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w-inds.は最も大きな変化の季節を迎えているーー生演奏にこだわり抜いた音楽届けるステージング

2018年09月12日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 9月7日に東京国際フォーラム・ホールAで開催された『w-inds. LIVE TOUR 2018 “100”』は、端的に言えば「変化」を感じさせるものだった。3人組のダンスボーカルグループw-inds.は今、グループ史上最も大きな「変化」の季節を迎えている――。


(関連:w-inds.が『100』で追求した“ジャンルレスなポップス”「僕らが歩んできた道を表現できると思った」


 落ち着いた雰囲気の漂う東京・有楽町の大きなコンサートホール会場にはこの日、約5,000人のファンが詰めかけ彼らの登場を心待ちにしていた。1曲目「Bring back the summer」が始まると歓声が上がる。しっとりとしたムードで3人が歌い上げ、そこから少しテンポアップする「Show You Tonight」へ。照明はブルーからイエローへと変化し、ステージが明るくなる。続いて「In Love With The Music」「All my love is here for you」「I missed you」「try your emotion」と間髪入れずに披露。


 ゆったりとした動きで、時にキレよくダンスする3人の姿は優雅で美しい。激しいダンスはせず、どちらかと言えば抑えめな分、歌声が客席までよく届く。細かなビブラートまですべてクリアに聞こえるのだ。絶妙なタイミングで声が揺れるその心地良さに会場全体が聴き入る。そこにコンサートホール会場でライブをする意義があった。今回、生バンドを従えてのパフォーマンスであったが、重厚でパワフルな生演奏の中でも彼らの歌声が掻き消されることはない。天井まで抜けるような橘慶太のハイトーンボイスと、その少し低域あたりで橘を支える安定感のある2人のボーカル/ラップのバランスに舌を巻く。


 ここ最近、音楽メディアで橘慶太の名前を見かけることが多くなった。そして、その多くの記事で彼のトラックメイクに対する熱心な姿勢が描かれている。かなりマニアックな専門知識を持っていたり、何より彼自身が音楽に対して真面目な研究家であることが言葉の端々から伝わるのだ。


 そうした姿を見ていて、もしかしたら彼は近い将来、演者から裏方に回るのではないかという一抹の不安がよぎった。演者がある時期から制作に興味を持つことは珍しい話ではない。長い活動期間、アーティストはそういうことをしながらマンネリ化を防ぐものだ。しかし、彼の場合は少し事情が異なるように思う。彼のそうした姿勢の根本にあるのは、J-POPに対する強い「危機感」なのだ。


 2000年代後半頃から彼はJ-POPのいわゆる「ガラパゴス化」現象に問題意識を抱き、パフォーマーとしてだけでなく同時に自ら制作に関わることでその問題を解決していくスタイルを選んだ。それが今年リリースした初の完全セルフプロデュースのフルアルバム『100』に繋がっているというわけだ。今回のツアーはその集大成とも言うべきライブなのである。


 危機感や問題意識は「変革」を生み出す。『100』には現行の海外ポップス~ダンスミュージックシーンと比べてもなんら遜色のないサウンドが収められていて、「これがあのw-inds.なのか」とただただ驚くばかりだ。Spotifyでの現在の彼らのリスナー構成は日本よりも海外の方が多いと聞く。デビューから18年目の彼らが今そうした道を選んでいることも頼もしいが、しかし何よりも彼ら自身がステージに立つことを1ミリもやめようとしていないことが嬉しいのだ。彼らはここ数年で世界でも戦えるクリエイト集団へと変化していたのと同時に、一流のボーカルグループとしても圧倒的な進化を遂げていた。


 MCを経て、7曲目「四季」から中盤へ突入。無駄な演出はなく、純粋に歌と演奏を届ける音楽的なステージングだ。驚いたのは、千葉涼平と緒方龍一の2人によるラップ曲「A Trip In My Hard Days」も生演奏でプレイしたことである。同じフレーズを繰り返すループトラックをそのままサックスで再現することで、より一層グルーヴィーな一曲になっていた。この生演奏への徹底したこだわりが、作品に力を注いでいる今のw-inds.を表現するための肝のようにも思う。9曲目「Do Your Actions」ではミラーボールが回り出し、会場は煌びやかな空間に一変。2度目のMCコーナーでは笑いの絶えない3人の掛け合いが繰り広げられた。「w-inds.の売りは?」という話題で「ルックス」を自ら挙げて客席から爆笑が起きるのも、現在の彼らがファンとの良好な関係を築けている証拠だろう。


 ライブが終盤へ向かうと、選曲から彼らがこのライブに込めた意図をビシバシと感じ取れた。「十六夜の月」から「Long Road」「SUPER LOVER~I need you tonight」へとファンにとっても懐かしい初期のナンバーを披露。どこか懐かしいJ-POPの響きを持ったこの3曲で会場は大盛り上がり。しかし、ここから明らかに楽曲構造が現代仕様になる18曲目「We Don’t Need To Talk Anymore」以降、我々はそれまでのノリをアップデートしなければいけなくなる。


 メロディを聴かせるビルドアップから歌詞のないドロップで盛り上がるEDM仕様のトラックを、ほぼ生演奏で再現。一曲の間で最も重要な箇所が歌詞のない部分であることで会場は一気に“ダンスホール”へと変貌した。それは、2000年代から活動しているw-inds.の今までのスタイルとはまるで異なるものだ。「Temporary」「Time Has Gone」「Come Back to Bed」、終盤で披露されたこれらの楽曲はいずれもそうした楽曲構造を持った先進的なポップスである。少し懐かしいテイストの楽曲からこうした最新のトレンドを汲んだサウンドに移り変わることで、これまでのw-inds.の変遷を感じ取れた。その「変化」こそ、彼らが今のスタイルに切り替えたことで獲得したものだろう。


 変わろうとしているw-inds.を見ていると、変わろうとしているJ-POPを見ているかのような気分になる。もっと言えば、w-inds.がJ-POPの未来を差し示しているような気さえする。アンコールでは12月の香港公演も発表され、最後に「Sugar」を披露し終演へ。彼らが今選んでいる道に強い信念を感じ取れる一夜であった。


 18年目にして変化を遂げたw-inds.。今後の彼らが向かう先が、今は楽しみで仕方ない。(荻原 梓)