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初登場1位『MEG ザ・モンスター』 中国マーケット向けハリウッド大作の倒錯した楽しみ方

2018年09月13日 14:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは、『MEG ザ・モンスター』が、土日2日間で動員18万3000人、興収2億8900万円をあげて初登場1位に。初日から3日間の累計では動員23万8000人、興収3億7000万円。今年公開された作品で『MEG』と比較すべき作品を一つ挙げるなら、1月に公開された『ジオストーム』だ。『ジオストーム』の記録は初週の土日2日間で動員17万1000人、興収2億4200万円、公開から3日間では動員21万7000人、興収3億円。『MEG ザ・モンスター』は累計興収約12億円の『ジオストーム』比で123%の初動成績をあげていることから、15億円を超える興行が期待できるだろう。


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 『MEG ザ・モンスター』と『ジオストーム』の共通点は、同じ配給(ワーナー)、公開時期(片や正月シーズンの直後、片やサマーシーズンの直後)、公開規模などなどいくつも挙げられるが、最も重要なポイントは両作品とも中国の観客から熱狂的に支持された作品であることだ。『ミッション:インポッシブル』シリーズ、『ジャック・リーチャー』シリーズ、そして2020年公開予定の『トップガン:マーヴェリック』とトム・クルーズとの関係が深いことでも知られるアメリカのスカイダンス・プロダクションが製作した『ジオストーム』。20年以上前から映画化の企画が進行していて、ディズニーやニュー・ライン・シネマを経てワーナーが中国のグラヴィティ・ピクチャーズからの資金を得て製作された『MEG ザ・モンスター』。製作国としては、『ジオストーム』はアメリカ映画、『MEG ザ・モンスター』はアメリカと中国の合作映画と異なるものの、スカイダンス・プロダクションは中国のアリババ・ピクチャーズの投資先。つまり、『ジオストーム』も中国マーケットを多分に意識した作品だった。


 中国企業のハリウッド映画への投資は、その動きの急先鋒であったアリババ・ピクチャーズのテック企業への経営転遷などによって生じた巨大損失や、自国向け大作映画の相次ぐ興行的失敗など、不安定な側面はあるものの、大筋においていまなお進行中だ。そしてそれは、中国系俳優の優先的なキャスティングだけでなく、物語の設定や構造にも現実的な影響を及ぼしている。例えば『MEG ザ・モンスター』では、ジェシカ・マクナミー演じる主人公の元妻は序盤が過ぎると不自然なほど物語上の存在感を失い、その代わりにヒロインの立場に収まるリー・ビンビン演じるキャラクターが何度も無謀としか思えない行動に出て、その度にジェイソン・ステイサム演じる主人公が活躍するという展開が繰り返される。


 エンターテインメント作品としては文句なしに楽しい『MEG ザ・モンスター』だが、そのようにストーリーの精度という意味では、ハリウッド製作の大作映画の平均的基準からしても、かなり大味であることは否めない。そもそもの設定からして、まず冒頭で原子力潜水艦を襲ったのがメガロドンだとしたら、その数年後にメガロドンが出現する以前から深海層より上部に存在していたということになるが、劇中でその説明は一切ないのだ。


 ただしーーこれは『ジオストーム』にも言えることだがーーそうしたストーリーの大味さには、二通りの倒錯した観客の楽しみ方があるとも言える。一つは、現在ほどハリウッド大作の脚本が練り上げられてなくて、エンターテインメント作品のメインストリームが能天気さに支配されていた時代、いわば『ダークナイト』以前、あるいは(脚本のクオリティでは映画界よりもレベルが高くなっている)テレビシリーズ黄金期以前の、90年代頃までのハリウッド大作映画的な楽しさがそこにあること。もう一つは、先述したリー・ビンビンのキャラクターに象徴されるように、我々がハリウッド映画で長らく親しんできた一般的なセオリーから逸脱した行動を登場人物がすることで、単純にストーリーが予測不可能であるということだ。


 もちろん、ハリウッドが中国マーケットを現在ほど意識していなかった時代から、『トランスフォーマー』シリーズや『ワイルド・スピード』シリーズなどを筆頭に大味なアクション大作は作られていた。しかし、まさに『トランスフォーマー』シリーズや『ワイルド・スピード』シリーズの近作の中国における記録的な大ヒットが、中国の映画市場が爆発的成長をするきっかけとなってきたという事実も無視はできないだろう。近年の『ワイルド・スピード』シリーズで活躍しているジェイソン・ステイサムが『MEG ザ・モンスター』で主役を張り、中国の大連万達グループ傘下となったレジェンダリー・ピクチャーズ製作の『スカイスクレイパー』(日本公開9月21日)でも『ワイルド・スピード』でお馴染みのドウェイン・ジョンソンが主役を張っているのには、そのような背景もあるのだ。(宇野維正)