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北川悦吏子と野島伸司の狙いが一致  修羅場と急展開で魅せる『半分、青い。』『高嶺の花』

2018年09月12日 10:12  リアルサウンド

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 ネット上で辛らつな言葉を浴びせられながらも、注目を集め続けている2つのドラマがある。『半分、青い。』(NHK総合)と『高嶺の花』(日本テレビ系)。


参考:佐藤健は今なぜ“ドラマ”で輝くのか? 『半分、青い。』『義母と娘のブルース』真逆の役を好演


 ともに、「ヒロインに急展開と修羅場が訪れる」というシーン繰り返され、そのたびに「なぜそうなるのか理解できない」「感情がついていかない」などのコメントがあふれる現象が起きている。しかし、驚くことに視聴率はほとんど落ちず、むしろジリジリと上がっている。つまり、視聴者を「批判しながらも、ついつい見てしまう」という状態にさせているのだ。


 ヒロインを演じる永野芽郁と石原さとみの熱演とともに、視聴者の心を揺り動かしているのは、両作を手掛ける北川悦吏子と野島伸司。ともに1990年代を代表する脚本家であり、「修羅場や急展開で、辛らつな言葉を浴びせられながらも、注目を集め続ける」というスタイルは、当時から変わっていない。


 『半分、青い。』と『高嶺の花』は、北川と野島が自らのスタイルを押し出しつつ、2018年という時代にアジャストすべく手がけた意欲作であり、3つの共通点が見られる。


●「性格が悪い」「共感できない」ヒロインの理由


 最大の共通点は、前述した通り、ヒロインに急展開と修羅場が訪れること。


 『半分、青い。』の楡野鈴愛(永野芽郁)は、左耳の聴力を失い、朝井正人(中村倫也)にフラれ、萩尾律(佐藤健)の恋人・伊藤清(古畑星夏)とつかみ合いのケンカになり、漫画家になったが連載を打ち切られ廃業。心の支えであり一度はプロポーズもされた律の結婚を知り、出会ったばかりの森山涼次(間宮祥太朗)と結婚し、出産するが夫に捨てられてしまう。祖父・楡野仙吉(中村雅俊)直伝の五平餅が売りの「センキチカフェ」をはじめるがすぐに居場所がなくなり、東京で働きはじめるが、社長の津曲雅彦(有田哲平)に裏切られる。


 一方、『高嶺の花』の月島もも(石原さとみ)は、婚約者の吉池拓真(三浦貴大)が浮気相手を妊娠させたことで破談となり、ストーカー化したほか、自律神経が乱れて味覚と聴覚が損なわれてしまった。風間直人(峯田和伸)と偶然出会い、キャバ嬢になりすましながら、恋に落ちるが、破談が父・月島市松(小日向文世)の仕業と知り、さらに母が次期家元にさせるべく命と引き換えにももを産んだことを聞いて、別れを決意。しかし、次期家元を決める「俎上」で妹・月島なな(芳根京子)に負け、市松の実子でないことも発覚し、すべてを失ってしまう。


 北川と野島はヒロインに急展開と修羅場を浴びせ続けることで、それらに直面した瞬間のストレートな感情や、乗り越えたときの成長を描こうとしている。実際これまでの放送では、鈴愛とももが、時に暴走し、汚い言葉を吐きながらも、再び立ち上がり、ファイティングポーズを取る姿が描かれてきた。ネットには、鈴愛とももの言動を見て「性格が悪い」「共感できない」という声も少なくないが、最終回の放送後にはそれを撤回したくなるのではないか。


 急展開と修羅場は、ヒロインの感情と成長を際立たせるためのものだが、二次的な効果としてネット上の反応につながり、一定の視聴率を得ている。『義母と娘のブルース』(TBS系)や『グッド・ドクター』(フジテレビ系)のような感動で勝負するのもいいが、北川と野島のような激しい戦い方も、連ドラとしては「あり」なのだ。


●「接点がなさすぎて理解できない」を極める


 さらに、2つ目の共通点として挙げられるのは、「男性優位の世界観をベースにしつつ、それを打ち破ろうとするパワフルな女性を描いている」こと。


 『半分、青い。』は「女なのに」「まだ結婚できない」などの女性軽視のセリフが多く、『高嶺の花』は裏切られてストーカーやキャバ嬢になる、不倫を強要されたあげく脅される、師匠の命令で男を寝取るなど、こちらも女性を軽視するようなシーンを多用している。


 北川と野島にしてみれば、そんな苦境を打ち破るヒロインを描こうとしているのだが、現在の視聴者にしてみれば「男尊女卑」という印象が拭い去れない人もいるだろう。「いつの時代だよ」「90年代じゃあるまいし」などの批判があがるのは、2人のベースが90年代にあるからなのかもしれない。


 事実、90年代の北川は、『君といた夏』(フジテレビ系)、『ロングバケーション』(フジテレビ系)、『最後の恋』(TBS系)などで、厳しい状況下に置かれた女性を描いていた。自身は女性であるにも関わらず、立場が低く、苦しめられるヒロインを描き続けていた感がある。


 一方、野島が90年代に手がけた『高校教師』(TBS系)、『ひとつ屋根の下』(フジテレビ系)、『この世の果て』(フジテレビ系)なども同様で、ヒロインが苦しみから抜け出そうともがく様子を描いていた。2人の主戦場がフジテレビとTBSだったことも含め、作風が似ていたのだ。


 もちろん北川も野島も、同じようなことを2018年で行えば「男尊女卑」と言われかねないことはわかっているだろう。だからこそヒロインたちが、「女性はこうあるべき」という縛りから抜け出そうともがく姿が描かれている。


 「自分に置き換えて共感できる」も、「自分と接点がなさすぎて理解できない」も、視聴者を連ドラに引きつける方法だが、北川と野島は後者を極めようとしている。「理解できなくても感動させる」ことはできるからだ。


●「一筋縄ではいかない」最終回への期待感


 そして3つ目の共通点は、先の読めないクライマックスへ向けて一気に畳みかける態勢に入ったこと。


 『半分、青い。』は、すでに鈴愛と律が再会し、力を合わせて発明に挑むことが明かされている。微妙な距離感の関係だった2人が、「最後に最も近い距離感になることで、恋愛関係に発展するのか」という視聴者の興味を誘いはじめているのだ。


 『高嶺の花』は、ももと直人の再接近に加えて、正体が明かされた新庄千秋(香里奈)の存在、家元の後継問題など、まだまだ波乱含み。視聴者に「『ももと直人が結婚式をやり直す』という杓子定規的なハッピーエンドにはならないのでは?」と感じさせる不穏なムードは、「さすが野島伸司」と思わされる。


 鈴愛と律、ももと直人。ともに、いびつなカップルの形を描いてきただけに、最後まで一筋縄ではいかない展開が続くのではないか。たとえば、北川なら『愛していると言ってくれ』(TBS系)の榊晃次(豊川悦司)が初めて「紘子!」と声を発したシーン、野島なら『この世の果て』でヒロインがヘリコプターから飛び降りたシーン……。これまで2人はアッと驚く最終回を手掛けてきただけに、今回はどんな最終回やラストシーンを用意しているのか、楽しみでならない。(木村隆志)