここでの議論は社会の共有資産だ。あるがままに報告書に残すべきだ」と述べた。


●川上委員「みなさん、カッコいいいことを言ってるが・・・」

ブロッキング導入論を展開する川上委員は「(反対派の)みなさん、カッコいいことを言う。すごく高尚なものを守ると主張されている。だけど、実際に守ろうとしているのは、『海賊版サイトをブロッキングされない自由』だ。本当に守る価値があるのか、ちゃんと考えてほしい」と持論を展開した。


この発言を受けて、宍戸委員は「海賊版サイト運営者の利益を守っているのではなく、一般ユーザーが、安心・安全に利用するときに、通信を利用するための必要な限度を超えて、『通信の秘密』を知得・窃用されないことと、『著作権者の正当な権利』との適切なバランスをとっているか、ということに苦心している」と反論。


宍戸委員は「一般国民の通信が守られる結果、海賊版サイト運営者の利益が守られる結果となることは事実だ。だからといって、本来、法的に保護されるべき一般国民の『通信の秘密』を制限することには慎重でなければいけない」「ブロッキング法は生まれた、でも海賊版サイトは生き残った、ネットの文化活動は死んだ、ということにならないように慎重な検討をお願いする」とつづけた。


●川上委員「著作物の違法配信でユーザーを獲得してきたのは事実だ」

ブロッキングに反対する立石聡明委員(日本インターネットプロバイダー協会副会長)は「一番の問題は、(検討会に)漫画家が(委員として)参加していなことだ」と指摘。そのうえで、「(出版社からは)漫画文化を守るんだという口実で、出版業界の利益を守るんだということしか見えてこない。自分たちのことだけ主張しているようにしか見えない」と述べた。


立石委員の発言に対して、川上委員は「強く抗議する。出版業界に対する侮辱だ」と反発。自分も「元々はネットサイト(ニコニコ動画)の人間」と断りながらも、「インターネットは歴史において、著作物の違法配信でユーザーを獲得してきたのは事実だ。私のサイトも関与している。インターネットは、著作物を犠牲にして大きくなってきた。そのことに関して自覚的であるべきでないか」と語気を強めた。


(弁護士ドットコムニュース)