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【トロロッソ・ホンダF1コラム】ライバルとのパワー差があっても戦えることを証明した高速2連戦

2018年09月11日 12:21  AUTOSPORT web

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F1第14戦イタリアGP ピエール・ガスリーとフェルナンド・アロンソのバトル
夏休み明けの高速連戦、F1第13戦ベルギーGPスパ・フランコルシャンと第14戦イタリアGPモンツァでトロロッソ・ホンダは快走を見せた。スパでは9位入賞を果たし、予選Q1突破すら難しいと思われていたモンツァではQ3進出を果たした。


 この2戦で改めて浮き彫りになったのは、最速コーナリングマシンである現行F1マシンの速さを決する最大の要素は空力性能であり、高速サーキットといえどもパワーユニット(PU/エンジン)の非力さは致命的な要素とはならないということだ。

 他チームがスパでモンツァと共用のリヤウイングを使用する中、トロロッソ・ホンダはモンツァ用のウイングを持ち込んでおらず、それよりもダウンフォース量とドラッグが大きなレッドブルリンクやカナダで使った空力パッケージで走行していた。そのため最高速は伸びず、チームは苦戦を覚悟していた。

 しかし各チームが実際に走ってみると、全開区間が主たるセクター1と3を優先するよりも、ダウンフォースを付けて中高速コーナーが連続するセクター2でタイムを稼いだ方がラップタイムが速くなるということが明らかになり、多くのチームがその方向へとシフトしていった。結果的に、これがトロロッソ・ホンダに味方することになった。

「レース週末の中で予選あたりから周りのチームがダウンフォースをつけ始めてきて、我々のセクター1と3の不利が小さくなったことがレースに向けて良いポジションにつけることに繋がったのではないかと思います。全体的にダウンフォースを付ける方向に行って、我々としてはセクター2できちんと走れるセットアップを施した状態でもストレートで簡単に抜かれてしまうということにならなかったのは幸運でした」(田辺豊治ホンダF1テクニカルディレクター)

 モンツァでは専用の薄いリヤウイングを投入したが、ダウンフォースの少ない状態で初日金曜のフィーリングはふたりとも良くなかった。そのためコーナーが多いセクター2のタイムが遅く、下位に低迷した。

「気持ち良く走れる状態ではなかった。問題はリヤのスタビリティだね。マシンが予測不可能な挙動を示すんだ。マシンバランスに一貫性がなくてコーナーごとにマシン挙動が違って、マシンがどんな反応を示すか予測ができない。同じコーナーでも毎周リヤのステップアウトの仕方(グリップの抜け方)が違ったりね。限界ギリギリまでプッシュするのには理想的な状態ではなかったよ」(ピエール・ガスリー)

「モンツァ専用のリヤウイングもすごく良くてドラッグはかなり削減されている。セクター2で大きくタイムロスをしているから、あまり最高速を犠牲にしない範囲でいくらかダウンフォースを付けてどれだけ稼げるかを考えなければならない。ストレートが長いとはいえ、中高速コーナーもあるのがモンツァだからね。その最適な妥協点を見出すのが重要になるんだ」(ブレンドン・ハートレー)

「セクター2でどう稼ぐかが課題なんですが、セクター2で稼ごうとするとダウンフォースを付ける方向になってセクター1と3が落ちてきてしまうと思われるので、そこのバランスを上手く取れるかどうかですね。あとは立ち上がりのトラクションも必要ですから、脚回りをいかにセッティングできるかというところに掛かってくると思います」(田辺テクニカルディレクター)

■モンツァで手ごたえをつかんだマシンのセットアップ



 モンツァでもまさしくスパと同じような問題に直面したが、スパとは正反対にダウンフォースを削る方向からスタートした週末は厳しい走り出しとなった。しかし金曜の夜にデータを精査し弾き出したセットアップ修正が上手くいった。

「金曜日はリヤがすごく不安定でマシン挙動に一貫性がなくてマシンを信頼してドライブすることができなかった。特にこういう超高速サーキットではマシンの限界を引き出すのが難しいんだ。でも今日はフリー走行3回目からフィーリングが格段に良くなって、予選でもマシンバランスはとても良かった。金曜から土曜に思い通りのセットアップ変更の効果が得られないことも2018年シーズンここまでに何度かあったけど、今回はそれが完璧に上手くいったよ」(ガスリー)

 やはりダウンフォースを付けてコーナーで稼ぐ方向に持っていくことでトロロッソ・ホンダSTR13はそのポテンシャルを発揮した。いや、STR13に限らず、多くのマシンがそうだった。

 それが2000mm幅&ワイドタイヤで高いコーナリング性能を持つ現行レギュレーションのF1マシンであり、それはスパやモンツァのような高速サーキットでも言えることだ。

 むしろ、ドラッグが大きくなっている現行マシンだからこそ、ストレートではなくコーナーで稼ぎ勝負すべきなのだ。全開率が格段に上がったシルバーストンでも、ダウンフォースの少ないマシンでいかにコーナーで我慢するかではなく、コーナーで稼げるマシンに仕上げた上でいかにダウンフォースとドラッグを削るかの勝負だった。

「ラップタイム寄与度からいえば、同じパッケージの中ではストレートを伸ばすのとコーナリングスピードを上げることのどっちの方がラップタイム的に特なのかと言えば、当然コーナーの方なんです。コーナーが速ければストレート立ち上がりのスピードも速くなりますから」(田辺テクニカルディレクター)

 パワーユニットの差はもちろんある。フェラーリはスペック3でさらに進化し、メルセデスAMGもスペック3はそれに近いピーク性能を有している。中団グループでハースとフォース・インディアがトップを争う好走を見せたことからも、それは明らかだ。

 しかし彼らと同じパワーユニットを積むザウバーとウイリアムズはそれぞれ苦戦を強いられた。つまり、パワーユニットの性能よりもむしろ車体性能とその仕上がりがものを言うというわけだ。

■ロシア、日本GPの2連戦ではトロロッソ・ホンダの空力アップデートが導入予定



 ホンダPUのアップデートは日本GP以降になる可能性が高く、しばらくは現状のままで戦わなければならない。しかしモンツァでパワーユニットのスペックCを投入してきたルノーといい、フェラーリやメルセデスAMGとのパワー差は小さくないとはいえ、車体性能でひっくり返すとまではいかなくともかなり挽回できる差であることがスパとモンツァで証明されたのも事実だ。

 トロロッソ・ホンダは第9戦オーストリアGPに投入した新型フロントウイングが不発で、空力パッケージとしては「いくつか細かなアップデートは入っているとはいえ、マシンの基礎的な部分はシーズン序盤からほとんど変わっていない」(ガスリー)という状態だ。

「だからこそマシンパッケージの全てを最大限に引き出すことが重要なんだ。ここ数戦ずっとポイント争いができているのは、まさにエンジニアもドライバーも含めてチームがマシンの全てを引き出せていることの証なんだ」(ハートレー)

 シーズン前半戦にはそのセットアップ面でダウンフォースとドラッグ、最高速の妥協点を見出す作業に失敗し、何度も苦戦を強いられてきた。しかしシーズン後半戦に突入してからの高速連戦をトロロッソ・ホンダは非常に上手く戦った。

 次は第16戦ロシアGP・第17戦日本GPの連戦をターゲットに開発が進められている空力パッケージのアップデートに期待がかかる。

「次のアップデートに向けては、今までに投入して機能しなかったものがどうして機能しなかったのかをしっかりと理解する必要があるし、開発段階や風洞のコラレーションをきちんと取る必要がある。中団グループはすごく接戦で0.1秒や0.15秒が大きなポジションアップに繋がるし、できるだけ早くアップデートを投入したいね」(ガスリー)

 シーズン後半戦に向けて、まだ希望が失われていないことを証明することができたトロロッソ・ホンダの高速2連戦だった。